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第六章ー帰還ー
内密
しおりを挟むベラトリス様とテーブルを挟んで、ミヤさんと私が3人掛けのソファーに座ると、サエラさんが紅茶を用意してくれた。そして、皆でゆっくり話がしたいから─とお願いして、サエラさんとルナさんにもソファーに座ってもらった。
何故、ベラトリス様が謝るのか?と訊けば─
どうやら、私とベラトリス様を内緒で会わせようとしていたハンフォルト様が、私が行方不明?になったと分かった後に、実は私だけ還れずパルヴァンに居た事を聞いたらしい。
「それで、私─喜んでしまいましたの。ハル様が…この世界に居ると…喜んでしまいましたの。ハル様が還りたがっていた事を知っていたのに…。それと…今回の事も聞きましたの。また…お兄様やお父様が…。本当にごめんなさい。」
ーあぁ…そう言う事か…ー
「ベラトリス様…。あの…私、還れなかった時は本当に辛かったんですけど、パルヴァンの人達に優しくされて、気が付いたら毎日が楽しくなってたんです。全然不幸じゃなかったんですよ?なので─私がこの世界に居る事を喜んでくれるのは、私にとっては嬉しい事なんです。まぁ─色々あって、一度還りましたけどね?」
「ハル様─っ」
「また…身分は全然違いますけど…仲良くしてもらえますか?」
と、子供みたいなお願いをすると
「勿論ですわ!」
と、ベラトリス様は笑ってくれた。
「─と言う事で、私の事は勿論の事、ハルがここに戻って来ている事も内緒にしているの。」
「それは─面白い事をしていますのね!」
ミヤさんが、今の状況を説明すると、やっぱりベラトリス様もルナさんもサエラさんも笑顔で頷いている。
ーやっぱり、私って…今迄甘過ぎたのかなぁ?ー
「─ただ…エディオル様には…教えてあげては?…と…。」
ーエディオル様ー
「コレは…内密なのですが…今、エディオル様は、あの魔法使い─リュウ─と一緒に隣国に行っていますの。」
「え?」
「あの聖女─カオルの処遇が決まった後すぐに、リュウは自国の穢れを祓う為に転移魔法で隣国に帰ったのですが、そのリュウの見張り役を兼ねて─エディオル様が同行する事になりましたの。」
ーじゃあ、エディオル様は隣国でリュウと行動を共にしているって事?ー
「お父様が、穢れをなんとかしなければいけない─と、書状を持たせましたが、隣国の王はそれでも動かないようで…。リュウと、穢れが出ている辺境の騎士達とで、何とか穢れを落ち着かせようとしているみたいですわ。」
それって…大丈夫なんだろうか…。穢れが出ていると言う事は、勿論そこに魔物や魔獣だって居る筈だ。お姉さん達みたいにハイスペな聖女なんて居ない。そこに…エディオル様が?
知らず知らずのうちに、手が震えていた。
*隣国にて*
「まだ辺境地で収まっているとは言え、思っていたよりも酷いな─。」
聖女の処遇が決まり、直ぐに隣国に転移すると言うリュウに、使者と見張り役を兼ねて同行する事になった。
『他国の者に口出しされる案件ではない。王都の騎士の派遣も必要ないだろう。穢れが出ている地の騎士とリュウ、魔法使いのお前が居れば問題なかろう─。』
この国の王はそう言って、そのままリュウを辺境地に向かわせ、俺も、それに同行してやって来た。
「だろ?誰が見ても酷くなって来ているのに、王達は見て見ぬふりなんだ。あんたはこの国の人間じゃない。俺は逃げたりしないから、あんたは自分の国に─」
「危険だと言う事は分かっているが、お前を放って帰るつもりはない。」
ー帰ったところで…息が詰まるだけだー
ハル殿が元の世界に還った─それだけが残った。
ランバルトをはじめ、周りの皆が俺を腫れ物扱いをする。そんな所より、ここに居る方がまだマシだろう。
「兎に角、お前は穢れに集中しろ。俺と辺境の騎士達で、出て来る魔物や魔獣を対処する。」
「─すまない。」
本当に、この魔法使い─リュウは、人が変わったかの様だな。ハル殿をレフコースの贄にしようとした人物と、同じようには見えない。
この国の王がアテにならないのなら、リュウに頑張ってもらうしか…ないだろう。
穢れが落ち着く迄─とは…どれ程の時間が掛かるか分からないが─今の俺にとっては、ありがたい事かもしれない。自分の事を棚に上げ、ランバルト達を責めてしまうかもしれない。ならば、今はこの国で、リュウと共に剣をふるっているいる方が…心が落ち着くのだ。
ハル殿は、無事に元の世界に還れたのだろうか?俺に不信感を抱いたまま還ってしまった事は、本当に辛い事だが─自業自得なところもある。ハル殿が、異世界に居ても元気で居てくれたなら良いか─と、素直に思える日が─来れば…。と、そこで、フルフルと軽く頭を振る。
ー兎に角、今は目の前の事に集中しろ!ー
と、気持ちを切り替えて、穢れを祓っているリュウの背中を見つめた。
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