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第四章ー王都ー

聖女様

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『惨状…ですか…』

とても低い声。なのに、酷く響く声。ゾワリと、体が恐怖で震えるような感覚。
知らず知らずのうちに、ルナさんの服をギュッと握っていた。

「…父上…。ルディは慣れていませんよ?」

レオン様がそっとパルヴァン様に何かを囁いた後、パルヴァン様がフッと息を吐くと、その威圧感も無くなった。

ー足が…生まれたての子鹿状態ですー

ルナさんが、困った様な顔をしながら、私を支えてくれています。ありがとうございます。

カルザイン様に会ったら、お礼を言おうと思っていたけど…それどころじゃ…ないよね?そもそも、ルディとしては、カルザイン様とは挨拶すら交わしてないから、私からは話し掛けられないんだよね…。

生まれたての子鹿な足に、グッと力を入れてしっかりと立ち、そのままパルヴァン様を見据える。

「パルヴァン様、医師様から下城しても良いと許可が出ました。なので、私はパルヴァン邸に帰ろうかと思います。その事も伝えたくて、ここに来ました。」

それから、挨拶を交わした騎士団長様と向き合い

「騎士団長様、また改めて…お礼をしに行くと…お伝えいただけますか?」

「あぁ…すまないね。」

と、困った様な安心した様に笑う騎士団長様は、やっぱりカルザイン様と似ているなぁ…と思った。

「パルヴァン様、私のせいで…いえ、私の為に、辺境地から迎えに来て頂いて、ありがとうございます。」

ニッコリと、パルヴァン様にお礼を言うと、パルヴァン様は一瞬目を見開いて

「いや─。ルディが元気になって…良かった…」

と、パルヴァン様もようやく笑ってくれた。

ーよし。これでこの場は収まった…筈ー

周りを見ると…うん。皆ホッとした顔をしている。よし、このまま帰ってしまおう!サクッと帰ろう!レフコースが待っている!


「何故…怒ってるんですか?私、何か悪い事をしてしまったの?」

ー何故だ!?ー

この子は…空気が読めない子なの!?

カルザイン様を窺い見ると、眉間に皺を寄せるだけだった。

ーあれ?ー

ふと気付く。カルザイン様が着けているが発動している事に。

ー何故?ー

全く分からない。攻撃?なんてされてないのに。これは、私だけにしか分からない。いや─レフコースなら…分かった?

『─我にも感じられない。』

わぁー本当に意識すると、離れていても会話ができるんだね!って、感心してる場合じゃないよね!?取り敢えず、ここは、またパルヴァン様がキレる前に立ち去ろう!

レオン様とティモスさんに視線を向けると、2人とも分かってくれたように頷いてくれた。

「父上、ルディの言う通り、一度部屋に戻り、下城の準備をしましょう。」

「……分かった…。」

ーお願いだから、そのまま黙ってて下さい!ー


「では…ルイス。今回の事、キッチリ調べるようにな。私は、これで帰る。」

「承知しました。今日は、ありがとうございました。」

第一騎士団長様が礼を言うと、倒れこんだ騎士様達も何とか立ち上がり

「ありがとうございました!」

と、パルヴァン様に一礼した。

そして、私達は神殿の方へと足を向ける。カルザイン様と聖女様の横を通り過ぎる時─


『“ルディ”なんて…居たかなぁ?モブ?』


と、聖女様が小さく囁いた日本語が耳に入った。

ーえ?ー

振り向きたいのを我慢する。ここで反応する訳には…いかないから。

彼女は…ここが、ゲームの世界だと…知っている?

ドクドクと心臓が嫌な音をたて、ジワリと嫌な汗が背中を流れていく。彼女は、ゲームをするかのように、誰かを攻略していくのだろうか?
少し…彼女の行動を見る必要が…あるのかもしれない。

そう思いながら、訓練場を後にした。









それから、パルヴァン様とレオン様とティモスさんとは、王城の馬車置き場で待ち合わせをして、私は帰る支度をする為に、ルナさんとリディさんと一緒に神殿へと向かった。


「また、後で詳しく説明するけど、この子はあの時のフェンリルで、名前はレフコース。これからは、私と一緒に居る事になったんです。あのー…良い子…なので…仲良くしてくれると嬉しいです!」

パルヴァン様を瀕死の状態にさせたフェンリル張本人である。ルナさんもリディさんも複雑そうな顔をしている。

『…主、大丈夫だ。これは…我の自業自得なのだ…。』

と、また耳が垂れ下がり、尻尾がピタリと静止した。

ーやっぱり、ウチの子は可愛い。後でしっかりルナさんとリディさんに説明するからね!ー


と、パルヴァン様達を待たせてしまっているので、説明は邸に帰ってからにしようと、帰り支度を急いだ。

お世話になった、医師のマリンさんと魔導師のレイナさんにお礼を言って、パルヴァン様達と合流して馬車に乗り込み、王城を後にした。




ー結局…またカルザイン様にお礼を言えなかったなー


ただただ、それだけが心残りだった。










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