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第五章ー聖女と魔法使いとー

異変

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『オーブリー様にも…会って話を聞いた方が…良いよね?』

ハル殿がそう囁いた時、の情景が思い出された。


聖女様達とハル殿が、元の世界へ還る日の数日前。
オーブリー殿はハル殿への気持ちを隠しもせず、ハル殿の手をとり…その手にキスをした。

そして、現在いま、目の前に居るハル殿が、その手を見て顔を赤くして、何やら思案している。俺ではない…他の男の事で顔を赤らめる彼女を見るのは…


ー本当に気に食わないー


『オーブリー殿に会うなら、私も同行しよう。』

気が付いたら、そう口を開いていた。その申し出に、ハル殿は『ありがとうございます』と言って、嬉しそうに笑う。

ー可愛いか!ー

思わず視線を逸らしてしまい…

ーあ、これは…ヤバいなー

と思った時には遅かった。そう。同室に居た父に…俺のハル殿に対する気持ちが…バレてしまったのだ。

顔がニヤけていて、笑いを何とか我慢している。これは、母に速攻で報告される案件だろうな…と、少しげんなりした…が…。


『ははっ、私達は二人とも“カルザイン”だから、ややこしいよね?息子の方は、名前で呼んでくれても良いよ?』


『今みたいに、親子揃ってる時だけでも良いんじゃないかな?ややこしいからね。エディ本人が良いと言っているから、特に問題は無いと思うよ?…ふっ…』

笑いを堪えられてません!と突っ込みたいのを我慢する。


『…分かり…ました。頑張って…呼ぶようにしてみます。』


“頑張って”と言ったハル殿の言葉に、父は最終的には声を上げて笑った。

ー頑張らなければ呼べないのか?ー

と、少し複雑な気持ちだが、取り敢えず言質は取った。後々、じっくりと攻めようと心に決めた。










『…ディ…さま…だった…んだ 』

“ディ”様─ハル殿の口から途切れて溢れ出ただろう…俺の名前。

抱き上げて、今は俺の腕の中にいる。顔は真っ青で、僅かに震えているのが分かる。

ーあの魔導師か…ー
















部屋に入り、予定通りに─ルディではなくハルです─と告げると、オーブリー殿は固まった。たっぷり溜めた後、こっちがひく位慌て出し、最終的にはハル殿を…抱き締めた。


ーは?ー


俺の目の前で何をしている?遠慮無く殺気を飛ばす。オーブリー殿はその瞬間ハル殿から慌てて離れ、足元ではレフコース殿が笑っていた。ハル殿は顔は赤くしていたが、何かを思案しているようだった。



『あのー、本当に…もういいですから…。きっと…では…なかったんだと思いますから…。』

顔を真っ青にして謝るオーブリー殿に、ハル殿はそう言った。その言葉にハッとしてハル殿を見ると、コクリと頷き肯定された。

ーならば…仕方無い…かー

と、苛立つ気持ちを落ち着かせた。


それからも、まだハル殿は普通だったし、その足元に居たレフコース殿も丸まって尻尾を揺らしていた。そのレフコース殿が反応したのは…の話が出た後…だったか?

そのまま黙ったまま何かを考えているように見えたが…あれ?と思った時、


「レフ…コース」

彼女の口から出たのは“レフコース”


その言葉に反応したレフコース殿が一瞬にして魔力を膨れ上がらせ身体を大きくー本来の大きさに戻し、ハル殿を自身の体で包み込んだ。そのレフコース殿も、何となく辛そうな顔をしている。

兎に角、今日はこれまで─と、オーブリー殿に断りを入れ、レフコース殿に許しをもらってハル殿を抱き上げた。

抱き上げた時は、体越しに震えているのが分かる位だったが、少しずつ落ち着いて来ているようにも思う。兎に角、急いで医務室へと歩みを進めていると、ハル殿がキュッと俺の服を掴んだと思ったら

スリッ

と俺の胸元に頬を擦り寄せて─

意識を失ったかのように、クタリと俺に体を預けて来た。それに焦る自分と、そんな仕草さが可愛いと思ってしまう自分が居た。

ー擦り寄るとか!落ち着け…今はそれじゃない!ー

そして、俺は、そのまま王城ではなく、以前にもお世話になった神殿の医務室へハル殿を連れて行った。













「少し…魔力が不安定ですね。」

神殿の医務室に入ると、以前にもハル殿を診てくれた医師のマリン殿が居て、直ぐにハル殿を診てくれた。

「おそらくですが…疲れではなく、ストレス…過度なストレスが急に、一気に掛かった…感じですね。何か…心当たりはありますか?」

「…詳しくは言えないが…無い事もない。」

「お互い、守秘義務があるのは承知しているので…詳しくは訊きません。今の状態は、落ち着いて来ている感じですので、悪化する事はないと思いますが、2~3日はゆっくり安静に過ごす様にして下さい。今はまだ気を失って…眠っていますが、またすぐ目覚めると思います。それまでは、ここでお預かりしますね。」

「あぁ、それで頼む。私はこの事を各所に知らせてくるからその間…ハル殿と、このも頼む。」

「…あぁ、あの時の…分かりました。この子なら、大丈夫です。」

ハル殿とレフコース殿をマリン殿にお願いをし、俺は医務室を後にした。







    
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