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第四章ー王都ー
フェンリルと巫女①
しおりを挟むーそれは、誰の記憶だっただろうか?ー
『お前は真っ白だな─』
『白いの。お前に名をつけてやろう。そして、お前を守ってやろう。』
『お前の名前は─』
「レフコース?」
『あぁ、主。ようやく我の名を呼んでくれた。』
目の前にいる、あのフェンリルが嬉しそうに笑っている。
「あるじ?」
『そう。我の魔力を引き継いだ巫女であり、我の主。』
「みこ?」
『そう。我の唯一の主。』
『“言い伝え”では…数百年前に存在した魔法使いが、フェンリルと契約を結んでいたんだけど、その契約を結んだまま、ある日突然その魔法使いが死んでしまって、そのフェンリルも行方が分からなくなったとか…。ま、真偽は分からないけどね。』
「私が聞いたのは、あなたは魔法使いと契約を結んだと…。」
そう言うと、フェンリルはコテンと首を傾げた。
ーえ…何それ、可愛いからー
『ふむ…。長く年月を重ねると、根本的な事さえ違って伝承されるのだな…。』
「根本的な事さえ違って?」
『主…我の話を聞いてくれるか?』
「勿論。あなたが話してくれると言うなら。」
そう言うと、フェンリルは満足気に頷いた。
今居る、この真っ白な空間が何処なのか、魔力封じの首輪をかせられた私はどうなったのか…色々訊きたい事はあるのだけど、先ずはフェンリルの話を聞く事にした。
今は滅んでしまった某国では、フェンリルの守護の元、他国に侵略される心配もなく、豊かに栄えていた。その国には、“先読みの巫女”が居た。将来起こり得る事が視える巫女。その巫女が、新たなるフェンリルの誕生時に
『そのフェンリルは魔力が強過ぎる為、将来、この国に災いをもたらす存在になるだろう。』
と、先読みしたのだ。されどこの国の守護獣であるフェンリル。それに、先読みも違える事もある。先ずは、魔力を抑える枷を着け、そのフェンリルを見守る事にした。
しかし、そのフェンリルが成長するにつれて、魔力はどんどん大きくなり、枷では抑える事ができなくなっていった。このままでは、先読み通り、この国に災いをもたらす存在となってしまうと危惧した民達は…そのフェンリルを…始末する事にした。
勿論、そのフェンリルは逃げ出した。
国を跨いで逃げても、逃げた先でも命を狙われた。
そして、最後に辿り着いたのが…パルヴァンのあの森だった。
真っ白な綺麗な毛並みは、血が乾いて赤黒く染まっていた。
ーもう…死ぬのか?ー
そう生きながらえる事を諦めた時
『白いの、大丈夫か?』
1人の女が、横たわる我を覗き込んできた。
ーまた人間か…。どうせ、我を殺す為に来たのだろう?ー
それには答えず、ソッと目を閉じた。
ーもう…いいかー
と、思っていると、一瞬で体全体が温かくなったかと思えば、あれ程重たかった体が軽くなった。驚いて目を開ければ…
赤黒く汚れてガビガビになっていた毛が、本来の綺麗な真っ白な色に戻っていて、負っていた傷も無くなっていた。
『白いの。お前は…綺麗な色だな。』
嬉しそうにニッコリ笑う女。
『私は、この国の巫女だ。今、この森の穢れを祓っていたところだ。白いのは…魔力が大きいな?その魔力、少し貰っても良いか?』
ー貰う?ー
魔力と言うのは…あげられるものなのか?と、首を傾げ、その巫女とやらをジッと見つめる。
『あぁ、もしかして…お前が某国で追われていると言うフェンリルだったのか?』
その言葉にビクリッと、体が固まる。
そんな様子に気付いた巫女は、更に優しく微笑んでそのフェンリルの頭を撫でた。
『お前は真っ白だな─』
優しい笑顔のまま、グリグリと撫で回して来る巫女。
『白いの。お前に名をつけてやろう。そして、お前を守ってやろう。』
ー守る?我がではなく、我を?ー
また首を傾げてその巫女を見つめる。
『お前に名前をつけて、私と繋がりを持たせるんだ。ある種の“契約”なんだが、それによって、白いのの魔力を私が受け入れる事ができるようになる。その魔力で、この森の穢れをもっと綺麗に浄化できるようになるし、白いのは魔力が減って追われる事がなくなる。良いと思わないか?』
ーそんな事ができるのか?我は…まだ生きていて良いのだろうか?ー
『お前の名前は─“レフコース”!そして、私の名前はーーーーー。』
その巫女は、我に名をつけ、自身の真名を告げ我らの足元で魔法陣を展開させた。
トクリ…トクリ…と、優しい魔力が流れ込んで来るのと同時に、我の魔力がその巫女に流れ込み、繋がりができた事を実感した。
それからの我は、魔力が溢れる事も強くなり過ぎることもなくなった。巫女も、我の魔力とは相性が良かったようで、問題なく我の魔力を使いこなし森の穢れを祓っていった。
その巫女のお蔭で、追われる事がなくなった。
なのに─。
あの某国の人間は…我ではなく…その巫女に目を付けたのだ─。
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