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陸
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『なら、頭から拒絶せずに、取り敢えず俺の事、見て考えてみてくれないかな?それでも駄目だったら……その時はその時に考えるとして、暫くの間、今日みたいに俺のとの時間を作って欲しい』
と言われて受け入れてから半年。私は週に1回はラサエル様とランチをしている。
ジルさんとヴィニーさんからは、『嫌な事をされたら直ぐに言うのよ』と言われたけど、今では笑って送り出してくれるようになった。
ランチに行き出した頃は、その行き先でよく令嬢に絡まれる事もあった。でも、その度に『私の友達に絡むのは止めてくれるかな?文句があるなら、直接私に言いに来れば良いから。彼女には迷惑を掛けないでもらいたい』なんて、これ以上ない程の微笑みを浮かべながら言うラサエル様に、誰もが見惚れて頷く事しかできず、そんな事が1ヶ月も続くと、絡んで来る令嬢もほぼ居なくなった。ラサエル様が、色んな令嬢に声を掛ける事をしなくなったのもあるだろうけど。
取り敢えず、今の所は、良い友達関係を築けていると思う。
「エリー、そろそろ、俺の事名前で呼ばないか?」
「遠慮します」
「何で?友達なら普通だろう?」
「友達だとしても、そこには男女の壁と貴族との壁がありますから。そこは…譲れません」
名前呼びなんてしたら、周りからの見る目が変わってしまうだろう。
正直、未だに私に絡んで来る令嬢は居る。ラサエル様の目が無い時を狙って来るのだ。ただ、私が“ラサエル様”と呼んでいる事を知っているからか、極端に嫌がらせをされる訳ではなく、有り難い忠告だけで済んでいるのだ。
『あれだけ一緒に出掛けていて、未だに家名でしか呼べないのね。ま、身の丈に丁度良いけど』
と、最後にはそう言われるのだ。単純と言えば単純だけど、手っ取り早い防御法でもある。
「異性を名前呼びするのは、私なりに覚悟を決めた時だけだす」
「覚悟……ずっと訊かずにいたけど……エリーは、ひょっとして……過去に彼氏や婚約者や旦那が居て、何かあったり……」
「私の過去に、彼氏も婚約者も旦那も居ません!欲しいとも思ってないので!」
「ゔっ………嬉しいやら辛いやら…だな………」
ラサエル様には申し訳無いけど、ラサエル様本人がどうこうではなく、恋をする事の意味が、私には分からないのだ。
「恋って、何なんですかね?」
「何なんだろうね?俺も最近思ったんだけど、恋ってその時その時で全く違うんだよね。以前の俺なら、“楽しい”事だけが恋だったけど…。エリーに対してはそれだけじゃなくて、振り向いてくれない辛さも含めて恋なんだ。振り向いてくれなくても、側に居るだけで嬉しくなったり……護ってあげたいとか自然に思ったりして……」
ーそんなどストレートに言われると、流石に恥ずかしい!けど……ー
「“護ってあげたい”ですか…と言っても、私は獣人ですから、人間の一般的な令嬢達よりは強いんですけどね」
獣人の中でも、そこそこの力があるのは黙っておこう。力が強くても、私は護る事ができなかったのだから。『私は強いんです!』なんて、偉そうな事は言えないのだ。
「力だけで言うとそうかもしれないけど、男が好きな子を護りたいと思うのは当たり前の事だし、護らずしてどうする?と言いたい」
「口だけなら、何とでも言えるんですよ……」
「え?」
「あっ…ごめんなさい!今のは……」
「エリーが恋愛に消極的なのは、過去に何かあったから?好きな人に…裏切られたとか?」
「…………」
「すまない。言いたくなければ──」
「人間のラサエル様は、獣人の番って…どう思いますか?」
“獣人にとっての番”
それは、獣人にとっては奇跡の対象であり、唯一無二の存在だ。出会う確率は10%にも満たない。そんな存在に出会う事ができたら、何て幸運な事なんだろう。
「俺は人間だから、番に対する感情がどれ程大きいのかは分からないけど、人間だって理性ではなく本能で好きになるんだから、理屈で言えば同じなんじゃないか?ただ、獣人が番に対して理性を失う程好きになるのだとしたら、人間の俺からすれば、怖いなと思うけど。それと、好きになった子を護るのは人間も獣人も番も関係無いだろう?番だから護るんじゃなくで、好きだから護るんだから」
「…………」
あの人は、“好きだから”でも“番だから”でも護ってはくれなかった。
「私は好きな人を護れなかったんです」
ヒュッと、ラサエル様が息を呑んだのが分かった。
「いつも私には笑顔を向けてくれて、どんなに辛い思いをしても、私にはいつも優しくて…だから、どんな事をしても私が護るんだって……でも、護れなかったんです。それなのに、最期には───」
