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第三章ーパルヴァン辺境地ー

エディオル=カルザイン①

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『何故無視をする?私が言っている事が分からないのか?もう2ヶ月は経ったのだ、少しは解るだろう?それとも、本当に勉強が嫌だとか我が儘を言って、何もしていないのか?』

ランバルトに言われて彼女の様子を見に行けば、彼女は裸足で庭に居た。
いつもの俺なら、男の俺が女性を見に行くなど有り得ないと一蹴するところだが…。

召喚された時に、聖女様達と違い顔色を悪くしてずっと震えていた彼女。ずっと気になっていた。でも、彼女は聖女ではなかった為、鑑定を行ったあの日以降彼女を見る事はなかった。

そして、城内に一気に広まった彼女の噂。

ーあぁ、彼女もやっぱり女性…この世界の令嬢達と変わりないのかー

貴族社会の令嬢には辟易していた。身分と顔だけですり寄って来る。自身のアピール合戦に、足の引っ張り合い。
親は恋愛結婚で、嫡男の兄には既に子供も居る為、両親も無理矢理俺に婚約者を充てがう事はなかった。そんな俺が、初めて気になったのが彼女だった。なのに──



『カルザイン様、あなた様は一体何をされたのですか?騎士たる者が、右も左もよく分からない女性をこんなにも震え怖がらせて。まさか、周りの噂だけで判断されたとは…言いませんよね?あなた様の目には、どの様に映っておりますか?』

サエラ殿に言われてハッとした。彼女が気になると思いながら、どうせあの令嬢達と同じなんだろう。あの噂も本当なんだろうと、決めつけていたんだ。彼女が気になった自分が傷付かない為に…。

すると、彼女はサエラ殿の腕の中でポロポロと泣き出した。

『ごめ…なさ…』

『ふっ…還り…たい…っ…』

そう言いながら、声を押し殺して泣いていた。
その姿が、酷く儚げに見えて俺の胸が抉られる様に痛んだ。俺は何を見ていたんだ?普段の俺なら、ちゃんと見極められた筈なのに。




それから、サエラ殿の報告を受け、 ベラトリス王女が動いた。聖女様達の怒りはランバルトと俺に向けられたが、ベラトリス王女が何とか場を収めてくれて、彼女への謝罪の場を設けて下さった。
その日は、彼女の話を聞いたから、どうしても彼女の事が頭から離れなかった。

その翌朝。どうしても彼女が気になり、こっそりと彼女の部屋に繋がる庭に行ってしまっていた。すると、早い時間だったが彼女が居た。サエラ殿と笑顔でかすみ草を眺めていた。

ーかすみ草が好きなんだろうか?ー

そう思っていると、彼女は更に優しく微笑んでから部屋に入って行った。その笑顔にトクンと胸が音を立て、少し動揺した俺を、サエラ殿は少し困ったような顔をして見ていた。


彼女は、ランバルトの謝罪を笑って受け入れた。国王陛下に望むものを訊かれれば、図書館の立入の許可が欲しいと言う。何もかもが、他の令嬢達と違う彼女。王城の図書館に足しげく通うようになった彼女を、よく目にするようになると、ついつい目で追ってしまっていた。

ある日、令嬢達に絡まれている彼女を見掛けた。
彼女と目が合った瞬間、彼女は顔を強ばらせ直ぐ様目を逸らされてしまった。ヒュッと自分で息を呑むのがわかった。優しい言葉を掛けたいのに、俺の口から出て来たのは…

『…言葉は解るのだろう?何故…反論しない?』 

だった。彼女は、何も言わずに頭だけ下げて、走り去ってしまった。
その後ろ姿を見えなくなるまで見ていた。

本当に、何もかもが上手くいかない。理由は…分かっている。いくら俺が、彼女が好きだったとしても…彼女は元の世界に還ってしまうから。彼女が、元の世界に還りたがっている事を知っている。彼女がこの世界からいなくなってしまうと知っているから。

彼女が還りたいと言うなら、そうしてあげたいと思うから…今以上に彼女に近付くのが怖かった。近付けば近付く程、彼女を還したくなくなってしまうだろうから。どうせなら、嫌われたままの方が良いかもしれない。その方が、俺も諦めがつくだろう。



ついつい図書館に足を向けてしまう日々。そこで、読みたい本を取ろうとして取れないと言った感じで、困っている彼女が居た。後ろからそっと近付いて、その本を取る。
彼女は、本を取ったのが俺だと分かると、ビックリしたようにかたまり、俺が更に近付こうとしたら体を強ばらせた。彼女をそうさせているのは…自業自得。その態度に自分が傷付くのは間違っている。彼女は、決して俺を見ない。そのままで良いからと伝えて、の謝罪をする。彼女から言葉を聞く事はできなかったけど、コクコクと何度も首肯して答えてくれた。その姿を見て…

ー愛おしいなぁー

と思ってしまった。








彼女は、きらびやかな世界が苦手らしく、夜会には一切参加しなかった。ベラトリス王女が何やら妙案を出し誘ったらしいが、やはり断られたそうだ。『しょげたベラも可愛かった』と、イリスが惚気付きで語っていた。ならば、今夜は彼女は部屋で1人かと思い、またあの庭に足を向けていた。



『還れる…よね?』

彼女はそう囁いて部屋に入って行った。

「“還れる”…か…」

チクリと胸が痛む。

ーやっぱり、彼女は還る…還りたいのかー



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