上 下
150 / 203
第六章ー帰還ー

自分と向き合う

しおりを挟む

『琴ちゃんがあっちに戻りたいって言うなら…その手立てが無い訳じゃ…ないんだよね─って言ったら…どうする?』

『まぁ…確証はないんだけど…。とにかく、琴ちゃんの気持ち次第かな? 』





そう美樹さんに言われたのが3日前。
今、私は咲さんの家でお世話になっている。そして、今日は咲さんが夜勤の日なので、久し振りに1人で過ごす夜となった─。

ーゆっくり、自分と向き合う為には丁度良かったのかもねー

唯一、向こうの世界から持って還って来た“秘密のポーチ”を手に取り、中にある物を取り出す。
取り出せたのは、アイスブルーの色の石一つ。

そう─。本当は、もっとたくさんの物をここに入れている筈なのだけど…。今の私には魔力が無い。魔力が無いから、この“秘密のポーチ”も、“ただのポーチ”でしかないのだ。


ーアイスブルーー

レフコースの邪魔にならないように…私が一方的に繋がりを切った。そんな私を、レフコースはどう思っただろう?悲しんだ?怒った?それとも─喜んだ?

それに…レフコースの魔力と一緒に、僅かに流れていた巫女の魔力も、あの時、一緒に私の中から失くなっていった。だから、私もこっちに還って来れたのだ。

また会えたとして、巫女の魔力が失くなった私でも、また名を交わせられる?

レフコースに既に新しい主が居ても、私は笑って喜んであげられる?
本当に、自分勝手な話しだよね─。




恋に落ちた氷の騎士”

アレは、飽くまでもだ。
噂があてにならない事なんて、私が一番身に沁みて知っていた筈なのに。エディオル様本人の口から真実を聞くまで待てば良かったんだ。最初の頃の事は別として、エディオル様は…ちょっと意地悪な処もあるけど、いつも私には優しくて真っ直ぐ向き合ってくれていた。


「本当に、私…心が疲れてたんだなぁ─」

お姉さん達と再会して、今迄言えなかった事、言いたかった事全部吐き出したら…心が軽くなって、色んな事が見えるようになった。



『間違ったかもしれないけど─後悔もいっぱいするかもしれないけど…きっと、は、琴音にとって必要な事だったんだよ…。』


うん─。これは、私が私の意思で選んだ道だ。ゲームのシナリオなんかじゃない。後悔は─しているけど、それは、自分が選んだからの後悔。なら、これからどうするか─を考えれば良い。

またあっちの世界に戻れたとして─

もう、そこに私の居場所が無かったら?少し怖いけど、もう一度、自分で自分の居場所を作れば良い。レフコースに新しい主が居ても、エディオル様の横に、誰か違う人が居たとしても─。いっぱい泣いて…また頑張れば良いんだ─。

たったの一週間程しか経っていないのに、また皆に会いたくて仕方がない。

ー会いたいー

そう思ってしまったら…もう駄目だった。

「─あっちの世界に…エディオル様の元に…戻りたい。エディオル様に…皆に…会いたい─。」



『俺の知らないところで泣かれるのは嫌だから…泣くなら…俺の腕の中ここで…泣けば良い。顔も隠れるし…丁度良いだろう?』

フワリと優しくて微笑んでくれたエディオル様を思い出す。

ーはい。に戻る迄─以外の処では泣きませんー

もう、が、私が泣いて良い場所ではないかもしれないけど─。


それから私は布団に潜り込み、咲さんが帰って来る迄眠りに就いた─。








「じゃあ、琴音は…あっちの世界に戻るのね?」

「…はい。」

咲さんが夜勤明けに帰って来て寝た後、少し遅めのお昼ご飯を一緒に食べながら、咲さんに私の気持ちを素直に話した。

「─琴音が戻っちゃうのは寂しいけど…でも、安心した。」

「安心?」

何の?と首を傾げて咲さんを見る。

「だって、こっちに還って来た時の琴音の顔が…“嬉しい”って顔じゃなくて、辛そうな顔だったって美樹が言ってたのよ。」

「美樹さんが…」

「でも、今の琴音の顔は、スッキリと良い顔になってる。琴音は、本当に、エディオルさんの事が好きなんだね?」

「えっ!?すっ─!?」

そう指摘されると恥ずかしいけど…

「─はい…すっ…好きです!勿論、パルヴァンの人達も好きですけどね?もう、そこに私の居場所はないかもしれないけど…それでも戻りたいなって…。」

「ゲームのシナリオに、怯えるような毎日になっても?」

「─はい…。」

「……そっか…。琴音は…強いし偉いね。」

と、咲さんが優しくて私の頭を撫でてくれた。

「よし!それじゃあ。早速美樹に連絡するわ!琴音があっちに戻りたいって言ってるって!」

「ありがとうございます。」

咲さんは、そのまますぐに美樹さんに連絡を入れてくれて、美樹さんもその時間は勤務中の筈なのに、速攻で返信があり、来週の土曜日に皆で集まる事になった。


まだ、あっちの世界に戻れるかどうかは分からないけど…無事に戻れたら、どんな事が起こっていても逃げずに頑張ろう─。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。 それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。 公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。 なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。 おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。 へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。 なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。 彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。 「マジか……」 そう思っていたら、自分達の体も光りだす。 「怖い……」 そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位! 読者の皆様、ありがとうございました! 婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。 実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。 鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。 巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう! ※4/30(火) 本編完結。 ※6/7(金) 外伝完結。 ※9/1(日)番外編 完結 小説大賞参加中

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

出戻り巫女の日常

饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。 ★本編完結済み。後日談を不定期更新。

処理中です...