巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

文字の大きさ
上 下
42 / 203
第三章ーパルヴァン辺境地ー

空っぽ

しおりを挟む


「とにかく、視察予定は二週間後。視察期間は5日。その間はこの邸に滞在する。」

「5日間…長くないですか?」

2~3日だと思ったら、まさかの5日間。

「まぁ…仕方無いんだ。ここは辺境地だから、王族としても大事に扱いたいところだが、そんなにしょっちゅう来れる所ではないだろう?。だから、来る時は、大体5日から一週間は滞在するんだ。」

「成る程…」

一週間よりは…マシだったと思う事に…しよう。

「その間、ハル殿は別邸の方で過ごしてもらおうと思ったんだが、どうだろうか?主だった4人は本邸に、同行する騎士達は騎士邸で寝泊まりするから、ハル殿が別邸に居れば会うことはないと思う。」

確かに。別邸は本殿より奥まった所にあるし、騎士邸は本邸を挟んで真反対にある。

“騎士邸”ーこのパルヴァン辺境地だからこそある邸。森に現れる魔獣を討伐しなければいけないので、常に騎士を待機させておかなければならない。その為、パルヴァン邸の中に騎士様専用の邸と訓練場があるのだ。

「殿下達がレオンに用事があったとしても、レオンが本邸に来る事になるから、殿下達が別邸に行く事は無い。」

「…そうですね。下手に街の宿とかに泊まった方が、遭遇率が上がりそうですよね…」

よく分からないけど…もう終わってると思うけど…『街で偶然会っちゃった☆』って、乙女ゲームのあるあるとか…フジさんが言ってた気がする…。

ーそんな遭遇いらないー

「全力で別邸に居ます!」

「いや…そこは全力じゃなくて、おとなしくだろう…。」











「二週間後か…」

その日、ベッドに入り考える。

別に…嫌いなわけじゃない。宰相様は最初から優しかったし、ダルシニアン様とは普通に話せる位になってたし。カルザイン様は…最初の出会いこそ最悪だったけど、謝罪をされ、それを受け入れた。それからは助けてもらったのに…私のだ。逆に嫌われていても…おかしくないかもしれない。王太子様は…何と言うか…うん。嫌いではない。

会いたいかと訊かれれば…会いたくない。今の私は聖女様召喚に巻き込まれたハルではなくて…薬師のハルだ。王族とも貴族とも…関係が無い…ハル。



『自分の名前が言えないとか、呼んでもらえないって寂しいけど、暫くは我慢…ですね?』

『そうね…。でも、日本に還ったらいっぱい呼んであげるわ!』


そう言ってくれたのは…フジさんだったか…。

空っぽのハルだな…。この世界では、何もかもがじゃない。ハルなんて名前じゃない。薬師だって…魔法使いチートの恩恵だ。実力じゃないくせに、自分の足で立ちたいなんて言っているんだ…。


「還りたい…還りたかったなぁ…」


それ以上は何も考えたくなくて、布団に潜り込み、ギュウッと目を瞑り眠りに就いた。













ー王都、王城の王太子執務室ー

「パルヴァンでの視察が終わったら、私の婚約者選びが始まるらしい。」

王太子の執務室に、私ークレイルーとエディオルとイリスだけになった時に、王太子であるランバルトが前触れもなく話し出した。

「丁度1年だ…。父も、よく待ってくれたと思う。」

そうーランバルトは、聖女様の1人、ミヤ様が好きだった。ミヤ様はランバルトに靡く事は…全くなかった。それは、面しろ…いや、可哀想になる位。そして、聖女様3人とハル殿はアッサリと元の世界へ還って行った。それからのランバルトは、暫くの間は使い物にならなかった。王太子としてはどうかと思わなくもないが…全く分からないと言う事もない。

ー喪失感ー

なんだろうと思う。私だって…

「ランバルトに婚約者が決まれば、エディオルもクレイルも逃げられなくなるね?」

笑いながら言うのはイリス=ハンフォルト。現宰相の息子であり、次期宰相の有力候補。いや、ほぼ確定だろう。

「イリスは良いよな?お互い好き同士だから。」

「そうですね。婚約者殿に関しては、私は何の文句も問題もありませんね。何なら、早く婚姻を結びたいところですよ?」

イリスはニッコリと笑う。

イリスの婚約者はーベラトリス王女。
2人は幼馴染だった。本当に小さい頃から仲が良かった…と言うか、イリスが王女様にベタ惚れだった。王女様を囲いに囲いまくって婚約者の座を獲得したのだ。ただ、王太子より先に結婚するのは良くないとされ、結婚が先延ばしになっているのだ。今笑っているのも…恐らく、ランバルトに圧を掛ける為だろう。

「私は、父が恋愛結婚だったから、無理矢理婚約者をあてがわれる事はないから、そのへんは心配はしていないけどね。エディオルもそうだろう?」

「そうだな、嫡男の兄上は結婚して子供もいるし、私は次男で近衛騎士だから、無理矢理婚約者を作る必要はないな。有難い事に、うちの親も恋愛結婚だったし。」

「ーと言う事で…」

と、イリスはまたニッコリと笑い

殿、パルヴァンの視察が終わったら、可及的速やかに、婚約者を選定して、最短コースで結婚して下さいね?」

「ゔっ…」

と、傷心引き摺るランバルトにとどめの一撃を喰らわせた。

しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...