3 / 84
❋ループ編❋
3 少しずつ
しおりを挟む
「ジュリエンヌ=トワイアルです。1年ですが、宜しくお願いします。」
学園最終学年の新学期が始まる1週間前、トワイアル第一王女ジュリエンヌ様が、留学生としてトルトニアにやって来た。
ちみに、ジュリエンヌ様が新たな“黒龍の巫女”だと言う事は、トルトニアの国王両陛下と王太子、ハロルド様と私と、数人の高官にしか知らされてはいない。
「トワイアル第一王女殿下、ようこそいらっしゃいました。私は、トルトニア第二王子のハロルドと言います。学園では、私達がご一緒させていただきます。」
「お初にお目にかかります。私、ハロルド殿下の婚約者のエヴェリーナ=ハウンゼントと申します。宜しくお願い致します。」
「殿下、ハウンゼント嬢、年が同じと聞いています。なので、学園に限らず、仲良くしていただけると嬉しいですわ。」
そう言って、ニコリと微笑むジュリエンヌ様は、本当に可愛らしい方だった。その笑顔には、王女であるが故の傲慢さなどは全くなかった。
否。無いように……見えただけだったのかもしれない。
******
「ハロルド様、昨日はありがとうございました。」
「いや。ジュリエンヌ様が楽しんでもらえたのなら…良かった。」
ジュリエンヌ様がやって来てから3ヶ月。今日は、王城でハロルド様とお茶をする日だった。
予定の時間よりも早目に到着した為、時間迄庭園でも見ようか─と、いつもの案内役の女官に断りを入れて、1人で庭園へ向かうと、そこにハロルド様が居た。「ハロルド様」と、声を掛けようとしたところに、その会話が耳に入ったのだ。
「─っ!?」
私が悪い事をした訳でもなかったけど、私は咄嗟にその場の木の影に隠れた。
「仲良くしていただいているスーザンが、街で人気のカフェがあると教えてくれて…どうしても食べたくなってしまって…我儘を言って、一緒に行ってもらってごめんなさい。」
「我儘なんて…私も美味しい物を食べられましたから。」
「ふふっ。それなら、良かったですわ。また……お勧めがあったら、一緒に行ってもらえますか?」
「予定がなければ…喜んで。」
「………」
ー一緒に?2人だけで?カフェに?ー
昨日は……確かに、私はハロルド様と何も約束なんてしていなかった。それに、私よりも先に……あの2人は迎えの馬車に乗り、学園を後にした。その時……私は…あの2人を……挨拶をして見送った。その時…ジュリエンヌ様は何か話をしていた?カフェに行く、行きたいなんて言っていた?
『それじゃあ、エヴェリーナ様、また明日。』
『リーナ、また明日。』
2人とも、そう言っただけだった。
「………」
心臓が嫌な音を立て、胸はチクリと痛みを訴えた。
2人が庭園から去ってから少し間を空けてから、約束の時間にハロルド様の部屋を訪れると、そこには──
「あ、エヴェリーナ様、いらっしゃい。お待ちしていたんです。今日は、私もご一緒させていただきたくて……よろしいかしら?」
「リーナ、ジュリエンヌ様も一緒で大丈夫だよね?」
“いらっしゃい”──
ーここは、ハロルド様の部屋では…なかった?ー
「はい。勿論です。」
私はニッコリと微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。あ、それで、ハロルド様、さっきの─────」
ハロルド様とジュリエンヌ様の前には、既にお茶が淹れられていた。
2人は机を挟んで向かい合って座っている為、私はハロルド様の横に腰を下ろした。
そんな私に、ハロルド様は視線を合わせて微笑んだ後、またその視線をジュリエンヌ様へと戻し、2人でまた会話を進めた。
楽しそうに話をしている2人。声は聞こえるのに、何を話しているのかは───記憶には残らなかった。
******
「エヴェリーナ、このままで…良いの?」
「…何が?」
私を心配そうな顔で見ているは─フルール=オーガスト伯爵令嬢。親友であり、私の幼馴染みでもある。
「もう、エヴェリーナの耳にも…入っているんでしょう?」
「…………」
あの、3人でお茶をした日以降、王城でハロルド様とお茶をする時は、ジュリエンヌ様も居る事が増えた。ただ、そのお茶でさえ、ハロルド様の都合でキャンセルになる事も増えた。
相変わらず、学園でも一緒にランチを取る事はない。
「何故、婚約者のエヴェリーナじゃなくて、トワイアル王女と2人でランチを取っているの?」
「………」
そう。ハロルド様は、学友や側近と─ではなく、最近ではジュリエンヌ様と2人でランチをとっているのだ。そこに、私は誘われた事は……一度もない。
「ジョナスが……エヴェリーナの事を、とても心配しているの…。」
ジョナス=イーストン
フルールの婚約者で、あの第一騎士団長の息子だ。私が怪我を負って以降、第一騎士団長とジョナス様は、私の事をよく気に掛けてくれるようになった。
「それに……放課後に、あちこちのカフェでも、2人をよく見掛けるって……」
「………」
何も言えない─ではなく、私は本当に何も知らないのだ。2人がランチを一緒に取っている場所は、王族専用スペースであり、許可がなければ、喩え婚約者であっても入れないし、放課後は別々に帰っている為、校門で別れれば、その後2人が何をしているかなど──私が知る由もないのだから。
学園最終学年の新学期が始まる1週間前、トワイアル第一王女ジュリエンヌ様が、留学生としてトルトニアにやって来た。
ちみに、ジュリエンヌ様が新たな“黒龍の巫女”だと言う事は、トルトニアの国王両陛下と王太子、ハロルド様と私と、数人の高官にしか知らされてはいない。
