贄の令嬢はループする

みん

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❋新しい未来へ❋

54 春休暇

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『春の長期休暇の間、黒龍の巫女の見習いとして、竜王国で過ごす事をお許しいただけますでしょうか?』


ジュリエンヌ様から、そう書かれた手紙が届いたのは、フィルと庭園でお茶をしながら話を聞いた翌日だった。



「勿論受け入れてやる。アルピーヌとマリーとアルマにも伝えてくれ。“しっかり頼む”と」
「承知しました。」

そう言うと、宰相様はすぐに執務室から出て行き、ニノンさんがジュリエンヌ様への返事の手紙を書き出した。

「ジュリエンヌ様を受け入れると言う事は、王城で過ごす事になるんですよね?」
「そうなるな。腐っても王女だからな。それに、手元に置いておいた方が監視しやすいのもあるな」

と言う事は、今世でもやっぱり、ジュリエンヌ様と顔を合わせる可能性があると言う事だ。
ハロルド様とは違って、フィルが私を裏切るなんて事はないと思うけど……2人並んだ姿を想像すると……美男美女でお似合いだなんて……勝手に思ってしまっているだけなのに、モヤモヤした気持ちになってしまう。

「黒龍の巫女見習いとして来るから、王城と言うよりは、敷地内の奥にある神殿で過ごす事になる。そこで……アルピーヌとマリーとアルマが喜んで相手をしてくれるだろう」

マリーさんとアルマさんは、竜人の黒龍の巫女で、過去の記憶はないそうだけど、過去の4回とも、竜王から番だと紹介されたにも関わらず、ジュリエンヌ様に対して距離を取って接していたそうだ。

「黒龍を守る者として、あの女は番ではないと、本能的に感じていたのかもしれないな」

と、フィルが言っていた通りで、私がフィルの番となって暫くしてから2人を紹介された時、2人とも涙を流しながら喜んで私を迎え入れてくれた。「これで、若き王も安心、安泰ですね」「先代の竜王陛下も、きっとお喜びですよ」なんて言っていたから、きっとあの2人の巫女も見た目が若いベテランの巫女なんだろう。
見た目、私と年齢が同じに見えるフィルも、まさかの50歳オーバーだった。

「私は……その間は学園の寮で過ごせばい──」
「イヴは、浮島の邸で過ごすようにしてあるから。毎日必ず浮島の邸に帰るから、邸で待っていて欲しい。勿論、昼間はニノンかオーウェンと一緒なら街に出たり好きな事をしても良いから。」
「わ…分かった。えっと…浮島の邸で、お世話になりますね」

素直に頷くと、フィルは嬉しそうに笑ってくれた。
勿論、私だって、フィルと一緒に居られる事は嬉しい。

「それと、その春休暇の間に、イヴに見せたい本もあるから、時間のある時にでも見て欲しい」
「見せたい本?」
「前に話した事だけど、“古代龍の言葉の書”だ」

“古代龍の言葉の書”

世界最強の黒龍に何かあった時に、黒龍を止める為に作られた言葉で、黒龍の番だけに継承されるモノだ。
番としてその言葉をしっかり覚えようとは思っているけど、私が生きている間使う事が無い事を願う。

「直ぐに覚える自信はないけど、ゆっくり…頑張って覚えますね!でも……その言葉を使わせないようにして下さいね!」
「それは、イヴが俺の側に居てくれる限り、使わせる事はない。」

頬に手を添えられて、軽くキスをされた。
初めてキスをしてから、フィルはサラッと流れるようにキスをして来る。何度されても私は慣れないし、心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらい騒ぐのに、フィルはいつも涼しい顔をしている。

ー何となく…悔しいー

いつか、フィルにも仕返ししたい─と思っている。驚いた顔のフィル……うん、見てみたい!


なんて、軽い気持ちでフィルへの仕返しを考えていた私が、その事を後悔するのは、もう少し後の話である。



「イヴが可愛いのが悪い」
「何でそうなるの!?」











*****


「本日より、宜しくお願い致します」

春休暇に入ってから3日目。
ジュリエンヌ様が竜王国へとやって来た。

“時間の無駄になるから、トワイアルには帰って来なくて良い”と、トワイアル国王からも言われたらしく、トワイアルには帰らず、そのまま竜王国の王城へとやって来たそうだ。
そこで、ジュリエンヌ様を出迎えたのは、大神官様とマリーさんとアルマさんと宰相様。
その4人の面子に、ジュリエンヌ様は一瞬だけ顔を顰めたそうだけど、その次の瞬間には微笑みを浮かべながら挨拶をしたらしい。

「竜王らしき人物が居なかったのが、気に食わなかったんでしょうね。王女であったとしても、誰が、あの女の為に陛下が態々出迎えると言うのか…“我一番”と育てられた王女は性格をしていますね」

宰相様が、毒舌全開だった。

その後は、そのまま王城を突き抜けて、敷地内の奥にある神殿へと案内されて行ったそうだ。

「一国の王女様なのに…そんな対応をして大丈夫なんですか?」と訊けば、「王女である前に、自分で“黒龍の巫女見習いとして”と言って来ているので、何の問題もありません」と、ピシャリッと宰相様が言い切った。

その時の宰相様の笑顔は、とても綺麗だった。








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