上 下
36 / 203
第三章ーパルヴァン辺境地ー

拘束

しおりを挟む
があって良かったー




パルヴァン様の邸までやって来た。のは良いんだけど…よく考えたら、森の方からやって来た時点で…アウトなのでは?と、思った時には遅かった…。

私が門番の人に声を掛ける前に、中から騎士様が出て来て…拘束されました…。

そう。あの森は、一般的に立入禁止区域なのだ。しかも、森に入る為にはパルヴァン様の邸の前を通らなければ行けない。でも、そこには門番を始め、騎士様達が常に目を光らせている。
誰もここを通っていないのに、森の方からひょこっと人が出て来る。

ーそりゃあ…問答無用の拘束案件ですよねー

1ヶ月…ここに居たから、私を覚えている人がいるかも?と、少し期待もしてたけど…


ーこの世界は、モブに優しいわけではなかったようですー










騎士様の動きは速かった。
私が声を発する前に両手を後ろに回され、そのまま拘束された…魔術で。多分…声が出ない?様な魔術も掛けられた。

ーすみません。、多分、簡単に解けちゃいます……しないけどー

それから地下にある牢屋?みたいな所に入れられてしまった。喋れない事になってるから、私から何かを話す事はしないし、暴れる事も勿論しない。ただ、じっと待っているだけだ。

私を拘束して、ここまで連れて来た騎士様も、怖い顔をして私を監視しているけど、それだけだ。暴力をふるう事もないし、暴言を吐く事もしない。ただ職務を全うしているだけだ。

怖くないー









暫くすると、少し年配の騎士様がやって来た。
以前の時にも、あまり見掛けなかった顔だったから、相手も私の事は知らない可能性の方が高い。

「お前は、どこからあの森に入った?」

開口一番、そう尋ねられた。やっぱり、私の事は知らないようだ。と言うか…声を出せなくなる魔術、解いてもらえませんか?
私を拘束した騎士様を見ながら、自分の口を指で差す。

「あぁ、すまない。」

ようやく気付いたのか、慌てて魔術を解いた。

「…ありがとう…ございます。」

「それで?何故森に?」

「その事に関してですが…直接パルヴァン様かシルヴィア様に…説明したいのですが…。」

年配の騎士様の目をしっかり見据えながら答える。

ーここで怯んじゃ駄目だー

その年配の騎士様も、私から目を反らすこと無く私を見据えたまま、パルヴァン様の名を口に出した私に殺気を飛ばして来た。
それにグッと耐えて、私は右手に持っていた物を、その年配の騎士様に差し出した。

「これを…シルヴィア様に見せてもらえれば…分かります。」

ー大丈夫…震えるな!ー

それは、帰城する前にシルヴィア様から貰ったピアス。このパルヴァンでしか採れない魔石が付いたピアス。これをシルヴィア様に見せてもらえれば、私が“薬師のハル”だと言う事が分かる筈。

「ふんっ…」

そう言いながら、私の手からそのピアスを取り、そのままここから出て行った。
そして私はまた、声が出ない魔術を掛けられ、ひたすら待つだけの時間を過ごした。








ーえっとー…どれだけ時間が掛かるの!?ー


私の秘密のポーチの中に入れていた、シルヴィア様から貰ったピアスを渡してから…2日は経った。未だに何の音沙汰も無い。それに、今日は珍しく、私を拘束してずっと監視をしていた騎士様も居ない。

パルヴァン様もシルヴィア様も忙しい?

相変わらず声は出せない事になってるし…どうするかなぁ?と、うんうん考えていると、外が急に騒がしくなった。

ーやだなぁ…デジャブだなぁ…魔獣じゃないよね???ー

と、ギュッと手に力が入った。



「ハル殿っ!!」

牢屋入り口のドアが壊れんばかりにバーンッと開き…そこからパルヴァン様と私を拘束した騎士様が入って来た。

パルヴァン様の元気そうな姿を目にして、色んな意味でホッとした。

パルヴァン様は、私が入っている牢屋の鍵を開け入って来る。それと同時に騎士様が私に掛けていた拘束と、声が出せない魔術を解いた。

私の姿を確認したパルヴァン様は、厳つい顔をより一層厳つい顔にしながら

「どこにも怪我はないか?何もされてないか?大丈夫か?」

と、矢継ぎ早に質問をして来る。

「パルヴァン様、落ち着いて下さい!あの、私は…大丈夫ですから!!」

「そうか…すまない。取り敢えず、ここから出ようか。」

3日目にして、ようやく牢屋から出る事ができた。











「あの…シルヴィア様は?」

牢屋から出て、すぐにメイドさん達に囲まれお風呂へと拉致られた。そして、シンプルなワンピースを着せられ、今、パルヴァン邸の応接室の椅子に座っている。そして、目の前にはサンドイッチが用意されていた。

お腹は空いていたので、有り難くサンドイッチをいただいていた時、牢屋から出て一度もシルヴィア様を見なかった事に気が付いた。

「あぁ、シルヴィアか…本当は私がしたかったのだが…シルヴィアは誰にも止められないからな…」

と、目をうっすらと細め、ニヤリと嗤うー。

ーえ?その筋の方ですか?ー

しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...