「トワイアル第一王女殿下、ようこそいらっしゃいました。私は、トルトニア第二王子のハロルドと言います。学園では、私達がご一緒させていただきます。」
「お初にお目にかかります。私、ハロルド殿下の婚約者のエヴェリーナ=ハウンゼントと申します。宜しくお願い致します。」
「殿下、ハウンゼント嬢、年が同じと聞いています。なので、学園に限らず、仲良くしていただけると嬉しいですわ。」
そう言って、ニコリと微笑むジュリエンヌ様は、本当に可愛らしい方だった。その笑顔には、王女であるが故の傲慢さなどは全くなかった。
否。無いように……見えただけだったのかもしれない。
******
「ハロルド様、昨日はありがとうございました。」
「いや。ジュリエンヌ様が楽しんでもらえたのなら…良かった。」
ジュリエンヌ様がやって来てから3ヶ月。今日は、王城でハロルド様とお茶をする日だった。
予定の時間よりも早目に到着した為、時間迄庭園でも見ようか─と、いつもの案内役の女官に断りを入れて、1人で庭園へ向かうと、そこにハロルド様が居た。「ハロルド様」と、声を掛けようとしたところに、その会話が耳に入ったのだ。
「─っ!?」
私が悪い事をした訳でもなかったけど、私は咄嗟にその場の木の影に隠れた。
「仲良くしていただいているスーザンが、街で人気のカフェがあると教えてくれて…どうしても食べたくなってしまって…我儘を言って、一緒に行ってもらってごめんなさい。」
「我儘なんて…私も美味しい物を食べられましたから。」
「ふふっ。それなら、良かったですわ。また……お勧めがあったら、一緒に行ってもらえますか?」
「予定がなければ…喜んで。」
「………」
ー一緒に?2人だけで?カフェに?ー
昨日は……確かに、私はハロルド様と何も約束なんてしていなかった。それに、私よりも先に……あの2人は迎えの馬車に乗り、学園を後にした。その時……私は…あの2人を……挨拶をして見送った。その時…ジュリエンヌ様は何か話をしていた?カフェに行く、行きたいなんて言っていた?
『それじゃあ、エヴェリーナ様、また明日。』
『リーナ、また明日。』
2人とも、そう言っただけだった。
「………」
心臓が嫌な音を立て、胸はチクリと痛みを訴えた。
2人が庭園から去ってから少し間を空けてから、約束の時間にハロルド様の部屋を訪れると、そこには──
「あ、エヴェリーナ様、いらっしゃい。お待ちしていたんです。今日は、私もご一緒させていただきたくて……よろしいかしら?」
「リーナ、ジュリエンヌ様も一緒で大丈夫だよね?」
“いらっしゃい”──
ーここは、ハロルド様の部屋では…なかった?ー
「はい。勿論です。」
私はニッコリと微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。あ、それで、ハロルド様、さっきの─────」
ハロルド様とジュリエンヌ様の前には、既にお茶が淹れられていた。
2人は机を挟んで向かい合って座っている為、私はハロルド様の横に腰を下ろした。
そんな私に、ハロルド様は視線を合わせて微笑んだ後、またその視線をジュリエンヌ様へと戻し、2人でまた会話を進めた。
楽しそうに話をしている2人。声は聞こえるのに、何を話しているのかは───記憶には残らなかった。
******
「エヴェリーナ、このままで…良いの?」
「…何が?」
私を心配そうな顔で見ているは─フルール=オーガスト伯爵令嬢。親友であり、私の幼馴染みでもある。
「もう、エヴェリーナの耳にも…入っているんでしょう?」
「…………」
あの、3人でお茶をした日以降、王城でハロルド様とお茶をする時は、ジュリエンヌ様も居る事が増えた。ただ、そのお茶でさえ、ハロルド様の都合でキャンセルになる事も増えた。
相変わらず、学園でも一緒にランチを取る事はない。
「何故、婚約者のエヴェリーナじゃなくて、トワイアル王女と2人でランチを取っているの?」
「………」
そう。ハロルド様は、学友や側近と─ではなく、最近ではジュリエンヌ様と2人でランチをとっているのだ。そこに、私は誘われた事は……一度もない。
「ジョナスが……エヴェリーナの事を、とても心配しているの…。」
ジョナス=イーストン
フルールの婚約者で、あの第一騎士団長の息子だ。私が怪我を負って以降、第一騎士団長とジョナス様は、私の事をよく気に掛けてくれるようになった。
「それに……放課後に、あちこちのカフェでも、2人をよく見掛けるって……」
「………」
何も言えない─ではなく、私は本当に何も知らないのだ。2人がランチを一緒に取っている場所は、王族専用スペースであり、許可がなければ、喩え婚約者であっても入れないし、放課後は別々に帰っている為、校門で別れれば、その後2人が何をしているかなど──私が知る由もないのだから。
30
お気に入りに追加
694
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

あぁ、もう!婚約破棄された騎士がそばにいるからって、聖女にしないでください!
gacchi
恋愛
地味で目立たなかった学園生活も終わり、これからは魔術師学校の講師として人生楽しもう!と思った卒業を祝うパーティ。同じ学年だったフレッド王子が公爵令嬢に婚約破棄を言い渡し、側近騎士ユリアスの婚約者を奪った!?どこにでも馬鹿王子っているんだな…かわいそうと思ったら、ユリアスが私の生徒として魔術師学校に入学してきた!?
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる