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*竜王国*

29 番と妃②

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竜人と番ではない人間との間に子ができた。
しかも、たったの3年で。これは、本当に奇跡でしかなかった。竜人同士でも3年で身篭る事が珍しいのに。

「恐らくですが、竜人に近い人間の子だと思います。もし、これが竜人であれば、母胎である王妃様が竜力に耐え切れるかどうか─と言うところでしたから、人間で良かったかと…」

人間が竜人の子を身篭れば、お腹の子の竜力が強過ぎて母胎である母親を死に追いやってしまう事もある。ただ、それを回避する術はある。あるのはあるが、彼女はそれを受け入れなかった。

一生に一度だけ、竜人には“竜心”と呼ばれる鱗ができる。それを、伴侶と選んだ者に与えると、その者が人間でも獣人であっても、与えた竜人と同じ竜力を得る事ができ、竜人と同じような体質になれるのだ。その相手が番であれば、より強い絆で結ばれる事となる。


「その竜心は、本来は貴方の本当の番の物だったんでしょう?なら、私は受け入れる事はできないわ。それに、そんな物がなくても、私は貴方を愛しているし、貴方も私を愛してくれるでしょう?」

彼女は、これからも人間である事を選んだのだ。
人間の生は短いが、私もそれなりの歳を重ねていたから、意外と残りの生は同じぐらいなのかもしれない─と言う事もあって、私もそれ以上何も言わなかった。


兎に角、それからは大変だった。
たとえお腹の子が人間だったとしても、竜人寄りの人間と言う事もあって、それなりに負担が掛かり、彼女はベッドから起き上がれないと言う日がよくあり、悪阻も酷かった。
それでも何とか無事に出産する事ができて、生まれて来たのは……人間の女の子だった。

母親似でアイスブルーの髪に、飴色に近い琥珀色の瞳の可愛い女の子。私が触れると壊れそうな程の小さい小さい女の子。それでも、確かに私と同じ竜力を纏っていた。

「コーデリア、ありがとう。こんな可愛らしい子を生んでくれて…ありがとう」






***

「結界師の…コーデリア…………」
「そう。結界師のコーデリア。私の唯一の妃はグレスタン公国のコーデリア=ラズベルトだ」

目の前で、レイラーニが大きく目を見張ったまま私を見ている。なんとも愛らしい顔だ。何故こんなにも似ているのに気付かなかったのか…本当に、コーデリアには驚かされる事ばかりだ。

「私とコーデリアの唯一の娘の名前は……レイラーニ。レイラーニ、君は、母親のコーデリアにそっくりだ」
「私が……ネルさんと、お母様の妹のコーデリア様の……娘?竜人寄りの…人間???」
「そうだよ。私のむす──レイラーニ!?」

ブツブツと何かを呟いていたレイラーニだったけど、途中でプツリと糸が切れたかのように前のめりに布団へと突っ伏したまま動かなくなってしまった。








どうやら、色々あり過ぎて気持ちが追い付かず、体力も落ちていたのもあり、気を失ってしまったようだった。

「もう少し気遣ってあげて下さい!」

と、ブランシュに怒られてしまった。




***


レイラーニは、翌日には目を覚まし、体力低下以外の異常はなく、1週間程安静に過ごしてもらっている間に、テイルザールのゴタゴタを片付ける事にした。




“竜王に呪いを掛けた愚王”
“竜王妃を殺した愚王”
“テイルザール王国を滅ぼした愚王”

として、ヘイスティングスは玉座から引きずり降ろされ、暫くの間は竜王国と同盟関係にあるウィンスタン王国の王弟が国王代理を務めて国内を立て直し、落ち着いてから国王を立てると言う事になった。
その、墜ちた元国王のヘイスティングスには──

ー私と同じモノを味わわせるー





***


レイラーニが生まれてからは、より穏やかな日々が送れるようになった。レイラーニを見るだけで、心にあった少しの穴が埋まったように、竜力が暴れる事はなくなった。コーデリアもまた、いつも幸せそうに笑っていた。
ただ、やはり体に負担が掛かってしまったのは事実で、体調を崩す事が増えていった。

「暫く、グレスタン公国で静養された方が良いかもしれません」

コーデリアが寝込む日が増えて来たある日、医師から提案され、それを受け入れる事にした。
竜王国は天空にあり竜力に溢れている為、人間であるコーデリアに負担が掛かっているのかもしれない─と言う事だった。それが、レイラーニが4歳になる少し前の事だった。
本当は、コーデリアともレイラーニとも離れたくはなかったけど、2人の事を思うのであれば─と、なんとか我慢して2人をコーデリアの生家であるラズベルト邸へと送り出した。勿論、2人の身の安全を優先する為に、コーデリアが竜王妃である事は、父と母のラズベルト伯爵夫妻以外には秘密にしていた。


そうして、コーデリア達と離れ離れになって半年程過ぎた頃、それは起こった。

その日も、私がいつものように執務をこなしていると、突然胸に劇痛が走った。

「────っ!!」

何とも耐え難い、今迄感じた事の無い痛みなのに、その痛みの原因を本能で理解した。




私の番が………死んだのだ────




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