54 / 84
❋新しい未来へ❋
54 春休暇
しおりを挟む
『春の長期休暇の間、黒龍の巫女の見習いとして、竜王国で過ごす事をお許しいただけますでしょうか?』
ジュリエンヌ様から、そう書かれた手紙が届いたのは、フィルと庭園でお茶をしながら話を聞いた翌日だった。
「勿論受け入れてやる。アルピーヌとマリーとアルマにも伝えてくれ。“しっかり頼む”と」
「承知しました。」
そう言うと、宰相様はすぐに執務室から出て行き、ニノンさんがジュリエンヌ様への返事の手紙を書き出した。
「ジュリエンヌ様を受け入れると言う事は、王城で過ごす事になるんですよね?」
「そうなるな。腐っても王女だからな。それに、手元に置いておいた方が監視しやすいのもあるな」
と言う事は、今世でもやっぱり、ジュリエンヌ様と顔を合わせる可能性があると言う事だ。
ハロルド様とは違って、フィルが私を裏切るなんて事はないと思うけど……2人並んだ姿を想像すると……美男美女でお似合いだなんて……勝手に思ってしまっているだけなのに、モヤモヤした気持ちになってしまう。
「黒龍の巫女見習いとして来るから、王城と言うよりは、敷地内の奥にある神殿で過ごす事になる。そこで……アルピーヌとマリーとアルマが喜んで相手をしてくれるだろう」
マリーさんとアルマさんは、竜人の黒龍の巫女で、過去の記憶はないそうだけど、過去の4回とも、竜王から番だと紹介されたにも関わらず、ジュリエンヌ様に対して距離を取って接していたそうだ。
「黒龍を守る者として、あの女は番ではないと、本能的に感じていたのかもしれないな」
と、フィルが言っていた通りで、私がフィルの番となって暫くしてから2人を紹介された時、2人とも涙を流しながら喜んで私を迎え入れてくれた。「これで、若き王も安心、安泰ですね」「先代の竜王陛下も、きっとお喜びですよ」なんて言っていたから、きっとあの2人の巫女も見た目が若いベテランの巫女なんだろう。
見た目、私と年齢が同じに見えるフィルも、まさかの50歳オーバーだった。
「私は……その間は学園の寮で過ごせばい──」
「イヴは、浮島の邸で過ごすようにしてあるから。毎日必ず浮島の邸に帰るから、邸で待っていて欲しい。勿論、昼間はニノンかオーウェンと一緒なら街に出たり好きな事をしても良いから。」
「わ…分かった。えっと…浮島の邸で、お世話になりますね」
素直に頷くと、フィルは嬉しそうに笑ってくれた。
勿論、私だって、フィルと一緒に居られる事は嬉しい。
「それと、その春休暇の間に、イヴに見せたい本もあるから、時間のある時にでも見て欲しい」
「見せたい本?」
「前に話した事だけど、“古代龍の言葉の書”だ」
“古代龍の言葉の書”
世界最強の黒龍に何かあった時に、黒龍を止める為に作られた言葉で、黒龍の番だけに継承されるモノだ。
番としてその言葉をしっかり覚えようとは思っているけど、私が生きている間使う事が無い事を願う。
「直ぐに覚える自信はないけど、ゆっくり…頑張って覚えますね!でも……その言葉を使わせないようにして下さいね!」
「それは、イヴが俺の側に居てくれる限り、使わせる事はない。」
頬に手を添えられて、軽くキスをされた。
初めてキスをしてから、フィルはサラッと流れるようにキスをして来る。何度されても私は慣れないし、心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらい騒ぐのに、フィルはいつも涼しい顔をしている。
ー何となく…悔しいー
いつか、フィルにも仕返ししたい─と思っている。驚いた顔のフィル……うん、見てみたい!
