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*テイルザール王国*
26 二度目の旅立ち
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*アルマ視点*
一体何が起こっているのか──分かっているけど脳内処理が追いつかない。
ガレオン様に言いやられて、急いで果実水を用意してレイ様の元へと向かっていると、後宮が大きな音を立てながら崩壊していった。
「レイ様!?レイ様どこに──」
「レイ様はここに居るから大丈夫…とも言えないが……」
「テオフィル様!?レイ様!!」
何故か、レイ様はガレオン様ではなくテオフィル様に抱き上げられている。心なし呼吸が少し荒い気もする。それに、この匂いは………
「ひょっとして、媚薬を?」
「盛られていたみたいだが、さっきレイ様の作った万能薬を飲ませたから大丈夫だと思う。暫くの間は眠ってもらう事になるが……」
「何て事を……」
ガレオン様は一体何を考えているのか。人間のレイ様に獣人用の媚薬を盛るなんて、最悪の場合後遺症が残る事もある。その媚薬の効果が切れると錯乱状態に陥る。そうならない為にまた媚薬を飲み、媚薬を飲むと快楽を求めずには居られなくなる。そんな媚薬を、人質とは言え側妃に盛るとは…
「王妃の指示だろうな。さっき、女官長から“避妊薬と人間用の媚薬を用意しろ”と言われたから。王妃としては、王が人間の元に渡る事が許せなくて、それを阻止しようと、レイ様を汚れさせる事にしたんだろう。虫酸が走る」
「お渡り…そんな……」
媚薬は大丈夫だと安心したのも束の間、国王のお渡り……それは、レイ様が一番嫌がっている事だ。人質だから離婚できるかどうかは分からないけど、白い結婚のままでもう少しで3年が経つと、少し嬉しそうにしてたのに──
「そんな……それじゃあ…レイ様は……」
「レイ様は大丈夫だ。もう、これ以上ヘイスティングスの思い通りにはさせないし、そもそも、婚姻自体が成立していないから」
「はい?」
眉間に皺─ではなく、ニッコリ微笑むテオフィル様。こんな風に笑う事もできるのか─ではなく、婚姻自体が成立していないとは、どう言う事なんだろうか?
「その辺りは、りゅ─ネルから話が聞けると思うから、今からパーティーホールに一緒に行こう」
「え?でも………」
「詳しくはまた後で説明するけど、これから何か起こったとしたら、その時、アルマはテイルザールに残る?それとも、レイ様と一緒に来る?」
「私は、グレスタンを出る時に、どんな事があっても、レイ様の側に居ると決めてましたから、何があってもレイ様と一緒に居ます!」
「分かった」
そしてまた、テオフィル様は微笑んだ。
パーティーホールに入ると─入る時から大変だった。何処に居たのか、ボロボロになったガレオン様がテオフィル様の一蹴りでゴロゴロとホールへとぶっ飛んで行った。
獣人族の中でもかなりの強さを誇る狼族のガレオン様を、ボロボロにした上に軽い蹴りでぶっ飛ばすテオフィル様。何族なのか?と思えば…まさかの竜人だった。しかも、ネル様が竜王で、レイ様が竜王の娘で王女で───
脳内処理が追いつかないまま、真っ白な綺麗な竜が現れたかと思えば、パーティーホールが戦場化した。黒色と白色の竜が窮屈そうにしながらも、獣人の騎士達を次々に仕留めて行き、最終的には、人型になった白色の竜人の独擅場となった。
ーレイ様が寝ていて良かったー
テイルザールの国王様と王妃様は、未だ護って立っている宰相様の後ろで震えている。ホールの隅で固まっている人間に至っては、気を失って倒れている者も居る。今この場に居る人間は、レイ様と何かしらの関係があった者だけだ。一体どんな処罰が下されるのか──謝って済むなんて事だけはないだろう。
ーこれから、テイルザールとグレスタンはどうなるのかー
そんな事を考えていると、破壊された城壁の向こうから、更に10体程の竜が現れた。
******
「うわぁー」
「高い所は大丈夫なんだな」
「あ、はい。高い所は大好きなので、空を飛んでるなんて夢のようです!」
今、私は空を飛んでいる。
高級な鳥篭のような乗り物に乗せられたかと思うと、竜化した騎士がその鳥篭をヒョイッと持ち上げ、そのまま空へと飛び立った。その鳥篭には結界が張られているようで、竜が飛ぶスピードはとても速い筈なのに、鳥篭が大きく揺れる事はない。馬車よりも快適だ。
そして、この鳥篭には、勿論レイ様も乗っている。乗っているけど、相変わらずテオフィル様に抱き上げられたまま眠っている。
「このまま、俺がお連れする」と、テオフィル様がレイ様を離さなかったのだ。
そして、今も眉間に皺を寄せて眠っているレイ様の顔を見つめている。
ーなるほど。アレは…照れ隠しなのかー
あまりにも、テオフィル様がレイ様だけに険しい顔を向けるから、何かあるのかと思ってはいたけど……ひょっとしたら、遅咲きの春を迎えた竜人なのかもしれない──何て思うと、テオフィル様が可愛らしく見えて来た──とは口に出しては言えないけど。
兎に角、レイ様が無事で良かった。綺麗なまま婚姻も破棄され、もう人質となる事はない。これからは、本当の家族と一緒に暮らしていけるのだ。
ーどうか、レイ様が竜王国で幸せになりますようにー
そう思いながら、夜空の旅を楽しんだ。
一体何が起こっているのか──分かっているけど脳内処理が追いつかない。
ガレオン様に言いやられて、急いで果実水を用意してレイ様の元へと向かっていると、後宮が大きな音を立てながら崩壊していった。
「レイ様!?レイ様どこに──」
「レイ様はここに居るから大丈夫…とも言えないが……」
「テオフィル様!?レイ様!!」
何故か、レイ様はガレオン様ではなくテオフィル様に抱き上げられている。心なし呼吸が少し荒い気もする。それに、この匂いは………
「ひょっとして、媚薬を?」
「盛られていたみたいだが、さっきレイ様の作った万能薬を飲ませたから大丈夫だと思う。暫くの間は眠ってもらう事になるが……」
「何て事を……」
ガレオン様は一体何を考えているのか。人間のレイ様に獣人用の媚薬を盛るなんて、最悪の場合後遺症が残る事もある。その媚薬の効果が切れると錯乱状態に陥る。そうならない為にまた媚薬を飲み、媚薬を飲むと快楽を求めずには居られなくなる。そんな媚薬を、人質とは言え側妃に盛るとは…
「王妃の指示だろうな。さっき、女官長から“避妊薬と人間用の媚薬を用意しろ”と言われたから。王妃としては、王が人間の元に渡る事が許せなくて、それを阻止しようと、レイ様を汚れさせる事にしたんだろう。虫酸が走る」
「お渡り…そんな……」
媚薬は大丈夫だと安心したのも束の間、国王のお渡り……それは、レイ様が一番嫌がっている事だ。人質だから離婚できるかどうかは分からないけど、白い結婚のままでもう少しで3年が経つと、少し嬉しそうにしてたのに──
「そんな……それじゃあ…レイ様は……」
「レイ様は大丈夫だ。もう、これ以上ヘイスティングスの思い通りにはさせないし、そもそも、婚姻自体が成立していないから」
「はい?」
眉間に皺─ではなく、ニッコリ微笑むテオフィル様。こんな風に笑う事もできるのか─ではなく、婚姻自体が成立していないとは、どう言う事なんだろうか?
「その辺りは、りゅ─ネルから話が聞けると思うから、今からパーティーホールに一緒に行こう」
「え?でも………」
「詳しくはまた後で説明するけど、これから何か起こったとしたら、その時、アルマはテイルザールに残る?それとも、レイ様と一緒に来る?」
「私は、グレスタンを出る時に、どんな事があっても、レイ様の側に居ると決めてましたから、何があってもレイ様と一緒に居ます!」
「分かった」
そしてまた、テオフィル様は微笑んだ。
パーティーホールに入ると─入る時から大変だった。何処に居たのか、ボロボロになったガレオン様がテオフィル様の一蹴りでゴロゴロとホールへとぶっ飛んで行った。
獣人族の中でもかなりの強さを誇る狼族のガレオン様を、ボロボロにした上に軽い蹴りでぶっ飛ばすテオフィル様。何族なのか?と思えば…まさかの竜人だった。しかも、ネル様が竜王で、レイ様が竜王の娘で王女で───
脳内処理が追いつかないまま、真っ白な綺麗な竜が現れたかと思えば、パーティーホールが戦場化した。黒色と白色の竜が窮屈そうにしながらも、獣人の騎士達を次々に仕留めて行き、最終的には、人型になった白色の竜人の独擅場となった。
ーレイ様が寝ていて良かったー
テイルザールの国王様と王妃様は、未だ護って立っている宰相様の後ろで震えている。ホールの隅で固まっている人間に至っては、気を失って倒れている者も居る。今この場に居る人間は、レイ様と何かしらの関係があった者だけだ。一体どんな処罰が下されるのか──謝って済むなんて事だけはないだろう。
ーこれから、テイルザールとグレスタンはどうなるのかー
そんな事を考えていると、破壊された城壁の向こうから、更に10体程の竜が現れた。
******
「うわぁー」
「高い所は大丈夫なんだな」
「あ、はい。高い所は大好きなので、空を飛んでるなんて夢のようです!」
今、私は空を飛んでいる。
高級な鳥篭のような乗り物に乗せられたかと思うと、竜化した騎士がその鳥篭をヒョイッと持ち上げ、そのまま空へと飛び立った。その鳥篭には結界が張られているようで、竜が飛ぶスピードはとても速い筈なのに、鳥篭が大きく揺れる事はない。馬車よりも快適だ。
そして、この鳥篭には、勿論レイ様も乗っている。乗っているけど、相変わらずテオフィル様に抱き上げられたまま眠っている。
「このまま、俺がお連れする」と、テオフィル様がレイ様を離さなかったのだ。
そして、今も眉間に皺を寄せて眠っているレイ様の顔を見つめている。
ーなるほど。アレは…照れ隠しなのかー
あまりにも、テオフィル様がレイ様だけに険しい顔を向けるから、何かあるのかと思ってはいたけど……ひょっとしたら、遅咲きの春を迎えた竜人なのかもしれない──何て思うと、テオフィル様が可愛らしく見えて来た──とは口に出しては言えないけど。
兎に角、レイ様が無事で良かった。綺麗なまま婚姻も破棄され、もう人質となる事はない。これからは、本当の家族と一緒に暮らしていけるのだ。
ーどうか、レイ様が竜王国で幸せになりますようにー
そう思いながら、夜空の旅を楽しんだ。
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