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第一章ー最初の1年ー
カルザイン様とサエラさん
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「聞こえているか?靴はどうした?それに、侍女はどこだ?」
何故ここにエディオル=カルザイン様が居るの?
「私の言っている事が分からない?2ヶ月経ってもコレか?」
呆れたような顔と声だ。そんな顔にも声にも慣れた。最初は私も頑張って答えようとしたけど、答えたところで…何も変わらなかったのだ。正直…疲れたんだ。黙ってたら良いかって。反論すればするほど悪化するのは、解ってるし。
私は黙ったままカルザイン様に背を向けて、自室へと足を向けた。
「はぁー…。返事も無しか?」
大きく溜め息を吐き、私の方へ近付いて来る。
ー嫌だ!怖い…こっちに来ないで欲しい!ー
後少しで部屋に入り込めると言う所で、カルザイン様が硝子扉と私の間に体を滑り込ませ、私の目の前に立ちはだかった。
「何故無視をする?私が言っている事が分からないのか?もう2ヶ月は経ったのだ、少しは解るだろう?それとも、本当に勉強が嫌だとか我が儘を言って、何もしていないのか?」
ー我が儘?ー
この人は、一体何を言っているんだろう?お姉さん達と一緒だった勉強が終わると、私にはこの世界の言葉を習う為に、先生が来てくれると聞いていた。聞いていたけど…どれだけ待っても来なかったのだ。約束を守っていないのはそっちなのに…。
「聞いているのか?」
少し苛ついたように、更に私に近付いて来た
ヒュッ─
と、自分が息を呑んだ音が自分の耳に大きく響いた。
ー怖いー
知らず知らずに指先が震え出す。
ー何で…私が責められるの?私が何をしたの?何もしてないから?ー
さぁっと、血の気が引いていく。指先だけだったのが、肩までもが震え出す。
「ハル殿?聞いて─」
「カルザイン様!そこで何をしていらっしゃるのですか!?」
カルザイン様が何か言い掛けた時、私の後ろからカルザイン様を咎める様な女の人の声がした。
ーはぁーはぁー…苦しい…ー
ギュウッと、両手で胸元の服を握り締める。
その声の女性は、私とカルザイン様の間に割り込み、私の顔を覗き込んで来た。
「っ!?こんなに震えてしまって!」
そう言って、私を優しく抱き締めてくれた。
「もう大丈夫ですからね?私に任せて下さいね?もう少しだけ…我慢してて下さいね?」
その人は、私を軽く抱き締めたまま、カルザイン様の方へ振り返る。
「カルザイン様、あなた様は一体何をされたのですか?騎士たる者が、右も左もよく分からない女性をこんなにも震え怖がらせて。まさか、周りの噂だけで判断されたとは…言いませんよね?あなた様の目には、どの様に映っておりますか?」
「─っ!」
何が起こっているのか分からない。分からないけど…
ー温かいー
久し振りの人の温もりだった。久し振りの優しい笑顔と声だった。震える手で、その女の人の服をギュッと握る。それに気付いたのか、その女の人は更に私をギュウッと抱き締めてくれて
「大丈夫ですよ、よく…ここまで頑張りましたね。」
「…っ…!」
その優しさに、ポロポロと涙が溢れた。泣いちゃいけない。お姉さん達に迷惑や心配を掛けたらいけないと思って我慢してたのに──。
「ごめ…なさ…」
その女の人に謝ろうとするけど、なかなか言葉にできなくて、その代わりに涙は次々に溢れ出る。でも、その女の人は、怒る訳でも困る様でもなく
「大丈夫ですよ?いっぱい泣いても良いですからね?」
と、私の背中を優しく撫でてくれる。その優しさに、更に涙が出た。
「ふっ…還り…たい…っ…」
気が緩んだのもあって、還りたいと口から溢れた。
多分、さっきの"ごめんなさい"も"還りたい"も、こちらの言葉に変換されていると思う。私の言葉をに2人ともが反応したから。
「えぇ。きっと、還れますからね。それで、カルザイン様…」
「……」
「この事は、私から報告させていただきます。カルザイン様は、今すぐここから出て行ってもらえますか?」
「…あ…あぁ…その…すまなかった…」
「私に謝っていただいても困ります。謝罪する相手はハル様です。しかし、今はそれも結構です。今あなた様に出来る事は…一刻も早くここから立ち去る事だけです!」
そうまで言われて、カルザイン様はそれ以上は何も言わずに庭から出て行った。
「さぁ、私の事とか詳しい事は後から説明しますから、取り敢えずお部屋へ戻りましょう。」
その女の人に促されて、部屋の中へと戻った。
自分でやろうとしたのだが、やんわりと断られて…裸足で外に出ていたので、部屋に入ってすぐ温かいお湯の入った容器に足を入れて洗われた。その後も丁寧に拭かれて、フワフワのスリッポンの様な靴を履かされた。
「かわ…いい…」
私は、喋る時は意識して翻訳魔法は使わず、辿々しいながらも自分の力だけでこちらの言葉で喋る様にしている。
「まさか、靴が無いとは思いませんでした。この様子だと、まだまだ問題点はありそうですね…。」
この女性、名前は "サエラ"さん(40歳)。若い頃にこの王宮に勤めていたが、結婚を機に退職をしたそうだ。でも、二年程前、夫と子供を病気で亡くしてしまったらしい。もともと侍女としは優秀で、王妃様付きの侍女をしていたので、王宮から声が掛かりまた王宮で勤める事になったらしい。
そのサエラさんが少し思案した後ー
「ハル様、私に3日程時間を頂けますか?」
私にそう訊きながら、サエラさんは口角をクイッと上げた。
何故ここにエディオル=カルザイン様が居るの?
