巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

文字の大きさ
上 下
146 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー

聖女様

しおりを挟む


ーあぁ…本当に何もかもが上手くいかないー


私の名前は─宮下香─

優しかった両親が、私が15歳の時に交通事故で亡くなった。悲しくて悲しくて、いっぱい泣いたのを覚えている。そして、その時に気が付いた。

ーここは、私の為にあるゲームの世界だとー

とある恋愛ゲームの続編。前作でノーマルエンドを迎えた後の話だった。前作のゲームは全ルート制覇した。私の一推しは─エディオル=カルザイン─。あの氷の様に冷たい瞳が、ヒロインだけには蕩けるような顔を見せるのだ。クリア後にゲットしたスチルは、スマホの待ち受けにもした。

勿論、続編でも一番最初にエディオルを攻略した。前作より更に甘々な展開でヒロインを囲い込む様に攻めるエディオルは…最高だった。そして、あまり期待していなかった、隠しルートのレフコースエンド。これがまた良かった!擬人化したレフコースは美男子だった。

そんな2人を、これから先、私が手に入れる事ができるのだ。

ーその前に…親戚に引き取られた私って、苛められるんだよねー

家では義姉妹に苛められ、学校でも苛められ…いや…。どうせ、私はここから居なくなって、ウォーランド王国に行くんだ。別にやられっぱなしじゃなくても良いんじゃない?

「ふふっ…本当に、良いタイミングで気付いたわ。」




そして、シナリオ通りに、私は父方の従兄弟に引き取られ、そこでの生活が始まった。そして、義姉妹からの苛めも始まった─のだけど。

「お義父さん、お義母さん、お義姉さんが…私が居るから、この家の空気が汚れるって…だから、ごめんなさい…私、居ない方が良い?」

泣きながらチクると、優しい優しい義両親は

「そんな事ないわ!あなたはここに居て良いのよ!」

と言いながら義母は私を抱き締めてくれ、義父が義姉を叱りつける。

ーふんっ。様あみろ!私は黙って堪えたりなんかしない!ー

勿論、義両親の見えないところで仕返しもしてやった。


高校に入ると、更に苛められるようななったけど、それも、誰にも気付かれないように仕返しをしてやった。私の教科書を破った奴には、その子がをしている写真を教室の黒板に張り付けてやった。私をブスだと罵って来た子の彼氏を寝取ってやった時は、本当に胸がスカッとした。

ーだって、私は誰からも愛されるヒロインなんだものー



そして、ようやく。ようやく、ウォーランド王国に召喚されたと思ったら…前に召喚された聖女達の浄化が完璧で、1年経った今でも穢れが出ていないと言われたのだ。私は、歓迎されるどころか、どう扱って良いか分からない存在だった。

されど、私は聖女であり─この世界のヒロイン。このまま王城で過ごす事を許された。

シナリオ通り、王太子であるランバルトが私の世話役になった。そして、一緒に過ごすうちに気付いた。

ー私、“魅了”が使えてる?ー

ランバルトの瞳が日に日にトロンとなり、私の意見に全て賛同してくれるのだ。

ーあぁ…何て素敵なの!?ー

これだと、エディオルもレフコースも私のものにできるわ!










なのに─。







私が居る筈だった場所には、あのモブの薬師が居た。

パルヴァン辺境伯は死んでないし、私と名を交わす筈だったレフコースは、そのモブと交わしてしまっている。それに─。私に向ける筈だったエディオルの、あの蕩けるような優しい笑顔までもが、あのモブに向いているのだ。

「許さない─」

そう思っていると、急に、エディオルが私の護衛に付く事になった。それを機に、若い魔導師に魅了を掛け、私の魔力も少し使って城全体に、あのモブ薬師とエディオルが連絡が取れないように─と、遮断の魔術を掛けさせた。私の魔力は“流石はヒロイン!”と言った感じで特別な様で、魅了もそうだが、城全体に掛けた魔術も、そう簡単にバレたりもしなかった。

ー本当に、思い通りに事が運んできたー

でも─肝心のエディオルは、私がお願いしても、カオルとは呼んでくれない。エスコートはしてくれるけど、笑顔を向けられる事はない。



「聖女様…あの薬師が、王女殿下が管理をしている庭に来ているそうです。どうされますか?」

聖女わたしの信奉者の一人が、私に報告をしてきた。

ーふふっ…いい機会だわー

「エディオル様を呼んで来て下さい。私も…その庭のお花が見てみたいわ。一般の薬師が入れるなら…私でも大丈夫よね?」

「承知しました。カルザイン様を呼んで参ります。」

そのまま、その侍女が部屋から出て行く。

「ははっ…本当に、いいところに来たわね。」

ーエディオルが誰のものか…思い知らせてやるわ!ー



『あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…』



あの時のあの薬師の顔は…最高だった。エディオルも私から離れなかったし。何と言っても、ようやくレフコースに会えた!ようやく、シナリオが元通りになって来たんだ!本当に、これからが楽しみだわ!

「私の邪魔をする奴は…絶対に排除してやるんだからね─。あの薬師も…早く消えてしまえば良いのに。」


そして、あの薬師がある店に行くと言う情報を得て、その日は急遽、外出の許可をもらい、その店へと向かった。

エディオルの色を纏って─。

残念な事に、あの薬師と遭遇する事はなかったけど、私とエディオルの仲を、王都の人達に見せつける事ができたから…良しとする。



「あの薬師がエディオル様にしつこく付きまとっていて…。」

「本当は私と居たいと…言ってくれているの…」

目を潤ませてそう言うと、皆が同情してくれる。

ー本当に、この世界の人間はチョロいわー

“聖女”と言うだけで、誰もが私を信じる。本当に素敵な世界。このゲームを作った人には感謝しなきゃね。


さて、後は…あの薬師を完璧に排除して、 レフコースと名を交わすだけ…本当に…楽しみだわ!



しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...