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第七章ー隣国ー
ゼンの帰郷
しおりを挟む*時間は少し遡って、ハル達が隣国へと転移して数時間後のパルヴァン邸にて*
「あぁ─無事に…帰って来れたんだな?」
『よく、のうのうと帰って来れたもんだな?』
と、副声音が聞こえた。
「…只今…戻りました。」
何となく予想はしていた。きっと、俺の帰りを待ちわびているのは─シルヴィア様だろうと。そのシルヴィア様の横で、グレン様が苦笑している。
「ゼン─。時間が空いたら…先ずは…話を聞こうか?それからだな?」
と、シルヴィア様が小首を傾げている。やはり、シルヴィア様は─俺に…静かに…キレているようだ。
「言葉が通じなくなった?」
一緒に連れ帰って来たカオル=ミヤシタをルナとリディに任せ、俺はグレン様とシルヴィア様と共に執務室にやって来た。
あの隣国の魔法使いが、クズに魔力封じの枷を嵌め拘束した後も普通に会話はできていた。だが、魔法使いが隣国に帰ってから2日程経った日、急にクズと言葉が通じなくなった。それからはずっと、何処の国の言葉か分からない言葉で叫んでいる。
魔導師長がステータスを確認してみると、既にクズは“聖女”ではなくなっていた。聖女として召喚されたにも関わらず、聖女の務めを一切果たさなかった。僅かにあった聖女の力が無くなり─そのせいで、言葉が通じなくなったのではないかと。
そのせいもあり、クズの調査や事後処理がなかなか進まず、パルヴァンに帰って来るのに思った以上の時間が掛かったのだ。
「丁度良かったんじゃないのか?どうせ、その娘は、リュウとやらが元の世界に送り返すのだろう?」
「はい。隣国の穢れがある程度落ち着いてから─になるので、いつになるかは分かりませんが…。」
穢れを完璧に祓えるのは聖女だけだ。魔法使いだからと言って、そう簡単にはいかないだろう。あのクズがこの国─この世界から居なくなるのは、いつになる事やら…と、げんなりする俺とは違い、何故かグレン様とシルヴィア様はそれ程キレていない様に見える。
ー何故だ?ー
いや、実際、シルヴィア様は、俺の失態にはキレている。
しかし─
“ハル様が、自分の世界に還った”
ハル様にとっては良い事なのかもしれないが、俺にとっては…心に大きな穴が空いた様な感覚だ。勝手に娘の様に見守っていた。その娘が、自分の手の届かないところに行ってしまったのだ。しかも─俺たちに不信感を抱いたまま─。
「ゼンは…かなり堪えているようだな?」
「はっ。当たり前じゃないのか?自分の失態でもあるのだから。かと言って、ここではまだ教えてはやらないけどね?」
と、グレン様とシルヴィア様が、何やらコソコソ話をしていたが、考え事をしていた俺の耳には、何も入っては来なかった。
「あの言葉、ハル様の世界の言葉ですね。」
「ルナとリディは、クズが何を言っているのか解るのか?」
「いえ─。ハル様からいくつか教えて頂いた単語があったので…そうだろうと思っただけで、何を言っているのかまでは解りません。」
おそらく、“この枷を外せ”とか、“私は聖女よ!?”とか─文句しか言っていないのだろうが…ギャアギャアと煩くてかなわない。本当に…イライラするな─。
「口も塞ぐか?いや─縫った方が早いか?」
「ゼンさん、少し落ち着きましょう─。」
ーそんな事したら、ハル様が倒れるからー
とは、まだ口に出して言わないけど─と、ルナとリディは心の中で囁いた。
「そう言えば…ティモスはどうした?」
パルヴァンの森の状況を確認しようと思い、ティモスを呼ぼうかと思ったが、パルヴァンの邸に帰って来てから、一度もティモスを見掛けていない事に気が付いた。
ー森にでも行っているのだろうか?ー
「あー…ティモスは…今日は休みの日で…街にでも行ってるんじゃないでしょうか?」
と、私にお茶を持って来てくれた侍女が、何となく言いにくそうに言って来た。
?休みなら仕方無いか─。
森にはまだ穢れは出ていないと思うが、隣国の状態がアレなら、いつ影響を受けてもおかしくないだろう。
隣国に行ったエディオル様から、届く報告によると、穢れはまだ辺境地で収まっているとの事だった。ただ、辺境地と言う事は、隣接している国にも影響が出る可能性があると言う事だ。隣国と接している国は、我が国を合わせて三ヶ国ある。その三ヶ国の王達は、今回の隣国の王の穢れに対する対応に関して抗議文を送る事にしたそうだ。それでも動かなければ─いや、動いたとしても─
「一波乱…あるだろうな。」
ーん?そう言えば…エディオル様からの報告も、今日は来ていないなー
エディオル様は、王城とパルヴァンには報告書を飛ばしてしるのだが…
「何事も無ければ良いが…」
ハル様が居なくなった事で、自分を見失うような事にならなければいいが─。
ー他人の事も…言ってられないな…ー
気持ちを切り替えるように、俺は頭を軽く振ってから、自室を後にした。
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