「私の言っている事が分からない?2ヶ月経ってもコレか?」
呆れたような顔と声だ。そんな顔にも声にも慣れた。最初は私も頑張って答えようとしたけど、答えたところで…何も変わらなかったのだ。正直…疲れたんだ。黙ってたら良いかって。反論すればするほど悪化するのは、解ってるし。
私は黙ったままカルザイン様に背を向けて、自室へと足を向けた。
「はぁー…。返事も無しか?」
大きく溜め息を吐き、私の方へ近付いて来る。
ー嫌だ!怖い…こっちに来ないで欲しい!ー
後少しで部屋に入り込めると言う所で、カルザイン様が硝子扉と私の間に体を滑り込ませ、私の目の前に立ちはだかった。
「何故無視をする?私が言っている事が分からないのか?もう2ヶ月は経ったのだ、少しは解るだろう?それとも、本当に勉強が嫌だとか我が儘を言って、何もしていないのか?」
ー我が儘?ー
この人は、一体何を言っているんだろう?お姉さん達と一緒だった勉強が終わると、私にはこの世界の言葉を習う為に、先生が来てくれると聞いていた。聞いていたけど…どれだけ待っても来なかったのだ。約束を守っていないのはそっちなのに…。
「聞いているのか?」
少し苛ついたように、更に私に近付いて来た
ヒュッ─
と、自分が息を呑んだ音が自分の耳に大きく響いた。
ー怖いー
知らず知らずに指先が震え出す。
ー何で…私が責められるの?私が何をしたの?何もしてないから?ー
さぁっと、血の気が引いていく。指先だけだったのが、肩までもが震え出す。
「ハル殿?聞いて─」
「カルザイン様!そこで何をしていらっしゃるのですか!?」
カルザイン様が何か言い掛けた時、私の後ろからカルザイン様を咎める様な女の人の声がした。
ーはぁーはぁー…苦しい…ー
ギュウッと、両手で胸元の服を握り締める。
その声の女性は、私とカルザイン様の間に割り込み、私の顔を覗き込んで来た。
「っ!?こんなに震えてしまって!」
そう言って、私を優しく抱き締めてくれた。
「もう大丈夫ですからね?私に任せて下さいね?もう少しだけ…我慢してて下さいね?」
その人は、私を軽く抱き締めたまま、カルザイン様の方へ振り返る。
「カルザイン様、あなた様は一体何をされたのですか?騎士たる者が、右も左もよく分からない女性をこんなにも震え怖がらせて。まさか、周りの噂だけで判断されたとは…言いませんよね?あなた様の目には、どの様に映っておりますか?」
「─っ!」
何が起こっているのか分からない。分からないけど…
ー温かいー
久し振りの人の温もりだった。久し振りの優しい笑顔と声だった。震える手で、その女の人の服をギュッと握る。それに気付いたのか、その女の人は更に私をギュウッと抱き締めてくれて
「大丈夫ですよ、よく…ここまで頑張りましたね。」
「…っ…!」
その優しさに、ポロポロと涙が溢れた。泣いちゃいけない。お姉さん達に迷惑や心配を掛けたらいけないと思って我慢してたのに──。
「ごめ…なさ…」
その女の人に謝ろうとするけど、なかなか言葉にできなくて、その代わりに涙は次々に溢れ出る。でも、その女の人は、怒る訳でも困る様でもなく
「大丈夫ですよ?いっぱい泣いても良いですからね?」
と、私の背中を優しく撫でてくれる。その優しさに、更に涙が出た。
「ふっ…還り…たい…っ…」
気が緩んだのもあって、還りたいと口から溢れた。
多分、さっきの"ごめんなさい"も"還りたい"も、こちらの言葉に変換されていると思う。私の言葉をに2人ともが反応したから。
「えぇ。きっと、還れますからね。それで、カルザイン様…」
「……」
「この事は、私から報告させていただきます。カルザイン様は、今すぐここから出て行ってもらえますか?」
「…あ…あぁ…その…すまなかった…」
「私に謝っていただいても困ります。謝罪する相手はハル様です。しかし、今はそれも結構です。今あなた様に出来る事は…一刻も早くここから立ち去る事だけです!」
そうまで言われて、カルザイン様はそれ以上は何も言わずに庭から出て行った。
「さぁ、私の事とか詳しい事は後から説明しますから、取り敢えずお部屋へ戻りましょう。」
その女の人に促されて、部屋の中へと戻った。
自分でやろうとしたのだが、やんわりと断られて…裸足で外に出ていたので、部屋に入ってすぐ温かいお湯の入った容器に足を入れて洗われた。その後も丁寧に拭かれて、フワフワのスリッポンの様な靴を履かされた。
「かわ…いい…」
私は、喋る時は意識して翻訳魔法は使わず、辿々しいながらも自分の力だけでこちらの言葉で喋る様にしている。
「まさか、靴が無いとは思いませんでした。この様子だと、まだまだ問題点はありそうですね…。」
この女性、名前は "サエラ"さん(40歳)。若い頃にこの王宮に勤めていたが、結婚を機に退職をしたそうだ。でも、二年程前、夫と子供を病気で亡くしてしまったらしい。もともと侍女としは優秀で、王妃様付きの侍女をしていたので、王宮から声が掛かりまた王宮で勤める事になったらしい。
そのサエラさんが少し思案した後ー
「ハル様、私に3日程時間を頂けますか?」
私にそう訊きながら、サエラさんは口角をクイッと上げた。
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