贄の令嬢はループする

みん

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トワイアルの先代の国王は、病弱ながらも良き王だった。王妃もまた、病弱な国王をしっかり支える良き王妃だった。
現国王も王太子だった頃は、特に問題がないように見えた。国王父親が病弱な事もあり、帝王学については少し厳しく学ばされてはいたが、投げ出す事はなく学んでいたし、信頼もしていた。

それが─

現国王が王位に就いてから、先王と王太后が相次いで亡くなると、王妹は婚約者ではない辺境伯の元へと降嫁された。それは、過去四度とも同じで、五度目の今世でも、その辺境伯の元へと降嫁していたのだか──

そこでの彼女は、有り得ない待遇をされていた。

旦那となった辺境伯は50歳を超えていて、既に本妻と、妾が3人も居たのだ。そこに入って来た彼女は、白い結婚どころか、別邸に魔力封じの枷を嵌められた上で監禁状態で放置されていた。食事は1日1食あれば良い方で、“生かさず殺さず”状態だった。

現国王よりも王妹の方が優秀だった。
現国王よりも魔力も多かった。
現王妃は元伯爵令嬢で、王妹の婚約者が、トワイアル筆頭の公爵家嫡男だった。

それらが理由だろう。後ろ盾の大きな婚約者と結婚すれば、自分より優れている妹に王位を脅かされると。

その王妹は、極秘裏にカデライル侯爵が保護していて、今は竜王国内で療養中だ。




「親が能無しなら、子も能無しになるんだな。悪知恵だけは働くようだが…」
「いくらフィリベール様とは言え…無礼ではなくて?」
「無礼にはならない。無礼なのは、お前の方だからな。」

牢に入れられてもなお、態度を改める事がない馬鹿女。ある意味“流石だな”とさえ思う。

「俺にイーリャの実が効かないのは、俺には既に番が居るからだ」
「え?番が?でも…まさか──」
「そう。その“まさか”だ。お前達が持っていた研究結果には無かったが、イーリャの実は、番が居る者には効かないんだ」
「でも…フィリベール様は私の事を───」
「俺が、お前の事を一度でも“好きだ”“愛してる”と言った事があったか?それは無い。一度もない。俺は、俺の唯一無二の番以外の女に“好きだ”“愛してる”など絶対に言わない。ただ、イーリャの実が効いているよう装っただけだ」
「何故…そんな………」
「何故?か──それは、お前達の狙いを確認する為と、お前達を油断させておいて調べて証拠を揃える為だ」
「なっ!?」
「だから、もう、お前は言い逃れはできない。お前達親子は……排除決定だ」
「排除!?」

馬鹿女の顔色が一瞬にして真っ青になる。

「排除……それは……少し重過ぎないかしら?私は…ただ……伯爵家の次男に………」
「あぁ…トワイアルの国王には知らせていなかったから、知らなかっただろうが………現竜王の容姿は、黒色の髪に…………濃藍色の瞳をしているんだ」
「───え?」

ハッと俺を見上げる馬鹿女の目は、大きく見開かれている。

「そうだ。お前は、竜王に禁忌とされているイーリャの実を使用したんだ。そして、その竜王の番であるエヴェリーナ=ハウンゼントを陥れようとした。その意味…馬鹿でも分かるな?お前は、アルクシェリア女神の遣い龍と、その遣い龍の後継ぎを生む存在に手を出したんだ。それに、黒龍の巫女の選定式の時にもイーリャの実を使用したと言う事は……アルクシェリア女神に対する冒涜となる。それらを容認したトワイアル国王と王妃も同罪だ。一切の酌量の余地は無い。もう二度と、明るい場所に行けると思うな。今、ここに居る事が最後の幸せだと思う事だな」

「そんな………私……」

その場に崩れ落ちカタカタと震える馬鹿女。
この馬鹿女も、最初は親に言われたままに行動していたんだろう。そこで悔い改めれば酌量の余地もあったかもしれないが、結局は同じ事を五度も繰り返したのだ。この馬鹿女もそう言う人間だったと言う事だ。

「あぁ…重い処罰になるとは言っても……楽に死ねるとは思わない事だな。」
「……え?」

そう。簡単には死なせない。過去の記憶がないだろうが、俺達は四度も苦しみを味わったのだ。その分は、キッチリとお前達にも味わってもらう。

「それじゃあ……次にお前に会うのを…楽しみにしている」
「っ!?」

今迄にない微笑みを向ければ、馬鹿女はヒュッと息を呑んだ後、気を失ってその場に倒れた。

「医師を呼びますか?」
「要らないだろう。これぐらいの事で死ぬような女でもないからな」

倒れた馬鹿女をそのままにして、俺とニノンは地下牢を後にした。





その翌日、オーウェンと数名の竜騎士をトワイアル王国へと送り込み、国王と王妃を拘束し、竜王国の王城の地下牢へと放り込んだ。その、トワイアル王国の王の不在の間は、今回の件には全く関与していなかった宰相と、補佐としてトルトニアの王太子メレディスが暫くの間、王の代行を務める事になった。
トワイアルの貴族達の反発はあったが、国王達の行いを公表すると、それ以降反発する者は居なくなった。








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