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EpisodeØ

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ーパルヴァン辺境地ー

ウォーランド王国の一番端にあり、隣国との間には鬱蒼とした森が広がっている。その森の先には海がある。
この森が、ウォーランド王国で一番厄介な場所である。昔から隣国との領地争いの場になっていた為、穢れが溜まりやすくなってしまったのだ。

昔は、ここまで鬱蒼としていなかったが、穢れが溜まりやすくなるにつれて、この森も広大になっていった。その為、隣国との争いはなくなったものの、この森の穢れの浄化と魔獣の討伐をしなくてはいけなくなった。

初代パルヴァン辺境伯は、その当時一の最強の騎士、第一騎士団の団長が就いた。穢れを完璧に浄化できるのは聖女だけなので、聖女が居ない時は魔石で浄化をする。それでは完璧ではないから魔獣が現れる。現れれば、パルヴァン辺境伯が討伐を行う。こうして、パルヴァン辺境伯は、魔獣達がウォーランド王国内に侵入する事を防いでいるのだ。

そしてもう一つ。
昔は、パルヴァンには“巫女”と呼ばれる者が居た。聖女よりも力は劣るが、巫女もまた穢れを浄化できる力を持っていた。初代巫女もまた、初代パルヴァン辺境伯と共にパルヴァンの森を護っていた。
そのパルヴァンの巫女は、先見の力も持っていた。視たい未来を視られる訳ではなかったが、不意に視る未来の不幸な出来事を防ぐ事ができたり、被害を最小限に抑える事ができていた為、パルヴァンの巫女は国中の民から敬われていた。







そんな巫女も、代を経る毎に少しずつ先見の力だけが失われていった。それでも、穢れを浄化する力は聖女に次ぐ者には変わりはなかった。







そして、ある代の巫女が、ある日夢を視た。












目の前に、真っ白な毛を纏った綺麗な魔獣が立っている。

その“白いの”は、何故か寂しそうな目をして私を見ている。
あまりにも寂しそうだから、手を伸ばすと───

一瞬のうちに場面が変わるように、目の前の景色が一変した。

そして、そこには、赤黒く染まった“何か”が横たわっていた。

ーさっきの“白いの”は…何処に行った?ー

“白いの”を気にしつつも、私はその赤黒く染まった“何か”に近付いた。












「巫女様、おはよございます。」

「ん?あぁ─おはよう。」

ーさっきのは…夢か?やけにリアルだったなー

目を開けると、そこは私の寝室にあるベッドの上だった。

とても綺麗なアイスブルーの瞳をした“白いの”。どうして、あんなに寂しそうだったのだろうか──。いつか…会えるのだろうか?
その“白いの”が気になりつつも、私は今日もパルヴァン辺境伯と共に森へと向かった。











