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第六章ー帰還ー
春ノ宮琴音
しおりを挟む「ハル!本当に、あのハル!?ちょっと、顔をよく見せて!!」
一頻り3人に抱き枕状態にされた後、ミヤさんが私の顔に両手を当てて上を向かされた。
ー身長低くてごめんなさいー
「うん─。髪色は違うけど…この瞳の色は…ハルだね。うん─ハルだ…良かった─。」
と言うと、ミヤさんが泣き出した。
「え?ちょっ…ミヤさん?どうしたんですか!?」
「…あの時…ハルに手を伸ばしたのに…届かなくて…私は無事にこっちに還って来たのに、ハルだけが居なくて…」
あぁ…そうか…。ミヤさんは、私が還って来れなかったのは自分のせいだと…責任を感じていたんだ─。
私は、泣いているミヤさんにソッと抱き付いて
「ミヤさんのせいじゃないですよ?それも含めて…私の話を聞いてくれますか?」
と言うと、ミヤさんは
「…勿論─。」
と、泣きながらフニャッと笑ってくれた。
「私も聞くし、私も仲間に入れてー!」
と、また美樹さんが抱き付いて来て、その横でショウさんが「エンドレスだね…」と、苦笑していた。
それから
宮原咲さん改め─咲さん─
小宮千尋さん改め─千尋さん─
と美樹さんの3人が、晩ごはんに鍋を用意してくれた。
ーうん。鍋も懐かしいー
その準備をしている間に、“今”の事を聞いた。
今は、私がお姉さん達と召喚されてから2年程経っていた。そう─私が還れなかった時から、同じ程の時間が経っていたのだ。
「私達が還って来た時は、召喚された時と同じ時間だったけどね。」
成る程。向こうで成長が止まっていたからだろう。私はそこから成長も進んだから、その分こっちの時間も進んだんだろう。
ー合理的なゲームだよねー
お鍋の〆は─雑炊でした。やっぱりお米は美味しい!
「それで?琴音は…この2年は、どうしてたの?」
食後に、美樹さんお手製のシフォンケーキと紅茶が用意され、咲さんが私に訊いてきた。
私は、少し深呼吸をしてから、お姉さん達にこの2年の間の話をした。
「─エディオル…カルザイン!?は?え?」
ーうん。やっぱり、そこ、驚きですよね…ー
「え?何?琴音?アイツに脅されたりしてたの!?」
「えー!?脅っ??」
どうやら、咲さんの中では、エディオル様は有り得ないらしい─。確かに、お姉さん達が居た時のエディオル様は…良い印象があまり無かったよね…。
「あの…お姉さん達が知ってる様な怖い?感じじゃなくて…あの…本当に優しくて…いつも私の事を助けてくれて…」
ーそうだ…いつも助けてくれてたのにー
「琴音?」
「私…逃げちゃったんです…。疲れたな─って…」
ーあんなに優しくてしてくれたのにー
実はゲームが続いていて、また聖女が召喚された事。その製作者が転生して魔法使いとして現れて─。それからの事も全部、お姉さん達に話した。私の気持ちも全部─。私は…誰かに私の気持ちを聞いて欲しかったのかもしれない─。
「琴音…辛かったね?」
「琴音は…周りに気を使い過ぎなのよ。もっと、我が儘を言っても良いと思うよ?」
「そうよ、琴ちゃん、逃げて良いのよ?」
「え?」
「そもそも、何か理由があるかもしれないけど、“何も言わなくても分かってくれる”とか、“待っててくれ”とかさぁ…こっちはエスパーじゃないってのよ!!いや、琴音は魔法使いだったけど、他人の心の中なんて、誰にも分からないんだから。ちゃんと言葉にしないと分からない。まぁ…それは琴音にも言えるかもだけどね?」
「そうそう。でね、私は疲れた時は、逃げても良いと思うの。じゃないと、心が壊れちゃうから。琴ちゃんは、逃げて自分の心を守っただけなんだよ。私は…私の大好きな琴ちゃんの心が壊れる前に逃げて─ここに還って来てくれて、また会えた事が嬉しい。」
キレ気味に語る咲さんの後に、美樹さんが優しい言葉をくれる。
「うんうん。逃げるのも時には大事だけど、やっぱり─逃げたままも駄目だよ?ちゃんと、その後には、向き合う事が大事なんだけど─どうしたものかなぁ?」
流石、学校の先生の千尋さん。釘をしっかり刺してくれます。
ー向き合うー
後悔しても、もう遅い。もう向き合えない。もう会えないのだ─。
「…私…間違った?」
「…琴音…」
咲さんが、優しくて抱き締めてくれる。
「間違ったかもしれないけど─後悔もいっぱいするかもしれないけど…きっと、この選択は、琴音にとって必要な事だったんだよ…。美樹が言った通り、琴音の心が壊れなくて良かったって、私も思う。」
「咲さん…」
千尋さんも私をギュッとしながら
「ねぇ、琴音、前に約束した事…覚えてる?」
「─約束?」
「ふふっ。暫くはあの世界の事は置いといて、4人でいっぱい遊ぼう!琴ちゃん、いっぱい─たくさん、名前を呼んであげるわ!」
と、美樹さんも抱き付いて来て、またまたギュウギュウされました。
ーそうだ、私の本当の名前は“春ノ宮琴音”だー
今だけは、春ノ宮琴音として、何も考えずにお姉さん達との時間を楽しもう─。
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