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❋新しい未来へ❋
57 トラウマ
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「エヴェリーナ様、陛下がお呼びなので、一緒に来ていただけますか?」
「はい、行きます」
浮島の邸で春休暇の課題をしていると、ニノンさんが私を迎えに来た。
私がフィル─竜王の正式な番となってからは、ニノンさんからは“エヴェリーナ様”と呼ばれるようになった。勿論、王城以外では“ハウンゼントさん”呼びのままだ。
ニノンさんに連れられてやって来たのは、王城にあるフィルの執務室だった。
「陛下、エヴェリーナ様をお連れしました」
「ありがとう。入ってくれ」
「─っ!?」
執務室に入って直ぐに気が付いた。
ーあの甘い香りがする!ー
ヒュッと息を呑む。足が動かなくなる。
ーもう、何ともないと思っていたのにー
この香りがイーリャの実の香りだと分かっているけど、どうしても、“この香り=私の最期”に繋がってしまうのだ。体が強張ってしまって動けない。
「イヴ?」
フワリ─と、そんな私を優しく包んでくれたのは──
「フィル……あ…ごめんなさい……」
ギュッとフィルの服を握りしめて、フィルの腕の中で深呼吸を繰り返した。
「あの、本当にすみません!」
気持ちが落ち着いた瞬間、ハッと我に返り……この部屋にフィルとニノンさん以外に、宰相様が居た事に気が付いた。
「謝らなくて良いから。大丈夫か?浮島の邸に戻るか?」
「大丈夫です……あの…この香り…イーリャの実ですよね?」
恐る恐る訊くと、フィルと宰相様とニノンさんがピクッ─と反応した。
「やっぱり…香りがするのか?」
「え?あ…はい。甘い香りがしてますね。あれ?ひょっとして…皆さんには分からないんですか?」
3人ともが頷いた。こんな甘くてすぐ分かる香りなのに…。
「さっき、トワイアル王女に付けられたんだろうな」
「え?」
そう言って、フィルが忌々しそうに自分の左腕を見ている。どうやら、今日、フィルは“フィリベール=スコルッシュ”としてジュリエンヌ様と接触をしたらしく、その時にジュリエンヌ様が仕掛けてきたそうだ。
「あの、フィルは…大丈夫?本当に、大丈夫!?」
ーフィルの気持ちが、ジュリエンヌ様に向いていたら、どうする!?ー
「イヴ、落ち着いて?俺なら大丈夫。全く問題無い。今だって目の前のイヴが可愛くて仕方なくて、このまま浮島に連れ帰ってしまおうか?とか、ニノンとアラールがここに居なかったらなぁ…とかしか考えてないくらい、イヴにしか気持ちが向いてないから」
「───なっ!?」
「「……………」」
ーそれはそれで………何とも言えない……ある意味、羞恥プレイですよね!?ー
宰相様とニノンさんの目が生暖かくなっているように見えるのは……気のせいにしておきます。
「それで……私は何をすれば良いんですか?」
先ずは落ち着こう─と言う事で、ニノンさんがお茶を淹れてくれて一息ついてから、フィルに質問した。
「あぁ、それなら、もう済んだ」
「はい?」
「イーリャの実が使われたかどうか─イヴに確かめてもらおうと思ったんだ」
ーなるほど。なら、もう確認済みだー
「これで、あの女を追い詰められますね」
「一気にいきたいところだが……まだまだ調子に乗らせておこう。馬鹿王子がどう出て来るか分からないからな」
馬鹿王子とは……きっと、ハロルド様の事だろう。彼もまた、四度目の時と同じ事を繰り返したんだろう。メザリンド様は、理由はどうであれ、あれ程ハロルド様の事を思ってくれていたのに。そこまでして、どうして私に執着しているのか……全く分からない。ここまで来ると、正直、「気持ち悪い」としか思えない。
「後は…物的証拠の確保だな。あの女が持ってるイーリャの実と、コレをすり替えておいてくれ」
「誰に言ってるの?」と不思議に思っていると、どこからともなく人が現れて、フィルが手にしていた小瓶を受け取り「承知」とだけ言うと、その人はまた消えて居なくなった。
「…………」
ニノンさんも宰相様も、特に驚いた様子もない。
ーうん。見なかった事にしておこう。でも…ー
「あの小瓶の中身は……」
「何だと思う?まぁ……自業自得なモノだ」
「?」
“自業自得なモノ”とは一体何なのか……結局は教えてはくれなかったけど、私もそれ以上訊くのは止めておいた。
それからフィルがニノンさんと宰相様にいくつかの指示を出した後、私は何故かフィルに横抱きにされて、笑顔のニノンさんと宰相様に見送られながら浮島の邸へ戻って来た。
「イヴ、話したくない事なら無理に話す事はないんだけど……イーリャの実の甘い香りに対して、何か…あったりするのか?」
「あ………」
ー流石に、フィルも気付くよねー
隠していても仕方無いと、私はあの甘い香りについて正直に話をした。
あの甘い香りがした夜は、いつもより寝付きが良かった事。
でも、次に目が覚めると黒龍の目の前に居て、最期を迎えていた事。
だから、その香りには敏感に反応してしまう事。
「ある種の…トラウマかもしれませんね」
「イヴ………ごめん………」
ソファーに座っているフィルに、横抱きにされたまま更にギュッと抱きしめられた。
「悪いのは、イーリャの実を使用したジュリエンヌ様であって、フィルじゃないから、謝らないで下さい。それに……こうやって抱きしめてくれたら、すごく安心します」
「それなら、いつだって…いくらでも抱きしめるから」
「………ありがとう」
すっかり安心してしまったせいか、私そのままフィルの腕の中で寝落ちしてしまった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
♡٩(*ˊᗜˋ)۶٩(ˊᗜˋ*)۶♡
「はい、行きます」
浮島の邸で春休暇の課題をしていると、ニノンさんが私を迎えに来た。
私がフィル─竜王の正式な番となってからは、ニノンさんからは“エヴェリーナ様”と呼ばれるようになった。勿論、王城以外では“ハウンゼントさん”呼びのままだ。
ニノンさんに連れられてやって来たのは、王城にあるフィルの執務室だった。
「陛下、エヴェリーナ様をお連れしました」
「ありがとう。入ってくれ」
「─っ!?」
執務室に入って直ぐに気が付いた。
ーあの甘い香りがする!ー
ヒュッと息を呑む。足が動かなくなる。
ーもう、何ともないと思っていたのにー
この香りがイーリャの実の香りだと分かっているけど、どうしても、“この香り=私の最期”に繋がってしまうのだ。体が強張ってしまって動けない。
「イヴ?」
フワリ─と、そんな私を優しく包んでくれたのは──
「フィル……あ…ごめんなさい……」
ギュッとフィルの服を握りしめて、フィルの腕の中で深呼吸を繰り返した。
「あの、本当にすみません!」
気持ちが落ち着いた瞬間、ハッと我に返り……この部屋にフィルとニノンさん以外に、宰相様が居た事に気が付いた。
「謝らなくて良いから。大丈夫か?浮島の邸に戻るか?」
「大丈夫です……あの…この香り…イーリャの実ですよね?」
恐る恐る訊くと、フィルと宰相様とニノンさんがピクッ─と反応した。
「やっぱり…香りがするのか?」
「え?あ…はい。甘い香りがしてますね。あれ?ひょっとして…皆さんには分からないんですか?」
3人ともが頷いた。こんな甘くてすぐ分かる香りなのに…。
「さっき、トワイアル王女に付けられたんだろうな」
「え?」
そう言って、フィルが忌々しそうに自分の左腕を見ている。どうやら、今日、フィルは“フィリベール=スコルッシュ”としてジュリエンヌ様と接触をしたらしく、その時にジュリエンヌ様が仕掛けてきたそうだ。
「あの、フィルは…大丈夫?本当に、大丈夫!?」
ーフィルの気持ちが、ジュリエンヌ様に向いていたら、どうする!?ー
「イヴ、落ち着いて?俺なら大丈夫。全く問題無い。今だって目の前のイヴが可愛くて仕方なくて、このまま浮島に連れ帰ってしまおうか?とか、ニノンとアラールがここに居なかったらなぁ…とかしか考えてないくらい、イヴにしか気持ちが向いてないから」
「───なっ!?」
「「……………」」
ーそれはそれで………何とも言えない……ある意味、羞恥プレイですよね!?ー
宰相様とニノンさんの目が生暖かくなっているように見えるのは……気のせいにしておきます。
「それで……私は何をすれば良いんですか?」
先ずは落ち着こう─と言う事で、ニノンさんがお茶を淹れてくれて一息ついてから、フィルに質問した。
「あぁ、それなら、もう済んだ」
「はい?」
「イーリャの実が使われたかどうか─イヴに確かめてもらおうと思ったんだ」
ーなるほど。なら、もう確認済みだー
「これで、あの女を追い詰められますね」
「一気にいきたいところだが……まだまだ調子に乗らせておこう。馬鹿王子がどう出て来るか分からないからな」
馬鹿王子とは……きっと、ハロルド様の事だろう。彼もまた、四度目の時と同じ事を繰り返したんだろう。メザリンド様は、理由はどうであれ、あれ程ハロルド様の事を思ってくれていたのに。そこまでして、どうして私に執着しているのか……全く分からない。ここまで来ると、正直、「気持ち悪い」としか思えない。
「後は…物的証拠の確保だな。あの女が持ってるイーリャの実と、コレをすり替えておいてくれ」
「誰に言ってるの?」と不思議に思っていると、どこからともなく人が現れて、フィルが手にしていた小瓶を受け取り「承知」とだけ言うと、その人はまた消えて居なくなった。
「…………」
ニノンさんも宰相様も、特に驚いた様子もない。
ーうん。見なかった事にしておこう。でも…ー
「あの小瓶の中身は……」
「何だと思う?まぁ……自業自得なモノだ」
「?」
“自業自得なモノ”とは一体何なのか……結局は教えてはくれなかったけど、私もそれ以上訊くのは止めておいた。
それからフィルがニノンさんと宰相様にいくつかの指示を出した後、私は何故かフィルに横抱きにされて、笑顔のニノンさんと宰相様に見送られながら浮島の邸へ戻って来た。
「イヴ、話したくない事なら無理に話す事はないんだけど……イーリャの実の甘い香りに対して、何か…あったりするのか?」
「あ………」
ー流石に、フィルも気付くよねー
隠していても仕方無いと、私はあの甘い香りについて正直に話をした。
あの甘い香りがした夜は、いつもより寝付きが良かった事。
でも、次に目が覚めると黒龍の目の前に居て、最期を迎えていた事。
だから、その香りには敏感に反応してしまう事。
「ある種の…トラウマかもしれませんね」
「イヴ………ごめん………」
ソファーに座っているフィルに、横抱きにされたまま更にギュッと抱きしめられた。
「悪いのは、イーリャの実を使用したジュリエンヌ様であって、フィルじゃないから、謝らないで下さい。それに……こうやって抱きしめてくれたら、すごく安心します」
「それなら、いつだって…いくらでも抱きしめるから」
「………ありがとう」
すっかり安心してしまったせいか、私そのままフィルの腕の中で寝落ちしてしまった。
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