あれから月日が流れ、“白いの”の事を忘れ掛けていたある日。



「キュリアス、我はこのまま森で少し休んでから帰る故、先に帰ってくれ。」

「分かった。特に今の森は問題ないから大丈夫だとは思うが、暗くなる前に帰って来るんだぞ?それと、護りの魔石は肌身離さず持っていてくれ。」

「分かっている。キュリアスも、気を付けて帰ってくれ。」

そう言って、パルヴァン辺境伯─キュリアスは邸の方へと帰って行った。


普段であれば、森を巡回した後はパルヴァンの邸へと帰るのだが、その日は何となくもう少しこの森にと思ったのだ。

そう思う意味が分からないまま、森の中をあてもなく歩く。そして、その森の入り口からさほど離れていない場合で、私はを見付けた。

ー何だ?ここに来た時には…無かった筈だがー

少し警戒しつつも、その“何か”に近付いて行くと─


は、以前夢で視た赤黒く染まった“何か”だった。

ーあぁ、この赤黒く染まった“何か”は“白いの”だったのかー

その“白いの”はグッタリと横たわったまま動かない。そのまま静かに近付き


、大丈夫か?』

と、横たわる“白いの”を覗き込むと、閉じていた目蓋をゆっくり持ち上げて、私に視線を向けた。

その“白いの”の瞳はやっぱりとても綺麗なアイスブルーだった。しかし、そうして私を見ていたのも一瞬で、その“白いの”は、私の問いに答える事もなくソッと目を閉じた。

それは、何かを諦めたような姿に見えた。夢で視た“白いの”も、寂しそうな目をしていた。

私はそんな“白いの”に更に近付き、癒しと浄化の力を発動させた。

すると、赤黒く汚れてガビガビになっていた毛が、本来の綺麗な真っ白な色に戻り、負っていた傷も無くなった。

「白いの。お前は…綺麗な色だな。」

やはり、コレは夢で視た“白いの”だった。それに、夢では分からなかっが、この魔獣はかなり大きくて強い魔力を持っている。ならば──

「私は、この国の巫女だ。今、この森の穢れを祓っていたところだ。“白いの”は…魔力が大きいな?その魔力、少し貰っても良いか?」

すると、“白いの”は、コテンと首を傾げて不思議そうな顔をして私を見つめて来た。

ーめちゃくちゃ可愛いなー

と、顔がニヤニヤしそうになるのを我慢しながら、ふと思い出した。

「あぁ、もしかして…お前が某国で追われていると言うフェンリルだったのか?」

その私の言葉にビクリッと反応した後、体が固まった。

ーやっぱり、そうかー

私はそのまま更に笑みを深めてそのフェンリルの頭を撫でた。

「お前は真っ白だな─」

抵抗がないから、そのままグリグリと撫で回す。

。お前に名をつけてやろう。そして、お前を守ってやろう。」

そう告げると、フェンリルはまた首を傾げて私を見つめて来た。

「お前に名前をつけて、私と繋がりを持たせるんだ。ある種の“契約”なんだが、それによって、お前の魔力を私が受け入れる事ができるようになる。その魔力で、この森の穢れをもっと綺麗に浄化できるようになるし、お前は魔力が減って追われる事がなくなる。良いと思わないか?」

すると、今迄無感情だったアイスブルーの瞳に、ほんの少しだけ熱が篭った事が分かった。

ーこのフェンリルは、まだ生きたいのだ─生きたいと思っているのだー

「お前の名前は─“レフコース”!そして、私の名前はーーーーー。」

私は“白いの”に名を付けて自身の真名を告げ、足元で魔法陣を展開させた。

トクリ…トクリ…と、レフコースの魔力が流れ込んで来るのと同時に、私の魔力もレフコースに流れ込み、ができた事を実感した。







それからの日々は穏やかに過ぎて行った。
レフコースは、魔力が溢れる事も強くなり過ぎることもなくなった。私とレフコースの魔力は相性が良かったようで、問題なくレフコースの魔力を使いこなし森の穢れを祓う事ができた。

ーこのまま、レフコースが穏やかに過ごせれば良いなー

と願わずにはいられなかった。



なのに──



あの某国の人間は…レフコースだけではなく…私にも目を付けて来たのだ──。









『このフェンリルは我々のモノだ。このフェンリルを殺されたくなければ、某国に従え』と言う。

魔力が強過ぎると言うだけで、今迄護って来てくれた恩も忘れて殺そうとしたくせに。そんな奴等に、レフコースは勿論の事、私も従うつもりはない。
キュリアスもパルヴァンの騎士や領民達の気持ちも同じだった。レフコースのお陰で、森の穢が少なくなり、魔獣が現れる頻度も減ったのだ。レフコースは、今やこのパルヴァンの守り神と言って良い程の存在なのだ。

いくら某国の者がやって来ようとも、パルヴァン一堂で追い払い、返り討ちにしていった。


でも、私は油断してしまった。

少しレフコースが私から離れた隙に、私は某国の騎士に捕まってしまったのだ。
多少武の心得がある程度の巫女の私には、どうする事もできなかった。

ーどうする?ー

と思った瞬間、頭の中に、ある一人の女の子が現れた。



その女の子は、黒色の髪でこの国の物ではない服を着ている。
そして、その女の子の側に白い犬が近寄って行く。

そして、その女の子がその白い犬を優しく撫でると、その白い犬も嬉しそうに尻尾を揺らし始めた。




ーあぁ、そうか、あの女の子は…きっとー




私が居なくなれば、レフコースはどうなるのか…それだけが気掛かりだった。でも、もう大丈夫だろう。あの子が居るだろうから。

そして、私は、私を捕えている騎士に最後の抵抗を試みる。私の力を欲しているから、殺されはしないだろうと──。

そんな油断が…裏目に出た。


「何をしている!?殺すなと言っただろう!!」

その騎士は、誤って私に致命傷となる程の怪我をさせてしまったのだ。某国の王子と思われる男が、その騎士を怒鳴りつけている。


私の喉からは、ヒューヒューと言う音が聞こえる。

私が死んでしまったら、レフコースとの繋がりが切れてしまう。その反動で、魔力が暴走しなければ良いが…。

ーいや、私との繋がりが完全に切れる前に、やっておかなければならないなー

私は最後の力を振り絞り、繋がりが切れる前に、敢えて私の魔力をレフコースに少しだけ残るようにした。そして、残り僅かな私の魔力をある1本の木に注ぎ込んだ。

ーこれで…が……できた…筈だー


喉から聞こえていたヒューヒューと言う音も、段々と聞こえなくなって来た。目の前にある筈の生い茂った木々も霞んで見えなくなって来た。

ソッと目を閉じて思い浮かぶのは、綺麗なアイスブルーの瞳をした、綺麗な真っ白な毛を纏ったレフコース。



今はまだ…これからも辛い事があるかも知れないが、きっと…あの子が…迎えに来てくれるから……だから…それ迄は────






ーどうか、レフコースに…幸せが訪れますようにー







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