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第2章ー魔道士ー

魔道士ナディア

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「おはようございます……」
「おは───どうしたの!?その顔!」

職場に着き、いつも通りに挨拶をすると、親友であり同じ魔道士でもあるリゼットが私の顔を見るなり、驚きの声を上げた。

「え?顔?いつも通りの平凡な顔だけど?何か?」
「違うから!そう言う意味じゃないから!それに、ナディアは可愛いから!──じゃなくて!」

リゼットの言いたい事は…分かっている。“顔色が良くない”のだろう。勿論、顔色が良くないだろう理由も分かっている。


“アドリーヌ=スペイシー”の夢をみたから。しかも──あの最期の時の夢を。




前世の記憶を思い出したのは10歳の頃だった。
もともと魔力量が多かった私は、魔力暴走を起こしてしまい、死の淵を彷徨い、私は三日三晩眠り続けた。その間に前世の記憶が夢となって一気に蘇ったのだ。



今世の私は──

孤児院育ちの平民─ナディア。
生まれたばかりの私は、孤児院の門の前に置かれていたそうだ。それでも、寂しい思いはなかった。私のような子が数人居て、優しいお母さん代わりの院長が居て、お互い助け合って楽しく過ごしていた。

前世の記憶がよみがえった時、もう二度と、あんな思いはしたくない─と思った。幸い、今世では貴族ではなく平民として生まれた。

“平民万歳!自由万歳!”─である。前世でも、修道女としての生活が楽しかった事を覚えている。それに、アドリーヌとは違って、今世のナディアわたしは既に家事洗濯が普通にできる上に、魔力量が多かった。魔力量が多いと言う事は、魔道士になれる可能性が高いと言う事。魔道士になれると言う事は──

“男に頼らず自立できる”─と言う事である。



記憶がよみがえった時は、彼のあの目を思い出し、暫くの間は恐怖でまともに食事をする事もできなくなった。何故そんな状態に陥ったのか、周りの皆は心配してくれたけど、“前世での最期を思い出したから”なんて事は勿論言える筈もなく……。それでも、ただ震えて蹲るだけの私に、皆は何も言わずに寄り添ってくれた。そんな皆の優しさのお陰で、私は直ぐに落ち着きを取り戻して、それからの事を考えた。

先ずした事は、が一体いつなのか。
記憶がよみがえって一番驚いたのは……今居る場所だった。私が住んでいる孤児院は、前世で私が入っていた修道院に隣接している孤児院だったのだ。アドリーヌだった時も、よくこの孤児院に訪れて、子供達に字や計算を教えていたのだ。その時の様子と、あまり変わらない孤児院。数年前に修繕された為、寧ろ以前より綺麗になっていた。
そうして、色々調べてみると、アドリーヌが死んでから、100年程しか経っていなかった事が分かった。100年ぐらいだと、アドリーヌと関係があった者の関係者がまだ居ると言う事だ。

ー200年後とかにしてくれれば良かったのにー

なんて、贅沢?な事は言っては……駄目なんだろうけど…。でも、貴族ではなく、王都でもない事には感謝だ。田舎領地の平民で万々歳だ!

それから私は魔道士になるべく頑張った。
前世の記憶があるお陰で、学校に通わなくても勉強や魔法に関しての知識があったから、1人で何とかする事ができた。

ただ、“魔力量が多いイコール強い”ではないらしく、私は風属性で、色んな風の魔法は使えるけど、威力は至って普通。攻撃魔法も守護魔法も使えるけど強力ではない。ただ、持久力?に優れているようだ。そう。他人ひとより長く魔法が使えるのだ。人が持つ魔力の量はそれぞれ違っていて、使える魔法も限られて来る。それが、私は細々とではあるが、色んな魔法が使えて、ある程度魔力を消費しても……殆ど魔力量が減らない。それ位の魔力量がある─と言う事だ。
そのお陰か、2年に一度行われる魔道士の入門試験には一度で合格して、2年後には正式に魔道士となり、今では住んでいる領地の役所の“魔法科”に勤めている。

仕事内容は、魔法や魔獣など、“魔”に関するモノに対処する事─ある意味“何でも屋”みたいなものだ。魔獣が出て来ると、騎士との共同作業になったりもするけど、前世の事があっても、いまのところ男性に対しての恐怖心は無い。

「それで…ナディア、大丈夫?」

改めてリゼットに名を呼ばれてハッとする。

「あーうん。大丈夫。ちょっと緊張して、あまり眠れなかっただけだから。」

「あーなるほどね!」

と、リゼットはクスクスと笑う。

「今日じゃなければ、ナディアには休んでもらうところだけど…今日だけは頑張ってちょうだい。」

「ええ、勿論よ!」


そう。今日は特別な日─2年に1度行われる魔道士の入門試験の日である。
地方の領地で行われる試験には、平民が多い。勿論貴族も居るが、貴族で魔道士を目指す者の殆どは王都で試験を受ける。試験内容や合格基準は地方でも王都でも一緒なのだが、まぁ………貴族としての見栄もあるのかもしれない。お貴族様とは…なんとも面倒臭いモノだったなぁ─と、今では笑えてしまうものなのだ。
     

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