巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

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第五章ー聖女と魔法使いとー

違う世界

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「あんた達、俺を探してる?」


を目にした俺とゼン殿とレフコース殿が、何の躊躇いも猶予も加減も無くに飛び掛かった。

「俺を殺しても何しても良いけど、俺が死ぬと…ハルの居場所は一生分からないままになるよ?」

と、は、両手を上に上げ、抵抗する意思が無い事を表しながら立っていた。

「─っ!?」

その言葉を聞き、3人共がグッと自身の動きを止めた。

「─魔法使いが…よく、俺の目の前に現れたなぁ?覚悟はできてるんだよな?それで?今言った事は…本当なんだろうな?」

ゼン殿の本気の殺気を浴びるのは…初めてだが、確かに…これはヤバい…。立っているだけでやっとだ…。
レフコース殿は、そんな殺気を物ともせずに静かな怒りを纏ってその魔法使いを見据えている。

「ははっ…本当に…ハルは、この世界の者に愛されてて…自分の居場所を作っていたんだな…。兎に角…流石の魔法使いの俺でも、あんた達のその殺気はちょっとキツイから…収めてくれる?」

少し困ったような、苦しそうな顔をする魔法使いを見ると、どうやら、本当に抵抗も対抗もする気は無さそうに見えた。
俺とレフコース殿がスッと殺気を消すと、ゼン殿も遅れてその殺気を消した。

「…父さん、“クソ魔法使い”と言う事は…」

「あぁ、お前は初めて見るな?こいつが、カテリーナ様とハル様を、レフコース殿フェンリルの贄にしようとした魔法使いだ。」

それを聞いたルナ殿とリディ殿もピクリと反応したが、その場に何とか留まっている。

「それで?ハル様は今、何処に居る?」

「その前に二つ程…あんた達に訊きたい事がある。それを訊いてからだ。」

「…何を訊きたい?」

ゼン殿が魔法使いに聞き返すと、その魔法使いはうっすら嗤っていた顔から真剣な顔になり

「あんた達にとって…聖女─宮下香─は…この世界には必要か?」

と、訊いてきた。

「必要か必要ではないか─とは、見方やその者によって違う。一つ言える事は…今ここに居る俺達にとってはだ。今の状態でのこの国にとっても、かもしれないが─では欲しがる国もあるかもな?」

「…なる程ね…。それじゃあ、もう一つ…ハルは、姿を消す前に、あんた達に何か…言ったか?例えば…聖女についてとか…この世界について…」

「何も。そもそも、俺とエディオル様はここ数日ハル様どころか、城外との連絡を遮断されていたから、外部の人間とは一切交流が無かった。ハル様が消えたのも…邸にさえ居なかった事も全く知らなかった。」

「…そうか…“遮断”ねぇ…。本当に…真っ黒だな…」

魔法使いはそう囁いた後、押し黙った。

「…少し…長くなるが、俺の話を聞いて欲しい。」

「その話を聞く意味はあるのか?」

「ハルが姿を消した原因だろうから、聞く意味はあると思うよ?」

魔法使いは、笑う事もなくそうハッキリと言った。

「─分かった。話を聞こう…皆…座ってくれ。」

ゼン殿の言葉に、今迄立っていたロン殿とルナ殿とリディ殿、そして、魔法使いも各々椅子に座った。

そして、その魔法使いの話は─とても信じられないものだった─。














*ハルが還った直後からのリュウ視点*




「よし。ちょっと宮下香がどうなってるのか…見に行くか。」

ハルが元の世界へ還った後─邪魔者も居なくなった事で、これからは宮下香が幸せになっていくだろうと思い、王城迄様子を見にやって来た。勿論、容姿を変えて─。

なのに─


「嘘…だろう?」

が…俺の作った聖女─宮下香─なのか?ー

彼女を1日も見ていなくても分かった…分かってしまった。確かに、容姿は俺が作った通りで可愛い。でも…

ー性格が…悪いと言うか…腹黒過ぎないか?ー

攻略対象者は勿論の事、伯爵以上の者にはか弱く演じ、それ以下の者には…。もう、“これは誰だ?”状態だ。

ー有り得ないー

俺が、召喚した時に彼女のステータスを確認した時、確かに─あれ?─と思った。俺が設定した筈の聖女のレベルよりも遥かに低かったのだ。日本で、聖女としてのレベルが上がるようにしていたのに。

