贄の令嬢はループする

みん

文字の大きさ
上 下
50 / 84
❋新しい未来へ❋

50 新たな日常

しおりを挟む
ベッドの上の住人だっ5日間で、ゆっくりと自分と向き合う事ができた。

ニノンさんからも、私のメンタルな処を心配された。

「自分を四度も噛み殺した黒龍が怖くないか?」

正直、怖いものは怖い。噛み付かれた瞬間もハッキリ覚えている。私を四度も殺した黒龍だけど、私を守ってくれたのもフィリベールさんだ。

ーそりゃあ……三度目は…かなり辛かったけどー

番となった割には、竜王陛下と会わないな─と思っていたら、私のメンタルを気にして、物理的な距離を取らせている─とニノンさんから聞いた時、私は素直に「寂しいな…」と思った。「会いたいなぁ」と思った。と言う事は、そう言う事なんだろう。



「あの……竜王陛下の好きなお菓子を作って…持って行っても良いですか?」

ニノンさんに訊くと「勿論です」と、ニノンさんが嬉しそうに笑って、次の日にお菓子作りの準備をしてくれて、竜王陛下のスケジュールも整えてくれて、私は1人で竜王陛下の執務室までやって来た。
まぁ…執務室に入ってから暫くは、竜王陛下の様子がかなり変だったけど……。

それでも、竜王陛下を目の前にしても、恐怖心はなかった。久し振りに会えて、元気そうにしていて……安心した。

取り敢えず、今の私の気持ちを素直に話した。「仕返ししてやろう」とも伝えたけど、何故か嬉しそうに笑われただけだった。竜人からすれば、人間ひとからの仕返しなんて、痛くも痒くもないのかもしれない。



「それで…竜王へい──」
「もう、“フィリベール”と…呼んでくれないのか?」
「え?」

ーやっぱり、竜王陛下が犬に見えるー

「あの…竜王陛下を、名前で呼んでも……良いんですか?」
「勿論!エヴェリーナが俺の名前を呼べないと言うなら、他の誰も俺の名前を呼べなくなる。今迄通り“フィリベール”と呼んで欲しい。否─“フィル”と呼んで欲しい。それと、敬語も要らない」
「敬語…は…少しずつ頑張りま──頑張ってみるね。名前は……ハードルが高い…かな?」
「そうか……無理強いはしない。ただ、父が亡くなってからは、“フィル”と呼んでくれる人が居なくなってしまって……」
「───分かり……分かった!フィル!私の事も、リーナとか愛称で呼んでくれると嬉しい……かも!?」

あまりにも寂しそうな顔をするから、思わず愛称呼びをしたし、思わず愛称呼びをお願いしてしまったけど……

「ありがとう……

ーくうっー

そんな笑顔で、“イヴ”なんて呼ばれたら……心臓が持ちません!と言うか……私、上手く転がされてない?

でも──胸が苦しいのに、全く嫌なモノではなくて、嬉しい感じがする。人は、嬉しい事でも、胸が苦しくなったりするのか─これが…恋なんだろうか?

五度目の人生で初めて、本当の恋を知る事ができそうだ。



その日からは、フィルの時間がある時は、一緒にお茶をしたり散歩をしたりするようになった。私の中に流れる竜力も私にすっかり馴染んだようで、以前よりも体が軽く感じたりもする。

「ひょっとして、私も竜化できるとか?」
「残念だが…それはできない」
「ですよね………」
「でも…俺が、イヴを空へ連れて行く事はできる」
「空へ?」

「もし、怖くなったら教えて」と呟いた後、フィルの体が黒い光に包まれて───

「竜さんだ」

目の前に、キラキラと黒色に光る鱗の黒龍が現れた。

『怖くは…ないか?』

竜さんの体に触れると、その鱗はやっぱり温かかった。
四度も私を噛み殺した黒龍。それでも─

「フィルだと分かってるからかな?怖く…ない」
『そうか…良かった』

それから、黒龍となったフィルの手に包まれて、そのまま空へと飛び立った。








「大丈夫か?」
「大丈夫……じゃないかも?」

はい。空の旅は………私にはまだ早かったようだ。
途中迄は良かった。ただ、フィルが上昇し過ぎて途中から怖くなって……少し気を失ってしまったようで、気が付けば、どこかの庭園のベンチで、フィルに横抱きにして抱え込まれていた。

「すまない。イヴと一緒に空を飛んでると思うと、嬉し過ぎて…少し羽目を外してしまっていた」

シュン─としている姿は、やっぱり犬だ。私には、どうしたって…フィルが可愛く見えてしまうのは…きっと、フィルの事が好きだからだ。

「私も…楽しかったですよ?ありがとう」

ニッコリ微笑んで、フィルの頬にキスをする。

「────え?」

フィルはそのままビシッ─と固まった。
それからゆっくりと瞬きをした後、私のおでこにキスをして、それから───

唇に軽く触れるだけのキスをした












******


私が番となってから3ヶ月後

黒龍の番と言う事は極秘のまま、学園に復帰する事になった。極秘と言っても、そのまま外へ出れば、私に最強の竜力があるとバレる可能性がある為、ソレがバレないように、竜力を抑える魔法が掛けられたピアスを着ける事になった。勿論、そのピアスの色は黒に近い濃藍だ。

久し振りの学園では、お見舞いのお礼にと、クッキーを作って渡した。

3ヶ月の遅れを取り戻すのは大変だったけど、イロハやクラスメイトの助けのお陰でテスト前には何とか追い付き、テストも無事に受ける事ができ、進級する事もできた。




そして、いよいよ、トワイアル第一王女ジュリエンヌ様が、トルトニアへと留学する年となった。








❋エールを頂き、ありがとうございます❋
_(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)_ꕤ*.゚

しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

お嫁さんはフェアリーのお墨付き~政略結婚した傷物令嬢はなかなか幸せなようです~

かべうち右近
恋愛
腕に痣があるために婚約者のいなかったミシェルは、手に職をつけるためにギルドへ向かう。 しかし、そこでは門前払いされ、どうしようかと思ったところ、フェアリーに誘拐され…!? 世界樹の森に住まうフェアリーの守り手であるレイモンの嫁に選ばれたミシェルは、仕事ではなく嫁入りすることになるのだが… 「どうせ結婚できないなら、自分の食い扶持くらい自分で稼がなきゃ!」 前向きヒロイン×やんちゃ妖精×真面目ヒーロー この小説は別サイトにも掲載しています。 6/16 完結しました!ここまでお読みいただきありがとうございました! また続きの話を書くこともあるかもしれませんが、物語は一旦終わりです。 お気に入り、♥などありがとうございました!

「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人
恋愛
聖女のロザリーは年齢を理由に婚約者であった侯爵から婚約破棄を言い渡される。ショックのあまりヤケ酒をしていると、ガラの悪い男どもに絡まれてしまう。だが、彼らに絡まれたところをある青年に助けられる。その青年こそがアルカディア王国の王子であるアルヴィンだった。 アルヴィンはロザリーに一目惚れしたと告げ、俺のものになれ!」と命令口調で強引に迫ってくるのだった。婚約破棄されたばかりで傷心していたロザリーは、アルヴィンの強引さに心が揺れてしまい、申し出を承諾してしまった。そして二人は幸せな未来を築くのであった。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】召喚されましたが、失敗だったようです。恋愛も縁遠く、一人で生きて行こうと思います。

まるねこ
恋愛
突然の自己紹介でごめんなさい! 私の名前は牧野 楓。24歳。 聖女召喚されました。が、魔力無し判定で捨てられる事に。自分の世界に帰る事もできない。冒険者として生き抜いていきます! 古典的ファンタジー要素強めです。主人公の恋愛は後半予定。 なろう小説にも投稿中。 Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...