贄の令嬢はループする

みん

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❋新しい未来へ❋

76 甘い一時

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五度目にしてようやく、馬鹿4人組馬鹿ルテットを牢獄に放り込む事ができた─までは良かった。
そこからが……苦痛極まりない日々の始まりだった。

とんでもなく、すべき事が多かった……多過ぎた。
黒龍自分の事だけではなく、守護国であるトルトニアとトワイアルが関わり、その上アルクシェリア女神の遣い龍である黒龍オレの番が関わっていたのだ。他の誰に任せる事も出来ず、全てが俺を中心に処理をする必要があったのだ。
まぁ、トワイアルに関しては、宰相のサミュエルとトルトニア王太子メレディスが、トルトニアに関しては現国王と王妃が良い働きをしてくれたお陰で、予定より早く処理をする事ができたが…。
本当に、血が繋がっていても、その個人個人で全く違うのだな─と言う事がよく分かった。マトモな者からでも、気持ち悪い者や馬鹿が生まれるのだ。

もし自分に子ができたら───

ーうん。可愛いしかないなー

俺に似た子ではなく、イヴに似た女の子が生まれたら─

ーうん。嫁には出せないなー

「…………イヴが足りない…………」

そう。忙し過ぎて、イヴに全く会えていないのだ。正確に言うと、に会えていない。毎日毎日多過ぎる色んな執務や処理を終えて気が付くと、日付けが変わっているのだ。それでも─と、取り敢えず浮島の邸に帰るのだが、勿論、学生であるイヴは、既に夢の中に居るわけで───

ベッドの上でスヤスヤと眠る可愛いイヴを見るだけの日々を過ごす事になった。

ーいや、寝顔のイヴも可愛いしかないけどー

声が聞きたい──
その綺麗なラベンダー色の瞳が見たい──

ー本当に…眠っているだけ…だろうか?ー

最強の黒龍と言われていても、怖いモノがある。
寝ていると分かっていても“もしかして…”と恐ろしくなってしまうのだ。

「イヴ……」

こんな事をしていると知られると、イヴは怒るかもしれない…嫌われてしまうかもしれない─と思いつつも、俺は……イヴを起こさないように……唇に触れるだけのキスをする。

ー柔らかくて…温かいー

それでようやく安心するのだ。

「おやすみ……イヴ」

そして、イヴの枕元に1輪の花を置いて、俺はまた王城へと戻る。花を置いて行くのは──

イヴが俺を忘れないように。イヴが俺を想ってくれるように。

俺が、イヴを想っている─と、分かってもらう為に。







******


そして、ある程度落ち着いて、ようやく早い時間に仕事が終わり、アラールとニノンに温かい目で見送られながら、浮島の邸のイヴの部屋へとやって来てみれば──

「アラスターさん…だよね?」
「…アラスターが………どうかした?」
「ひゃあっ!!??」

いつもより低い声になり、そのまま背中からイヴを抱きしめた。

ー何故俺の名前ではなく、アラスターなんだ?ー

「フィル!?」
「アラスターがどうした?何かされたのか?よし、今すぐアラスターを呼───」
「フィル!」
「っ!?」

イヴが俺の腕の中でクルンッと回って、正面から抱きついて来た。

ーゔっ─可愛いか!“クルンッ”って、音が聞こえたからな!?しかも……イヴが俺に抱きついて来た!!ー

「ごっ──ごめんなさい!」と謝りながら離れようとするイヴを「離すまい!」と、更にギュウッと抱きしめた。
「フィ───」
「俺に抱きつくイヴが可愛い!可愛いイヴが足りない!!」
「ふぐぅ──っ!!」
変な声ソレも可愛い!」

ーイヴは何をしても言っても可愛いしかない!ー

「フィル!ちょっ…だか…ら、圧死するからね!?」
「っ!!すまない!!」

と、慌てて力を緩める。このやり取りも久し振りだ。

「ふふっ。フィル……おかえりなさい」

と言われれば、胸がギュッとなる。

「イヴ……ただいま」

そう言ってお互い笑い合った後、久し振りに、起きているイヴとキスをした。




その後、最近のイヴの話を聞いているうちにイヴが寝てしまい、イヴをベッドに運んで───どうしても離れ難くて、イヴを俺の腕に閉じ込めたまま一緒にベッドに潜り込んだ。
イヴの寝顔を見ていたかったけど、俺も疲れていたし、イヴの温もりに安心してしまい、俺も直ぐに眠りに落ちた。






ーイヴが…俺の腕の中に居るー

朝、目を覚ますと、俺の腕の中で寝ているイヴが居た。昨日、俺がそうして寝たのだから当たり前の事なんだけど………朝一でイヴを見られるとは……幸せ以外の何物でもない。

「んー………」と言いながらモゾモゾと動いた後、目を覚ました──のは良いが、寝起きのせいか、目がトロンとしていて……やっぱり可愛い。

「ん?フィル?」
「おはよう…イヴ」
「フィルだ………おはよう……」
「っ!!??」

嬉しそうに笑って挨拶をした後、イヴからキスをされた──だと!?

「フィルからのお花も嬉しかったけど…やっぱり…フィルの方が好き………」
「ごふっ─────なっ!!??イ───」
「…………」

腕の中のイヴを見れば、またスヤスヤと眠っていた。

「くっ────」

どうやら、寝ぼけていたようだ──が…。

「寝ぼけていたとしても…無自覚だとしても………煽ったイヴが悪い……起きたら………覚悟しておけよ?」
「……うーん……………」
「ゔっ──」

寝ぼけたまま俺に抱きついて来るイヴは………やっぱり可愛いが………

「俺は、何かを試されているんだろうか?」








それから、起きたイヴを攻めまくった俺は………悪くない………よな?

「フィ……の……バカ…………」

ーうん。グッタリして涙目で睨まれても……可愛いだけだからな?ー






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