104 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
謝罪とお礼
しおりを挟む「軽食を用意してあるから」
と言われて、カルザイン様に連れられて来たのは─
「わぁー。きれいー。」
以前、私が使っていた部屋の庭だった。
そう、その庭には、サエラさんと一緒に植えた、色とりどりのかすみ草が今でも綺麗に咲いていたのだ。
「ベラトリス王女とサエラ殿が、今でもよく手入れをしているんだ。」
「そうなんですね…。」
今すぐには会えないけど、今度会う時には…たくさんお礼をしよう。
暫く、そのかすみ草を眺めた後、カルザイン様に促されて、軽食が用意されていたテーブルについた。
「それで、私に話とは?」
丸テーブルに、私とカルザイン様は対面に座り、私の足元にレフコースが丸まって寝ている。
椅子に座り、少し軽食を摘まんだ後、カルザイン様が口を開いた。私は姿勢を正し─
「本当は、あの日、元の世界に還る前に言うべき事だったんですけど…。」
カルザイン様の目をしっかりと見据える。
「王城でお世話になっている時に、貴族の令嬢にからまれた時と、図書館で困っている時に助けていただいたのに、お礼の一つも言えずに…すみませんでした!」
言い終えた後、椅子に座ったまま頭を下げる。
少しの沈黙の後─
「顔を上げてくれ。それに関しては…ハル殿が謝る必要はない。」
言われて顔を上げ、カルザイン様を見ると、困ったような顔をするカルザイン様。
「最初に私が間違ったんだ。ハル殿を傷付けた。だから、私の事が…怖かったんだろう?それこそ、私の方が謝るべき事だ。」
「いえ、その事に関しては先程も王太子様にも言いましたけど、謝罪は受け取ってますから、そんな事は…お礼を言わなかった理由には…ならないと思うんです。」
お互いひきません!─みたいに黙り込む。
そして、先に溜め息を吐き口を開いたのはカルザイン様だった。
「ふー。分かった。ハル殿が納得するのならば…その謝罪、受け取ろう。」
やっぱり、少し困った顔をしながら、謝罪を受け取ってくれた。
「それとですね!」
と、私は続けて話し出す。
「パルヴァンでは、このレフコースから護っていたたわいた事と、先日の夜会で助けていただいた事も、本当にありがとうございました。本当に…カルザイン様には助けてもらってばっかりで…。それで…何かお礼がしたいと思って…。でも、この世界でのお礼の基準?がよく分からなくて…。」
「…基準?」
そう、お礼の基準。元の世界に還る前に、オーブリー様とカルザイン様とダルシニアン様から“お礼だから”と言って、装飾品を貰った。かたや、私はお礼にとクッキーを作ってサエラさんに渡してもらったんだけど…お礼の質が…違い過ぎた…。やっぱり、貴族世界でのお礼は装飾品が当たり前なのだろうかと…すごく悩んでいるんですと、素直に打ち明けた。
私の悩み?を聞いたカルザイン様は、一瞬キョトンとした後、ソロリと左手で口元を隠して
「…伝わっていない?…」
何かを囁いたけど、よく聞こえなかった。
「?」
首を傾げて、カルザイン様の言葉を待つ。
「お礼は要らない─と言っても、それではハル殿が納得いかないのだろうな?」
「はい。」
勿論です!だって、命を助けてもらってますからね!?手助けとかのレベルじゃないですからね!?
「別に、貴族だから、お礼は装飾品で─という事はない。今回のそれらも、たまたま装飾品だっただけだと思う。ハル殿から貰ったクッキーも、美味しかった。ありがとう。」
何故か、逆にお礼を言われてしまった。その時の顔も優しい顔で…本当にドキドキしてしまう。
「んー…それじゃあ、お礼として…私のお願いをきいてもらおうかな?」
「“お願い”…ですか?」
「そう。お願い。」
と、カルザイン様はニッコリ微笑む。
ー何だろう…素直に頷いてはいけない…ような気がするのは…気のせいかなぁ?ー
「えっと…私が出来る事なら…」
「勿論、出来る事だ。」
ジッとカルザイン様を窺い見る。
ーカルザイン様が、変なお願いとかする訳ないよね?ー
「分かりました。どんな…お願いですか?」
私がそう言うと、カルザイン様は更に微笑んで、お願いを口にした。
「パルヴァン様に話があるから、パルヴァン邸迄送って行く。」
と、帰り際に、カルザイン様が言い出した。
「え?あの…私、パルヴァン家の馬車を待たせて…って…あれ?」
朝、送って来てくれた御者さんが、ここで待ってますと言ってくれていた場所に居なかった。
ーえ?何で?ー
「あぁ、その御者に、グレン様に先触れの手紙を頼んだんだ。帰りのハル殿は、私が送るから迎えは要らないと言っておいたんだ。」
ーいつの間に!?ー
今日、ずっと一緒に居た…よね?
「それじゃあ、パルヴァン邸に行こうか。」
と、カルザイン様は笑顔で言うけど…
「えっと…“馬”ですね…」
そう。私達の目の前には馬車ではなく、黒い毛並みの綺麗な馬が一頭居るだけだった。
80
お気に入りに追加
2,382
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。
彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位!
読者の皆様、ありがとうございました!
婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。
実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。
鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。
巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう!
※4/30(火) 本編完結。
※6/7(金) 外伝完結。
※9/1(日)番外編 完結
小説大賞参加中
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた
向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。
聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。
暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!?
一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる