氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん

文字の大きさ
上 下
58 / 62
余話

子達の物語②

しおりを挟む
お母様の魔法は、とても綺麗だ。

お母様が魔法を使う時は、淡い水色の光がキラキラと輝く。お父様がいつも身に着けているピアスと佩帯している剣に嵌め込まれている魔石の色と同じ色。お母様の色だ。私も同じ水色だけど、お母様の色より少し濃い水色。

「ユイ……ヴィーのお祖母さんの瞳の色とそっくりだよ。」

と、お祖父様が嬉しそうに教えてくれた事がある。そのお祖母様は私が生まれる前に亡くなってしまっていたけど、会ってみたかったなと思う。


「ハル、今日はここまでにしておこうか。」

「ティモスさん。はい、分かりました。」

今日は、パルヴァンの森に浄化をしに来ています。
完璧に浄化できるのは聖女様だけだけど、聖女様とはこの国には1人しかいない。なので、少しの穢れであれば魔導師達が穢れを浄化する。それでも手に負えなくなったり、酷くなったりした場合は聖女が浄化する事になる。

このパルヴァンの森は、魔法使いであるお母様が浄化を担当している。そして、私も魔法使いとして、お母様から色々と指導してもらっているところである。

「ヴィーもお疲れ様。今日は魔力が安定してて、いつもより浄化がうまくいったわね。」

「うん!今日は、何だか調子が良かったの!」

大好きなお母様に褒められると、本当に嬉しい!今日は一緒に来れなかったけど、会った時にはネロに自慢しよう!

ネロ─私と真名を交した黒のフェンリル。
その母親の白のフェンリルは、お母様と名を交わしている。
父親の天馬のノアは、お父様と名を交わしている。

『俺も名を交わせる魔獣相手が欲しい……』

と、何年か前にお兄様が呟いていた事もあったっけ。


「お疲れさん。今日は、ゼン殿がハルの好きなお菓子をいっぱい用意していたから、邸に戻ったら───」

と、話の途中でティモスさんが口を噤み、サッと周囲に視線を巡らせると同時に、ピリッと肌を突き刺すような空気が漂う。

そこに現れたのは─

「「ワーム?」」

直ぐに反応したのはティモスさん。お母様はサッと私を抱き寄せる。

「ティモスさんや騎士様達が居るから、大丈夫だろうけどね。」

と、優しい顔のお母様。
ティモスさんやパルヴァンの騎士を信頼しているんだろう。

ピクッ─と、私を抱き寄せているお母様の手が反応したかと思うと、ワームがもう一体現れた。

「ハル!」
「ティモスさん、こっちの事は気にしないで!大丈夫!」

ティモスさんの問い掛けに、お母様は笑顔で答える─って!?

ーえ!?リスなお母様には無理じゃないの!?ー

いくら魔法使いだと言っても─凄い魔法使いだって聞いているけど!いくらそんなお母様でも、1人でなんて!

「──っ!ヴィー!?」

ー怖い!ー

「ヴィー、落ち着いて!」

大きな大きな魔物が2体。それが恐ろしくて──
体に流れる魔力がグンッと溢れて暴れ出すのが分かった。

「母上!ヴィー!!」

遠くの方で、お兄様の声も聞こえるけど、暴れ出した魔力を抑える事ができない。

「ヴィー!」

何となく視界に入ったお母様。そのお母様が……既にワームを仕留めていた。

ーえ?ー

と、今の私の状況にはそぐわない思考に陥る。

ーあのワームを、あのお母様が一瞬で?え?ー

と、気持ちだけが落ち着いているのに、この─魔力暴走は収まる気配がなかった。

すると、何故か私の足下で魔法陣が展開された。
その魔法陣から、水色の光が一気に溢れ出し私を包み込む。

「ヴィー!」

と、焦って私に駆け寄って来るお兄様とお祖父様。とは反対に、何故かホッとしているお母様。そのお母様の顔を見て

ーあ、大丈夫かもー

と思った瞬間、私は急激な浮遊感に襲われた。

















急激な浮遊感に襲われた瞬間、ギュッと目を閉じて自分で自分の体をギュッと抱き締めて蹲った。
その浮遊感が無くなり、ズンッと体に重み?を感じた後、ソロソロと目を開けると──

「───へっ??」

全く知らない場所に居た。

ついさっきまでは、パルヴァンの森に居た──よね?

なのに、ここは森ですらない。無機質な箱の様な形の建物の中の…階段の踊り場。階段の先には長い廊下が続いている。

「あれ?魔力暴走も…落ち着いてる?」

と言うか…あまり魔力の流れを感じない?
何が何やら分からず戸惑っていると

「───え?…ちゃん????」

ハルお母様の名前!?ー

と、声がした方を振り返ると、そこには私の知らない、見た事が無いような服を来た女の人が2人立っていた。
















「本当にビックリどころか!こんな事って有り得るの!?」

と、私の目の前で嬉しそうにしている2人の女性。

なんと────ミヤ様と一緒に召喚されて、ウォーランド王国を浄化した聖女様達だった。

フジ様とショウ様

この3人の聖女様の名前は、ウォーランド王国で知らない人は居ない。歴代最高で最強の聖女様達だ。
確かに、以前ミヤ様に見せてもらった“写真”と言うモノに写っていた2人に似ている。



どうやら、私は……お母様の住んでいた世界に転移してしまったようです。












しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...