魔法使いの恋

みん

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壱拾壱*シリウス=マーレン*

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先代国王陛下の治世は最悪だった。
貴族様様主義で、王都さえ良ければそれで良い─と言う考えで、地方の領土が荒れようが魔獣に襲われようが、私達─騎士団が地方へ派遣される事はなかった。

ーこの国も、ついに終焉を迎えるのかー

そう思っていたが────






そこからの変動はあっと言う間だった。

魔法使いのリュウ殿と隣国─ウォーランド王国の聖女様のお陰で国内に充満していた穢れが祓われ、魔物や魔獣の出現率は低下した。
何より国民が喜んだのは、ジークフラン様が国王陛下となった事だった。

それから暫くの間は、国内はバタバタとしていたが、嫌な忙しさではなかった。



「シリウスには婚約者はいないのか?」

そう訊いて来たのは、この国の魔法使いであるリュウ殿だった。国王陛下の後ろ盾であり、右腕でもあるにも関わらず、身分や権力には全く興味が無いようで貴族相手でも忖度したりする事が無い。ただただ、国王陛下をサポートするだけだ。

に、婚約者や恋人が居ると思いますか?」

「“”って…その顔にある傷痕の事か?」

“顔の傷痕がどうした?”みたいな顔をするリュウ殿の反応は珍しいと言える。この傷痕を見た者の反応は、殆どが憐れみや蔑みの視線だ。
この傷は、領民を守った時に受けた傷で、私はそれを後悔した事はない。それに、今迄伯爵子息の騎士と言うブランドだけで言い寄って来ていた令嬢達が一気に引いて行った事は、正直嬉しい事の一つだ。
伯爵を継がなければならない事もないし、特に結婚に興味もなかったから、私は一生独り身だろうな─と思っていた。








ヴィオラ=カルザイン
11歳と言うまだまだ幼い子供が、どうして合同訓練に─そんな彼女は、私の顔を見ても驚きはしなかったものの、不躾に私の顔をジーッと見つめていた。

「私の、この顔の傷痕が気になりますか?」

「え?あっ!すみません、不躾に見てしまって。いや、その…怪我をしたのが目じゃなくて良かったなぁ…なんて…って、怪我をした事自体が大変だったのに!変な事を言ってすみません!!」

またか─と思った。どうせ、「可哀想に」やら「醜い傷痕」と思っているのだろうと─。
そんな気持ちて尋ねてみたら、予想外の言葉が返って来た。怪我をした事ではなく、目じゃなくて良かったと。

ーこの傷痕の事は、気にならないのか?ー

目の前の彼女は必死に謝っていたが、そんな彼女がおかしくて、思わず笑ってしまった。
私の顔を見ても嫌な視線を向けて来なかったのは─国王陛下とリュウ殿と、彼女─ヴィオラ嬢だけだった。






パルヴァンの騎士による訓練は……凄まじかった。自国で行っている訓練がお遊戯のようだと思える程に。
そんな訓練に必死に喰らいついている時にも、チラチラと視界に入るのはヴィオラ嬢とカルザイン夫人。

ーまさかの、母娘で魔法使いだったとはー

2人とも見た目は可愛らしい小動物で、なんなら姉妹に見える。実際、自国の騎士達は、2人が挨拶をした時には色めき立った。それが、1人は既婚者であり母親で、1人はまだ11歳の女の子だと分かると、騎士達は今度は明白あからさまに落胆した。



カルザイン夫人には、色々と驚かされたが、自分の魔力に関しての事が分かり、本当に感謝しかない。そんな彼女も、私の顔を見ても態度や視線が全く変わらなかった人だった。夫人もヴィオラ嬢も、いつもこんな私にでも笑顔を向けてくれるのだ。

ー心が落ち着くなぁー

私には兄しか居ないが、姉や妹が居たら、女性相手にもこんな感じで、穏やかな気持ちで接する事ができたんだろうか?
こんな日も、後数日で終わってしまうと思うと、少し寂しいな─と、思った時には

「今回の合同訓練に参加できて、本当に良かった。後2日で終わってしまうけど……またここに来ても良いだろうか?」

何て事を口にしていた。

「連絡さえいただければ、大丈夫だと思いますよ?お祖父様なら、喜んで手合わせでも訓練でもしてくれると思います。」

と、ニコニコと話すヴィオラ嬢に

「……それは……有り難い……」

としか言えなかった。勿論、最強の武人と言われるゼン殿に手合わせしてもらえるのは光栄だ。でも──

何かが引っ掛かるが、ソレが何かは分からない。

兎に角、今優先すべき事は、自国の武力の底上げと、自身の魔力のコントロール。合同訓練残りの数日も、目一杯頑張ろう──











その時分からなかった“何か”に気付いたのは、それから6年後の事だった。













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