氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん

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再会②

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『やっぱり、男の人だから緊張したのかしら?私は浄化の事で話があるから一緒に居てあげられないけど、ハルは…自分の部屋に戻る?』

ミヤさんが気を使って日本語で話し掛けてくれた。

『あ…大丈夫です。泣いてるのは…自分でもよく分からないんですけど、あの2人が怖いと言う訳では…ないと思います。それに、もう少ししたら、ネージュが来てくれると思うので。』

『そう?ハルが大丈夫なら良いけど、本当に無理だって思ったらちゃんと言うようにね?』

『はい。』

と、私はミヤさんを安心させるように笑って返事をすると、王太子様が申し訳無さそうに

「あー…やっぱり、私達は…一旦下がろうか?浄化についての話は後からでも…」

「大丈夫みたいです。ちょっと…ビックリしただけみたいです。少し…座って話でもしましょうか?あ、そうそう、ハルは…覚えてるかしら?ランバルト様─王太子殿下の後ろに控えている、近衛騎士なんだけど…」

ミヤさんが、その彼に視線を向けると、その彼が一歩前に出て来た。

「私は─エディオル=カルザイン。ハル殿とは…会った時には話をしたりはしていた。それで…これは、ハル殿が好きだと言っていた物だ。良かったら食べてくれ。」

そう言いながらカルザイン様は、私の様子を窺うかのようにゆっくりと近付いて来る。その様子にビクッとなると、カルザイン様が歩みを止める。それが少し申し訳なくて、ソロソロと視線を上げてカルザイン様を見上げると、こんな態度の悪い私に対して、呆れる訳でも怒る訳でもなく──優しい目で私を見てくるカルザイン様が居た。

「もう少し近付いても…大丈夫だろうか?」

「は…い…だっ…だいじょぶっ──です!」

「そうか──」

と、目を細めて笑った後、ゆっくりとしたペースで私から2歩程手前の所で立ち止まる。

「これ、どうぞ。」

「ありがとう…ございます。」

差し出された袋を受け取り、中を見てみると

「かすみ草?」

袋の中の箱の上に、小さなかすみ草のブーケがあった。
小さいけど、白と水色と青色のかすみ草のブーケで、グラデーションになっていてとても綺麗だった。

「ハル殿は、かすみ草が好きだろう?丁度、私の邸の庭に綺麗に咲いていたから…庭師に頼んでブーケにしてもらったんだ。」


その庭師が、エディオルとハルの今の状況を思い、泣きながらブーケを作った──と言う事は、ハルは勿論の事エディオルも知らない事である。


「ありがとうございます。とっても嬉しいです!この世界には、色んな色のかすみ草があるんですね!?」

日本には、基本白しか…なかったよね?と言うか、私がかすみ草を好きだと知っているって事は…カルザイン様とはそれなりに会話をしたりする仲だった──って言う事なのかなぁ?なんてブーケを見ながら考えていると

「今度、その庭を…案内しようか?以前も、何度か一緒に行った事が…あるんだが…。」

「え!?一緒に!?」

ーマジですか!?私が…カルザイン様男の人と一緒に!?ー

「と言っても、そこは王都だし…ハル殿の今の状況も理解しているから。また、見に行きたいと思ったら、いつでも声を掛けてくれれば良い。いつでも…喜んで案内するから。」

と、カルザイン様がフワリと優しく微笑む。
何故か、その微笑んだ顔を見ると胸がキュッとなる。
本当に、記憶を無くしてからこう言う事が増えた。自分の思いとは関係なく、感情や感覚が色んな反応をする。きっと、私が喪っている記憶のモノで、身体が勝手に反応しているからだろうけど。

「ありがとうございます。その時は…宜しくお願いします。」

ペコリと軽く頭を下げた。





そんな二2人の様子を、少し離れた位置で見守るミヤとランバルトは──

「…ランバルト様。これ位の事で泣かないで下さい。」

「だって…エディオルが拒否されなくて…良かったと…うっ……すまない…。」

と、涙を必死に堪えているランバルトの背中を、ミヤは「やれやれ…」と言いながらも、優しく撫でつけた。








ムギュゥッ──

『騎士よ、ノアをネロの元に残してくれてありがとう』

「いや…こちらこそ、ネージュ殿が眠りに就いた後、ネロに気を使ってやれなくてすまなかった。ネロが、あまりにも普通だったから…大丈夫なのかと思ってしまったんだ。」

ーすみません。今…私は混乱していますー

「ネージュ殿は…相変わらずなんだな?王太后お祖母様も言っていたが…」

「そうですね。は、ネージュが擬人化した時のデフォルトですね。」

ここに居る人達─ミヤさん、王太子様、カルザイン様─は、特に気にする事もなく通常運転をしている。

ーあれ?私がおかしいの?ー

どうやら、ネージュは魔獣だけど、擬人化できるようで、今、そのネージュが擬人化しているんだけど…ビックリする位の美女なんです。それは別に良いんです。フェンリルの姿のネージュも、とっても綺麗な白色のもふもふなので、美女だと言われても納得がいくから良いんです。問題なのは────その美女化したネージュに抱きしめられている事です。美女であり、立派なお胸をお持ちなんです。


「ミヤさん…開いてはいけない扉が───」
「ハル!しっかり鍵を掛けなさい!」
『主は…まだその扉を探していたのか?』


と、ミヤさんとネージュに釘を刺された。




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