ーこれもバグか?ー

と思って、俺の─魔法使い─の魔力をこっそり彼女に少し分け与えたのだ。それを基に聖女としての訓練を頑張れば、本来のレベルに戻るだろうと…思っていたのに。

彼女は、その、俺の魔力を使い

“魅了”を発動させていた─。

勿論、聖女のレベルは全く上がっていないどころか…更に下がってないか?

確かに、穢れがない今のウォーランド王国に、聖女の力は必要はないかもしれないが…だからと言って、魅了を使い遊んで良い訳じゃない─。

それに、恐らく、彼女はここが自分の為に作られた世界─乙女ゲームの世界─だと言う事を知っている。知っていて、何の努力もしない。いや─知っているからしないのか?



『…それは…ゲームの話であって、現実は違う。私は、私の意思を持って…ここに居る。』

確かに…この宮下香も、自分の意思を持って動いている。それも、駄目な方に─。

「はっ…」

冷たい笑いが、俺の口から溢れた。

ヒロインがなら、この世界は、もう俺が作った物では…無い。こんなヒロインで…皆が幸せになる事はないだろう─。ヒロイン自身も。


『私は…例え報われなくても、失敗しても辛い事があっても…自分の意思で選んだ道を歩く事ができないーそんな世界で生きていくなんて…嫌だ。』


ー本当に…痛い言葉を残して行ってくれたなぁー


「俺も…ギデルみたいに…やられるんだろうか?」

が、必死になってハルを探しているのを知っている。このまま放っておくつもりだったけど…。

「自分の尻拭いは…自分でしないとなぁ…」

と、暫く宮下香の行動を確認した後、色んな覚悟をしてから、王都のパルヴァン邸に転移した。










「この世界が…ゲーム?の世界?」

「そう。俺が作りかけてたゲームの世界。だけど、もう、俺の作った物ではなくなってる。まぁ…この話を信じる信じないは、あんた達に任せるけどね?」

「今回の嫌な偶然の重なりや、嫌な流れは…その“強制力”のせいだと?」

「そうかもしれないし…宮下香が、そうなるように持って行ったのか…。ただ、ハルはここがゲームの世界とは知らなかったし…ここがゲームの世界だと言っても、“ここは現実の世界で、一人一人が意思を持って生きている”と…信じているようだった。」

そう─。自分で自分に言い聞かせるように─。

「俺は、ソレに対して不安を煽るようにハルに言葉を残した。その言葉にゆっくり心が壊れて、俺の処に来るようにね。その時は俺の名を呼べと言って─。」

そう言うと、エディオルがヒュッと息を呑んだ。

「─そう。ハルは俺の名を呼んだんだ。」

ー俺の手を取ると思っていたのにー

「でも、ハルは俺を…この世界で生きる事を…拒絶した。」

「……拒絶?」



「聖女─宮下香─を召喚したのは…魔法使いである俺だ。魔法使いは、一度位ならそれができるだけの魔力があるんだ。」

ハルは、国の管理下には居なかった─と言う事は、ハルが魔法使いだと言う事は…おそらく、フェンリル以外は知らないのだろう。

「俺も迄は知らなかったんだけど、ハルも…魔法使いだったんだよ。それも…俺なんかじゃ全く敵わない程の格上のね─。」

ここに居る、俺以外の奴の顔色が一気に悪くなる。



ーあぁ…ハルは本当に愛されてるだなぁー







「ハルは…元の世界に還ったんだよ─。」












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