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第五章ー聖女と魔法使いとー

泣く場所

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『主』

「ハル殿」





何処からか、とても優しい声で私を呼ぶ声がする。
そこに行きたいのに、体が重たくて動けない。


ーあぁ…もう駄目かもしれないー



そう思う度に、助けてくれる。



レフコース


エディオル=カルザイン様













何となく右手が温かくて…そこからゆっくりと自分の体も温かくなっていって─

フッと意識が浮上した─



「…んー…?」

目を開けると…部屋は暗かった。

あれ?ひょっとして…もう夜?ここは…何処だろう?

『主!目覚めたか!?』

ガバッと勢いよく現れたのは

「レフコース?」

『あぁ、主!目覚めて良かった…』

そう言って、自身の顔を私の頬に擦り寄せて来るレフコースは…可愛いしかない。

「えっとー…私、どうなってたのかなぁ?」

『騎士と話している途中で倒れたのだ。覚えておらぬか?』

あ…そうだ…。オーブリー様の話を聞いてて、あの魔導師との事を思い出して…また、震えそうになる手をグッと握り締める。

「それで、どれくらいの時間が経ってるの?」

『主が倒れたのが朝。今は丁度日付が変わった辺りだ』

「え!?そんなに経ってるの!?え?どうしよう─」


「ハル殿─。気付いたのか!?」


私が声を上げたからか、私が寝ている部屋と繋がっているドアが開かれて、カルザイン様が入って来た。

「え!?…どうしてカルザイン様が──」

「それは後で説明する。取り敢えず、医師を呼んで来る。」



そして、やって来たのは、前にもお世話になったマリンさんだった。私が気を失ったのは、騎士団の離宮だったけど、少し前にも診てもらっていたからと、カルザイン様が気を利かせて神殿の医務室迄運んでくれたらしい。

「うん。魔力もほぼ安定してますね。今日はもう遅いので、このままここで泊まっていって下さい。それで、明日から2~3日は安静にして下さい。」

「分かりました。本当に…続けざまにすみません。ありがとうございます。」

お礼を言うとマリンさんは部屋から出て行き、入れ替わるようにカルザイン様が入って来た。

「サンドイッチを持って来たんだが…食べれそうか?」

夜中だけど…

「食べれます…お腹、空いてます…。」

お昼と夕食を食べていないと気付いた瞬間から…お腹がキュルキュル鳴っていたのだ…欲に素直なお腹だよね…。






ベッドの上でサンドイッチを食べ終え、少し休憩した後

「今から眠れるか?もし、眠れないようなら…ハル殿が倒れてからの話をしようか?」

夜もかなり遅い時間になったけど、食べたばっかりだし、さっきまで寝ていたから眠たくはないんだけど…

「私は眠たくは…ないんですけど、カルザイン様のご迷惑になるので、話は明日…じゃなくて、カルザイン様が寝て、また起きてからでも良いです。」

「私も、隣の部屋で少し寝ていたから、今は目が覚めてるんだ。ハル殿が大丈夫なら…話をしよう。」

フワリと優しく笑うカルザイン様に、ホッとする自分とドキドキする自分が居た。









「………え?今……何て…言いました?」

「暫くの間は、近衛としては休みで、その間はハル殿の付き添いだけになる。」

「……な…何で…???」

ーちょっと意味が…分からないー

「…ハル殿が…倒れた理由だが…」

カルザイン様はそう言い掛けて、軽く目を伏せて口を噤んだ後、私の目を見据えて

「あの魔導師が…原因…だろう?」

ビクリッ─と、体が無意識に反応する。また、手の指先からスッと血の気が引いていく感覚に陥る。ギュッと手を握ると…その手をカルザイン様が優しく握ってくれた。

ーやっぱり、カルザイン様の手は…温かいー

その温かさが優しくて…泣きそうになる。

「ハル殿?」

カルザイン様は、私の手を握っていない方の手を私の頬に寄せて

「我慢せずに…泣いても良いんだ。怖いものは怖い。辛いものは辛い。隠す必要なんて…無いんだ。あぁ…少し違うか?」

カルザイン様は少し思案して

「ハル殿が隠したいと言うなら隠しても良いけど、は…隠さないで欲しい。」

「え?」

「俺は…色んなハル殿を知りたい。楽しい事は一緒に楽しみたい。辛い事があるなら、それらからハル殿を守りたい。俺の知らないところで泣かれるのは嫌だから…泣くなら…」

「─へっ?」

握られていた手を優しく引き寄せられて、そのままカルザイン様に抱き締められた。

俺の腕の中ここで…泣けば良い。顔も隠れるし…丁度良いだろう?」

もう…どうなっているのか…分からない。分からないけど…が温かくて、安心できると言う事は…分かる。

「うー…」

そう思ってしまったら、もう駄目だった。そんなつもりはなかったけど、一度流れ出した涙は止まらなかった。


カテリーナ様を守らないと─私は魔法使いだから大丈夫だ─と思った。
魔力封じの首輪を着けられて、体がどんどん重くなっていって…初めて

ーこのまま死んでしまうのかなー 

と思った。レフコースとカルザイン様に助けられて、この世界での居場所も見付けて、もう大丈夫だと思っていたけど…

あの時は…本当に怖かった…助かって…本当に良かった…。

ギュッと、カルザイン様の服を掴んで

「…ありがとう…ございます…」

と言うだけで、精一杯だった──。





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