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第六章ー帰還ー
自分と向き合う
しおりを挟む『琴ちゃんがあっちに戻りたいって言うなら…その手立てが無い訳じゃ…ないんだよね─って言ったら…どうする?』
『まぁ…確証はないんだけど…。とにかく、琴ちゃんの気持ち次第かな? 』
そう美樹さんに言われたのが3日前。
今、私は咲さんの家でお世話になっている。そして、今日は咲さんが夜勤の日なので、久し振りに1人で過ごす夜となった─。
ーゆっくり、自分と向き合う為には丁度良かったのかもねー
唯一、向こうの世界から持って還って来た“秘密のポーチ”を手に取り、中にある物を取り出す。
取り出せたのは、アイスブルーの色の石一つ。
そう─。本当は、もっとたくさんの物をここに入れている筈なのだけど…。今の私には魔力が無い。魔力が無いから、この“秘密のポーチ”も、“ただのポーチ”でしかないのだ。
ーアイスブルーー
レフコースの邪魔にならないように…私が一方的に繋がりを切った。そんな私を、レフコースはどう思っただろう?悲しんだ?怒った?それとも─喜んだ?
それに…レフコースの魔力と一緒に、僅かに流れていた巫女の魔力も、あの時、一緒に私の中から失くなっていった。だから、私もこっちに還って来れたのだ。
また会えたとして、巫女の魔力が失くなった私でも、また名を交わせられる?
レフコースに既に新しい主が居ても、私は笑って喜んであげられる?
本当に、自分勝手な話しだよね─。
“新たに恋に落ちた氷の騎士”
アレは、飽くまでも噂だ。
噂があてにならない事なんて、私が一番身に沁みて知っていた筈なのに。エディオル様本人の口から真実を聞くまで待てば良かったんだ。最初の頃の事は別として、エディオル様は…ちょっと意地悪な処もあるけど、いつも私には優しくて真っ直ぐ向き合ってくれていた。
「本当に、私…心が疲れてたんだなぁ─」
お姉さん達と再会して、今迄言えなかった事、言いたかった事全部吐き出したら…心が軽くなって、色んな事が見えるようになった。
『間違ったかもしれないけど─後悔もいっぱいするかもしれないけど…きっと、この選択は、琴音にとって必要な事だったんだよ…。』
うん─。これは、私が私の意思で選んだ道だ。ゲームのシナリオなんかじゃない。後悔は─しているけど、それは、自分が選んだからの後悔。なら、これからどうするか─を考えれば良い。
またあっちの世界に戻れたとして─
もう、そこに私の居場所が無かったら?少し怖いけど、もう一度、自分で自分の居場所を作れば良い。レフコースに新しい主が居ても、エディオル様の横に、誰か違う人が居たとしても─。いっぱい泣いて…また頑張れば良いんだ─。
たったの一週間程しか経っていないのに、また皆に会いたくて仕方がない。
ー会いたいー
そう思ってしまったら…もう駄目だった。
「─あっちの世界に…エディオル様の元に…戻りたい。エディオル様に…皆に…会いたい─。」
『俺の知らないところで泣かれるのは嫌だから…泣くなら…俺の腕の中で…泣けば良い。顔も隠れるし…丁度良いだろう?』
フワリと優しくて微笑んでくれたエディオル様を思い出す。
ーはい。そこに戻る迄─そこ以外の処では泣きませんー
もう、そこが、私が泣いて良い場所ではないかもしれないけど─。
それから私は布団に潜り込み、咲さんが帰って来る迄眠りに就いた─。
「じゃあ、琴音は…あっちの世界に戻るのね?」
「…はい。」
咲さんが夜勤明けに帰って来て寝た後、少し遅めのお昼ご飯を一緒に食べながら、咲さんに私の気持ちを素直に話した。
「─琴音が戻っちゃうのは寂しいけど…でも、安心した。」
「安心?」
何の?と首を傾げて咲さんを見る。
「だって、こっちに還って来た時の琴音の顔が…“嬉しい”って顔じゃなくて、辛そうな顔だったって美樹が言ってたのよ。」
「美樹さんが…」
「でも、今の琴音の顔は、スッキリと良い顔になってる。琴音は、本当に、エディオルさんの事が好きなんだね?」
「えっ!?すっ─!?」
そう指摘されると恥ずかしいけど…
「─はい…すっ…好きです!勿論、パルヴァンの人達も好きですけどね?もう、そこに私の居場所はないかもしれないけど…それでも戻りたいなって…。」
「ゲームのシナリオに、怯えるような毎日になっても?」
「─はい…。」
「……そっか…。琴音は…強いし偉いね。」
と、咲さんが優しくて私の頭を撫でてくれた。
「よし!それじゃあ。早速美樹に連絡するわ!琴音があっちに戻りたいって言ってるって!」
「ありがとうございます。」
咲さんは、そのまますぐに美樹さんに連絡を入れてくれて、美樹さんもその時間は勤務中の筈なのに、速攻で返信があり、来週の土曜日に皆で集まる事になった。
まだ、あっちの世界に戻れるかどうかは分からないけど…無事に戻れたら、どんな事が起こっていても逃げずに頑張ろう─。
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