『───愛してる』
そう言って……微笑んでくれたのだ。
と言われて受け入れてから半年。私は週に1回はラサエル様とランチをしている。
ジルさんとヴィニーさんからは、『嫌な事をされたら直ぐに言うのよ』と言われたけど、今では笑って送り出してくれるようになった。
ランチに行き出した頃は、その行き先でよく令嬢に絡まれる事もあった。でも、その度に『私の友達に絡むのは止めてくれるかな?文句があるなら、直接私に言いに来れば良いから。彼女には迷惑を掛けないでもらいたい』なんて、これ以上ない程の微笑みを浮かべながら言うラサエル様に、誰もが見惚れて頷く事しかできず、そんな事が1ヶ月も続くと、絡んで来る令嬢もほぼ居なくなった。ラサエル様が、色んな令嬢に声を掛ける事をしなくなったのもあるだろうけど。
取り敢えず、今の所は、良い友達関係を築けていると思う。
「エリー、そろそろ、俺の事名前で呼ばないか?」
「遠慮します」
「何で?友達なら普通だろう?」
「友達だとしても、そこには男女の壁と貴族との壁がありますから。そこは…譲れません」
名前呼びなんてしたら、周りからの見る目が変わってしまうだろう。
正直、未だに私に絡んで来る令嬢は居る。ラサエル様の目が無い時を狙って来るのだ。ただ、私が“ラサエル様”と呼んでいる事を知っているからか、極端に嫌がらせをされる訳ではなく、有り難い忠告だけで済んでいるのだ。
『あれだけ一緒に出掛けていて、未だに家名でしか呼べないのね。ま、身の丈に丁度良いけど』
と、最後にはそう言われるのだ。単純と言えば単純だけど、手っ取り早い防御法でもある。
「異性を名前呼びするのは、私なりに覚悟を決めた時だけだす」
「覚悟……ずっと訊かずにいたけど……エリーは、ひょっとして……過去に彼氏や婚約者や旦那が居て、何かあったり……」
「私の過去に、彼氏も婚約者も旦那も居ません!欲しいとも思ってないので!」
「ゔっ………嬉しいやら辛いやら…だな………」
ラサエル様には申し訳無いけど、ラサエル様本人がどうこうではなく、恋をする事の意味が、私には分からないのだ。
「恋って、何なんですかね?」
「何なんだろうね?俺も最近思ったんだけど、恋ってその時その時で全く違うんだよね。以前の俺なら、“楽しい”事だけが恋だったけど…。エリーに対してはそれだけじゃなくて、振り向いてくれない辛さも含めて恋なんだ。振り向いてくれなくても、側に居るだけで嬉しくなったり……護ってあげたいとか自然に思ったりして……」
ーそんなどストレートに言われると、流石に恥ずかしい!けど……ー
「“護ってあげたい”ですか…と言っても、私は獣人ですから、人間の一般的な令嬢達よりは強いんですけどね」
獣人の中でも、そこそこの力があるのは黙っておこう。力が強くても、私は護る事ができなかったのだから。『私は強いんです!』なんて、偉そうな事は言えないのだ。
「力だけで言うとそうかもしれないけど、男が好きな子を護りたいと思うのは当たり前の事だし、護らずしてどうする?と言いたい」
「口だけなら、何とでも言えるんですよ……」
「え?」
「あっ…ごめんなさい!今のは……」
「エリーが恋愛に消極的なのは、過去に何かあったから?好きな人に…裏切られたとか?」
「…………」
「すまない。言いたくなければ──」
「人間のラサエル様は、獣人の番って…どう思いますか?」
“獣人にとっての番”
それは、獣人にとっては奇跡の対象であり、唯一無二の存在だ。出会う確率は10%にも満たない。そんな存在に出会う事ができたら、何て幸運な事なんだろう。
「俺は人間だから、番に対する感情がどれ程大きいのかは分からないけど、人間だって理性ではなく本能で好きになるんだから、理屈で言えば同じなんじゃないか?ただ、獣人が番に対して理性を失う程好きになるのだとしたら、人間の俺からすれば、怖いなと思うけど。それと、好きになった子を護るのは人間も獣人も番も関係無いだろう?番だから護るんじゃなくで、好きだから護るんだから」
「…………」
あの人は、“好きだから”でも“番だから”でも護ってはくれなかった。
「私は好きな人を護れなかったんです」
ヒュッと、ラサエル様が息を呑んだのが分かった。
「いつも私には笑顔を向けてくれて、どんなに辛い思いをしても、私にはいつも優しくて…だから、どんな事をしても私が護るんだって……でも、護れなかったんです。それなのに、最期には───」
『───愛してる』
そう言って……微笑んでくれたのだ。
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