なんて、軽い気持ちでフィルへの仕返しを考えていた私が、その事を後悔するのは、もう少し後の話である。
「イヴが可愛いのが悪い」
「何でそうなるの!?」
*****
「本日より、宜しくお願い致します」
春休暇に入ってから3日目。
ジュリエンヌ様が竜王国へとやって来た。
“時間の無駄になるから、トワイアルには帰って来なくて良い”と、トワイアル国王からも言われたらしく、トワイアルには帰らず、そのまま竜王国の王城へとやって来たそうだ。
そこで、ジュリエンヌ様を出迎えたのは、大神官様とマリーさんとアルマさんと宰相様。
その4人の面子に、ジュリエンヌ様は一瞬だけ顔を顰めたそうだけど、その次の瞬間には微笑みを浮かべながら挨拶をしたらしい。
「竜王らしき人物が居なかったのが、気に食わなかったんでしょうね。王女であったとしても、誰が、あの女の為に陛下が態々出迎えると言うのか…“我一番”と育てられた王女は痛い性格をしていますね」
宰相様が、毒舌全開だった。
その後は、そのまま王城を突き抜けて、敷地内の奥にある神殿へと案内されて行ったそうだ。
「一国の王女様なのに…そんな対応をして大丈夫なんですか?」と訊けば、「王女である前に、自分で“黒龍の巫女見習いとして”と言って来ているので、何の問題もありません」と、ピシャリッと宰相様が言い切った。
その時の宰相様の笑顔は、とても綺麗だった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
*.*⸜(*ˊᗜˋ*)⸝*.**ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤ ꕤ*.゚
ジュリエンヌ様から、そう書かれた手紙が届いたのは、フィルと庭園でお茶をしながら話を聞いた翌日だった。
「勿論受け入れてやる。アルピーヌとマリーとアルマにも伝えてくれ。“しっかり頼む”と」
「承知しました。」
そう言うと、宰相様はすぐに執務室から出て行き、ニノンさんがジュリエンヌ様への返事の手紙を書き出した。
「ジュリエンヌ様を受け入れると言う事は、王城で過ごす事になるんですよね?」
「そうなるな。腐っても王女だからな。それに、手元に置いておいた方が監視しやすいのもあるな」
と言う事は、今世でもやっぱり、ジュリエンヌ様と顔を合わせる可能性があると言う事だ。
ハロルド様とは違って、フィルが私を裏切るなんて事はないと思うけど……2人並んだ姿を想像すると……美男美女でお似合いだなんて……勝手に思ってしまっているだけなのに、モヤモヤした気持ちになってしまう。
「黒龍の巫女見習いとして来るから、王城と言うよりは、敷地内の奥にある神殿で過ごす事になる。そこで……アルピーヌとマリーとアルマが喜んで相手をしてくれるだろう」
マリーさんとアルマさんは、竜人の黒龍の巫女で、過去の記憶はないそうだけど、過去の4回とも、竜王から番だと紹介されたにも関わらず、ジュリエンヌ様に対して距離を取って接していたそうだ。
「黒龍を守る者として、あの女は番ではないと、本能的に感じていたのかもしれないな」
と、フィルが言っていた通りで、私がフィルの番となって暫くしてから2人を紹介された時、2人とも涙を流しながら喜んで私を迎え入れてくれた。「これで、若き王も安心、安泰ですね」「先代の竜王陛下も、きっとお喜びですよ」なんて言っていたから、きっとあの2人の巫女も見た目が若いベテランの巫女なんだろう。
見た目、私と年齢が同じに見えるフィルも、まさかの50歳オーバーだった。
「私は……その間は学園の寮で過ごせばい──」
「イヴは、浮島の邸で過ごすようにしてあるから。毎日必ず浮島の邸に帰るから、邸で待っていて欲しい。勿論、昼間はニノンかオーウェンと一緒なら街に出たり好きな事をしても良いから。」
「わ…分かった。えっと…浮島の邸で、お世話になりますね」
素直に頷くと、フィルは嬉しそうに笑ってくれた。
勿論、私だって、フィルと一緒に居られる事は嬉しい。
「それと、その春休暇の間に、イヴに見せたい本もあるから、時間のある時にでも見て欲しい」
「見せたい本?」
「前に話した事だけど、“古代龍の言葉の書”だ」
“古代龍の言葉の書”
世界最強の黒龍に何かあった時に、黒龍を止める為に作られた言葉で、黒龍の番だけに継承されるモノだ。
番としてその言葉をしっかり覚えようとは思っているけど、私が生きている間使う事が無い事を願う。
「直ぐに覚える自信はないけど、ゆっくり…頑張って覚えますね!でも……その言葉を使わせないようにして下さいね!」
「それは、イヴが俺の側に居てくれる限り、使わせる事はない。」
頬に手を添えられて、軽くキスをされた。
初めてキスをしてから、フィルはサラッと流れるようにキスをして来る。何度されても私は慣れないし、心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらい騒ぐのに、フィルはいつも涼しい顔をしている。
ー何となく…悔しいー
いつか、フィルにも仕返ししたい─と思っている。驚いた顔のフィル……うん、見てみたい!
なんて、軽い気持ちでフィルへの仕返しを考えていた私が、その事を後悔するのは、もう少し後の話である。
「イヴが可愛いのが悪い」
「何でそうなるの!?」
*****
「本日より、宜しくお願い致します」
春休暇に入ってから3日目。
ジュリエンヌ様が竜王国へとやって来た。
“時間の無駄になるから、トワイアルには帰って来なくて良い”と、トワイアル国王からも言われたらしく、トワイアルには帰らず、そのまま竜王国の王城へとやって来たそうだ。
そこで、ジュリエンヌ様を出迎えたのは、大神官様とマリーさんとアルマさんと宰相様。
その4人の面子に、ジュリエンヌ様は一瞬だけ顔を顰めたそうだけど、その次の瞬間には微笑みを浮かべながら挨拶をしたらしい。
「竜王らしき人物が居なかったのが、気に食わなかったんでしょうね。王女であったとしても、誰が、あの女の為に陛下が態々出迎えると言うのか…“我一番”と育てられた王女は痛い性格をしていますね」
宰相様が、毒舌全開だった。
その後は、そのまま王城を突き抜けて、敷地内の奥にある神殿へと案内されて行ったそうだ。
「一国の王女様なのに…そんな対応をして大丈夫なんですか?」と訊けば、「王女である前に、自分で“黒龍の巫女見習いとして”と言って来ているので、何の問題もありません」と、ピシャリッと宰相様が言い切った。
その時の宰相様の笑顔は、とても綺麗だった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
*.*⸜(*ˊᗜˋ*)⸝*.**ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤ ꕤ*.゚
43
お気に入りに追加
683
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる