贄の令嬢はループする

みん

文字の大きさ
上 下
6 / 84
❋ループ編❋

6 二度目の始まり

しおりを挟む
黒色の大きな体。その瞳の色も黒。
それが、口を大きく開けて─────

ー誰か………助けて!ー










「お嬢様!」
「いや────っ!?て…あれ?ワイアットじゃなくて……ジョリー??」
「はい、ジョリーですよお嬢様。魘されてましたけど、大丈夫ですか?」

ーえ?ー

ここは……私の部屋の寝室だ。

ーあの竜は?夢…だった?ー

「先に何か、お飲み物でもお持ちしましょうか?それとも、に着替えますか?」
「せい……ふく?」
「そうですよ?お嬢様ったら…まだ寝ぼけているんですか?今日は週明けで、学園に行く日ですよ。」
「週明け?学………園?」

確かに…週明けだけど……学園に行けるような気分でも状況でもないから、父達が帰って来る迄は学園は休んだ方が良い─と、ワイアットと話して決めた…よね?それを、私の侍女のジョリーが知らないなんて事が有り得る?

「それとも、今日届く予定のドレスが気になって、学園の事を忘れていたんですか?」
「……ドレス?」

確かに、2ヶ月後の卒業パーティーで着る予定のドレスを注文してはいるけど、出来上がりはまだ先だった筈。それ以外に注文したドレスなんて……無かった筈。そもそも、その卒業パーティーに参加する事ができるのかどうか……。

「第二王子のお誕生会に着ていくドレスですよ!それも忘れていたんですか?」
「………第二王子…の……お誕生会?」

ーハロルド様の誕生会は、半年前に終わったよね?ー

「もう…お嬢様は、本当に王子様には興味が無いんですね。数多くの令嬢が、を狙っていると言うのに。」

ーえ?ー

“王子様の婚約者の座”───

ジョリーとの会話が、噛み合っているようで噛み合って無い。

「えっと…取り敢えず…制服に着替えるわ。」
「分かりました。」

ジョリーはそれ以上は何も言わず、いつも通りに学園に行く準備を始めた。









******


「一体……どうなっているの!?」

あれから留守にしていた筈の両親と兄と朝食をとり、いつも通りに馬車に乗って学園に行けば、少し幼くなった?ようなフルールに会い、一緒に向かったのは……高等部の1年生の教室だった。

学園には長くて6年。短くても3年通わなければならない。長い場合は、中等部からの入園で13歳から15歳。高等部が16歳から18歳となっている。中等部では、勉学や貴族としての基礎を学ぶ為、高位貴族であればあるほど、高等部からの3年だけ通う場合が多い。私もフルールも、高等部からの入園だった。


そう。何故か分からないけど……16歳…しかも、ハロルド様の誕生会よりも少し前の時に戻っているのだ。
と言う事で、私とハロルド様は婚約していないし、私の体に傷痕も無い。

ーひょっとして、今迄の事が夢だった?ー

「………」

ふるふると頭を振る。ハッキリと覚えている。
あの竜が大きく口を開けた後に襲われた…あの痛みを。

噛み付かれたのだ。

あの女性?が“贄”と言った通り、私は、あの竜の贄にされたのだろう。ただ、竜が人間ひとを贄として食べるなんて事は聞いた事がない。それとも……秘匿された儀式の様なものなんだろうか?




『わた──の───い。』

『───どうか………正しい路に……』

『でなけ────から。────どうか……』




薄れゆく意識の中微かに聞こえた声は、一体誰の声だったのか。とてもとても…か細い声で、ハッキリとは聞こえなかったけど……

“正しい路”─とは?

その言葉通り、正しい路に戻す為に…時間が戻った?何が間違っていて何が正しいのか…分からない事だらけだ。ただ一つ言える事は……

もう、二度と贄になんてなりたくない──だ。

これが、時間の巻戻りと言うのなら、これから起こる事を知っている私なら、色々と回避できる。もう、あんな思いをするのは……。

先ずは、ハロルド様の誕生会での事件だ。あそこで、私がハロルド様を庇って怪我をしなければ、婚約するなんて事はないし、私も怪我をしなければ、普通に恋愛や結婚ができる。できれば、ハロルド様をはじめ、王族とは関係を結びたくない。そうすれば、留学生としてやって来るジュリエンヌ様とも関わらずに済むだろう。王族同士、2人仲良くすれば良い。

「…………」

それでもやっぱり…胸はチクチクと痛みを訴える。
一方的な婚約破棄宣言。私の言葉を聞こうともせず、ジュリエンヌ様の言葉を信じたハロルド様。
でも、私に向けてくれていた優しい眼差しのハロルド様も居た。そんなハロルド様が好きだった。

「ハロルド様………好き……でした………」

二度目?の人生、この想いには蓋をする。

目標は、ハロルド様の婚約者にならない事。
あの竜の贄にならない事。
新しい恋を……する事。

それが“正しい路”かどうかは分からないけど、自分の為に頑張るしかない。そのうち、もう一度、あの時の声を聞くことができれば良いけど……。




そうして、私の二度目の人生が始まった。








❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(꒪ˊ꒳ˋ꒪)ꕤ*.゚


しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

お嫁さんはフェアリーのお墨付き~政略結婚した傷物令嬢はなかなか幸せなようです~

かべうち右近
恋愛
腕に痣があるために婚約者のいなかったミシェルは、手に職をつけるためにギルドへ向かう。 しかし、そこでは門前払いされ、どうしようかと思ったところ、フェアリーに誘拐され…!? 世界樹の森に住まうフェアリーの守り手であるレイモンの嫁に選ばれたミシェルは、仕事ではなく嫁入りすることになるのだが… 「どうせ結婚できないなら、自分の食い扶持くらい自分で稼がなきゃ!」 前向きヒロイン×やんちゃ妖精×真面目ヒーロー この小説は別サイトにも掲載しています。 6/16 完結しました!ここまでお読みいただきありがとうございました! また続きの話を書くこともあるかもしれませんが、物語は一旦終わりです。 お気に入り、♥などありがとうございました!

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】召喚されましたが、失敗だったようです。恋愛も縁遠く、一人で生きて行こうと思います。

まるねこ
恋愛
突然の自己紹介でごめんなさい! 私の名前は牧野 楓。24歳。 聖女召喚されました。が、魔力無し判定で捨てられる事に。自分の世界に帰る事もできない。冒険者として生き抜いていきます! 古典的ファンタジー要素強めです。主人公の恋愛は後半予定。 なろう小説にも投稿中。 Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...