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第2章ー魔道士ー
受ける
しおりを挟む『引き受けてくれるなら、“魔法の書”だけではなく、王家所有の書も読めるように手配しよう─』
「エサが…魅力的過ぎる!」
「エサ─って……まぁ…確かに、魔法の書や王家所有の書は……魅力的過ぎるわね。」
今日は、魔道士入門試験の3日後。午前中に合否発表が行なわれたが、今回、この試験会場からの合格者は居なかった。受験生には申し訳無いが……
“やっぱりね”
と言う感想しかなかった。
また2年後、頑張って欲しいな─と思う。
そして、王都からやって来ていた試験官のルシエント様は、お昼を食堂で食べた後、「良い返事を期待しているから」と、笑顔を振りまいて王都へと帰って行った。
その夜。ダレルさんに誘われて、リゼットと私は3人で行きつけのお店で夕食を取ることになった。
食べ始めた時はリゼットの話だったけど、途中からは私の話になり、何とも魅力的なエサの話となったのだ。
「それに、私としては、同じ城付きではなくても、ナディアと一緒に王都に行けるのなら、本当に嬉しい事だけどね。」
「私だって、リゼットが一緒なら…心強いし嬉しいけど……」
王都…それも、学園に通うとなれば、貴族とガッツリ付き合う事になる訳で─
あれから100年──しか経っていないのだ。
知り合いは居ないだろうけど…その関係者は居る訳で……。その関係者?子孫?を目にした時、私は普通で居られるのだろうか?また、心が乱されたりするのかも知れない。また、あの目に……
「ナディアがどうしても嫌なら、断っても良いと思うよ?ただ…ナディアは自分の事を“普通”だと言うけど、私は、ナディアはとても優秀な魔道士だと思っているよ。」
「ダレルさん…」
リゼットと私の会話を、静かに聞いていたダレルさんが口を開いた。
「それにね、ここに居るだけでは、魔道士として今以上に成長するのは難しいと思う。それに、ルシエント様の側に居るとい言う事は、助手として給料が貰えるのに、更に、そのルシエント様を近くで見れて勉強にもなる─と言う事だ。その上、禁書まで読める。一石二鳥にも三鳥にもなる。魔道士としてのこれからを考えるなら、ナディアは王都へと行くべきだと─私は思うよ。」
ダレルさんの言う事は…尤もだ。自立して、魔道士としてしっかりやっていきたいと言うのなら、ルシエント様の提案を喜んで受けるべきなんだ。
前世に囚われ過ぎ──なんだ。
でも、それも…そろそろ前に踏み出さなければ…いけないのかもしれない。
「……前向きに…考えてみます。」と言うと、ダレルさんは「うん。」とだけ答えて、優しく笑ってくれた。
その翌日は、私は休みの日だった。
1人になりたい時、考え事をしたい時は、必ずここにやって来る。
「──アーニーさん…」
ここは、前世の私が最期を迎えた修道院の裏の森の奥にある墓地。ここには、この修道院の修道女や関係者の為のお墓があり、その一つに“アーニー”と言う名が掘られた墓石があった。亡くなった年を見てみると、アレから25年後だったから、あの時、アーニーさんは無事だった─と言う事なんだろう。
その事が分かった時、アーニーさんが無事で良かった─と思う反面、アドリーヌを助けられなかった事に、自分で自分を責めていなかったら良いけど…と。いや、きっと、責めていただろうと思うと、申し訳無い気持ちでいっぱいになった。
「アーニーさん、あの時は助けてくれて、ありがとう。今世では……私も頑張って生きていきます。」
そう言うと、優しい風が舞い上がった。
「アーニーさん…私は…やっぱり王都に行くべきなのかなぁ?」
アーニーさんのお墓の前に座り、これからの事を考える。
ちなみに、アドリーヌのお墓も探してみたけど…何故かここには無かった。修道院に収められている修道女名鑑には、確かに100年程前の時代に“アドリーヌ”とあるのに、お墓が無い。勿論、何故無いのか─なんて訊ける筈も無いし、訊いたところで知っている人はいないだろう。それに──死に方が……アレだったから……醜聞を避けて、違う所に葬られた可能性だってある。
ー自分で自分のお墓を探す──何とも言えない…気持ちになるけど……ー
スペイシー侯爵家は、あれからどうなったのか─
『また来るから』と、お互い笑顔で挨拶したのが最後になってしまった。父と母は…大丈夫だっただろうか?
王都に行けば……それらの事も───
「アーニーさん……また、これからも私─ナディアを…見守っていてくれますか?」
『馬鹿アドリーヌ!当たり前じゃない!』
そんな声が、聞こえたような気がした。
その翌日、私は、王都に居るルシエント様に手紙を飛ばした。
“助手の提案を、お受けします”
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