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第五章ー聖女と魔法使いとー

引き摺られる気持ち

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「今日の予定は、第一騎士団への差し入れだけか?」


クロエさんと料理人さんにも手伝ってもらって、差し入れはサンドイッチを作った。後は、ポーションも用意している。

差し入れの準備ができたところで、エディオル様も起きて来たので、一緒に朝食をとっているところである。

「はい。今日は差し入れだけの予定ですね。」

と言ったところで、ふと気付く。

黒いモヤの原因は判った。その原因だった魔法使いリュウは、多分この国から出て行った筈。最悪、あのお茶があれば大丈夫だろうし。なら…もう、私が王都ここに居る必要は…ないんじゃないだろうか?ゼンさんは、いつまで王都ここに居るんだろう?ゼンさんがパルヴァンに帰る時に、私も一緒に…

「…ハル殿?」

「っ!はい?」

「あまり食が進んでいないと言うか、止まっていたが大丈夫か?」

どうやら、考え込んでしまって手が止まっていたようだ。

「すみません。ちょっと考え事をしてしまって。」

「考え事?」

「あー…えっと…ゼンさんの訓練も凄いのかな?って…。」

ー嘘ついてごめんなさい!!ー

「あぁ…凄い…と思う…。」

と、エディオル様は遠い目をしながら呟いた。










「それじゃあ、クロエさん、行って来ます。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」


お昼前にパルヴァン邸を出て、今日も馬車で王城に向かう。

黒いモヤの事は解決した。リュウも、もうここには居ない。ならば、もう城に来る必要もない。聖女様の事は気になるけど…どうする事もできないよね?
あー…ベラトリス様とサエラさんには、会いたいなぁ…。パルヴァンに帰るとしも、会ってから帰りたいな。ゼンさんに相談してみよう。

「ハル殿?」

「はい、何ですか?」

危ない危ない。また考え込んでしまうところだった。

「この前、俺の剣に填める魔石を買った所で、加工を頼んでいた物があったんだが、それが出来上がってね。帰りにそこに寄って行っても良いだろうか?」

「はい。勿論大丈夫です。」

「ありがとう。お礼に…どこかでお茶でもしよう。ケーキでも食べようか。」

「ケーキ…お礼とかじゃなくても良いので…食べたいです。」

素直に口から出て、少し恥ずかしくなって顔が熱い。

「良かった。」

そう言って、エディオル様は嬉しそうに笑ってくれた。
こうやって、エディオル様と一緒に居れるのも後少しなんだろうな…と思うと、胸の辺りがチクリと痛む。
恋って、胸が痛くなる事だらけで…大変だよね─。







*****


ーデジャブな光景が広がっていますー

登城後は、エディオル様の案内のまま騎士団の訓練場までやって来ました。

やっぱり…殆どの人が倒れこんでいて、立っているのは数名程度。勿論、ロンさんとルナさんとリディさんは元気に無傷で立っている。

凄いな─。剣で戦うとか全く想像もできないけど、力だけではなく技術?とかも必要なんだよね?

「あ、そう言えば、パルヴァン様の時は、エディオル様が聖女様を連れて来てましたよね?」

と、何気なく思い出したことを口にすると

「あぁ…嫌だったのだが…聖女様の願い事だったからね。ある程度の事は許されるから。そのお陰で、パルヴァン様の怒りを喰らって、今は騎士団の離宮への立ち入りを禁止されている。」

「え!?」

ーまさかの出禁!?ー

えー??続編のヒロインなんだよね?どうなってるの!?





『 “強制力”って分かる?例え違うように進んだとしても、結局は基在るところに向かうんだよ。あんたが真名で交わさなかったのも…後々あのフェンリルが宮下香と改めて名を交わす為だったんじゃない?あんたは自分で選んだと思ってるかもしれないけど…そうじゃないかもね?』



『なぁ、さっき言った事、本気で考えておいて?きっと、これから宮下香は…あんたの居場所を奪って行く筈だから。それと─俺はこの世界では─“リュウ”と呼ばれてる。俺のところに来る気になったら、俺の名前を呼んでくれ─じゃあね。』




ここは、本当に彼女─宮下香が本来居るべき場所だったんだろうか?彼女も、このゲームを知っているようだった。なら、これから彼女が心を入れ換えて頑張れば…

レフコースも、彼女に会ったら…何か感じたりするのかもしれない。そうなったら…私はどうしたら良い?

『主?どうかしたか?』

『え!?』

『主の魔力が、少し乱れてるが…何かあったか?』

と、レフコースが心配そうに私を見上げて来る。

『レフコース…ありがとう。何と言うか…ルナさんとリディさんの強さに驚いただけだよ。』

『そう…か?』

ーレフコース…ごめんねー

駄目だな…少しずつ…嘘が増えていってる。気持ちが引き摺られてる…んだろう…。しっかりしなきゃね。

ーあんな言葉に…引き摺られるなー

『……』

そんな私を、レフコースは心配そうに見上げていたけど、私は気付かなかった。



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