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第四章ー王都ー
距離をとる
しおりを挟む「あの、一つ訊きたいんですけど…。ベラトリス様は、やっぱり聖女様のお相手をしてたりしますか?」
これには、父である王様が答えた。
「ハル殿の事があったからね。何かと気に掛けたりはしているようだ。お茶も、時間がある時はしているようだが…最近はあまり聞かないかな?」
ベラトリス様らしいなぁ。そんなベラトリス様に、今すぐにでも会いたいけど…
「あの…ベラトリス様とサエラさんには、私の事は黙っていてもらえますか?」
これには、イリス=ハンフォルト様が反応した。
「それは…何故?ベラは…ハル殿が還ってしまって、本当に寂しそうで…。だから、ハル殿が居ると知ったら…」
『喜ぶと思う』
と続くだろう言葉は、ハンフォルト様の口からは出て来なかった。いや…言えなかったが、正解かな?
「…ハル殿…すみません。」
私は頭を軽く振る。
「大丈夫です。私も、本当は一番にベラトリス様とサエラさんに会いたかったんですけど…。聖女様と繋がってるなら、ちょっと控えておこうかなと…。できれば、聖女様には、私の事を知られたくないので…。」
「知られたくない?」
「はい。前の聖女様達に巻き込まれて来た上に、1人だけ還れなかった事は勿論の事、聖女様と同郷だと言う事も全てです。」
ちょっと言い方が皮肉っぽくなったけど…許して欲しい。どうしても、今はまだ、色んな意味であの聖女様には近付きたくないのだ。
「…えっと…何故?と…訊いても?」
恐る恐ると言った感じで、イリス=ハンフォルト様が訊いて来るので…チラリとパルヴァン様に視線を向ける。
「「あぁ…。近付かない方が良いな!」」
と、王太子様とカルザイン様が同時に声をあげた。
「何故ランバルトとエディオルが答えるの?」
「聖女様が…グレン殿を怒らせたんだよ…」
げんなりした顔で王太子様が呟いた。
そうなんだよね…。あの聖女様…空気が読めない子なんだよね…。若さゆえなのかなぁ?怖いもの知らずとか?兎に角、パルヴァン様からしても、聖女様と私が近付く事を、良しとはしないだろう。それに──
『“ルディ”なんて…居たかなぁ?モブ?』
日本語で呟いた言葉が気になる。
彼女は、この世界でどう動こうとするのか…。ゲームの様に動くのか…。この世界は現実であって、 1人1人が意思を持っていると言う事を…解っていれば良いけど…。
「本当に、我が儘を言って申し訳無いと思っているんですけど…。また、色々落ち着いたら、ハルとして会いに行くので、それ迄は…黙っていてもらえませんか?お願いします。」
スッと頭を下げてお願いをする。
「ハル殿が頭を下げる必要はなかろう?ですよね?国王陛下─。」
「あぁ!全くその通りだよ、ハル殿!ハル殿が良いと思う迄黙っておこう。と言うより、もともと公表するつもりもなかったからね。大丈夫だよ!」
何故か王様はすごく焦ったように、一気に話し、同意してくれた。
「良かったな、ハル殿。」
と、パルヴァン様が私の頭をポンポンと優しく叩く。
「はい、良かったです。」
ーこれで、暫くの間は彼女と距離が取れる…よね?ー
「良かった─」と、笑顔なのは私だけで、他の人は皆顔を引き攣らせていたなんて、私は全く気付いていなかったのでした。
「では、大人は大人で話しがあるから、若い者は若い者達で、これからの話をしなさい。」
と、王様に言われて、王太子様とダルシニアン様とカルザイン様とハンフォルト様と共に、王太子様の執務室に移動して来た。勿論、レフコースも一緒だ。
「ハル殿、改めて、今回の事、ありがとうございます。あのお茶を飲んでから、本当に調子が良いんです。」
「いえ。あのお茶が効いて良かったです。」
「いや、イリス、ごめん!ちょっとその話は…待ってくれる?後にしてくれる?」
ハンフォルト様と話していると、慌てたようにダルシニアン様が私達の間に割り込んで来た。
「それは別に良いけど…そんなに焦ってどうしたの?」
「いや、逆に何でイリスは普通なの!?分かってる?この子…“ルディ”殿じゃなくて!“ハル”殿だって!分かってる!?」
ーえ?私の事ですか!?疑われてるの!??ー
ビックリだ。あー…容姿が違い過ぎるからかな?本人証明できる物なんて…ないしなぁ…と、悩んでいると
『主…多分間違っていると思うぞ。』
ーえっ!?何が!?と言うか、私の心の声聞こえてたの!?ー
ビックリしたままレフコースを見つめる。
『いや、聞こえてはいなかったが、主が勘違いしている事だけは…分かったのだ…』
何だろう…レフコースにも可哀想な子を見る様な目で見られている気がする…。
「ハル…殿…?」
ふいに、ダルシニアン様に呼ばれる。
「あー、はい。何でしょうか?」
ダルシニアン様は、そのまま黙り込む。
「?」
レフコースみたいに、首を傾げてみる。
「…本当に…ハル殿は…還れなかったの?」
ダルシニアン様は…困った様な泣きそう?な顔をしている。
「そう…ですね。今、ここに居て時と共に進んでますから…。還れなかったし…もう還れませんね。」
フワッと笑って答えた私に、ダルシニアン様は
「…そっか…」
と、答えただけだった。
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