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*テイルザール王国*

22 終わりの始まり

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『きっと、貴方を護ってくれるから。だから、貴方もこの子を護ってあげて。私が居なくても大丈夫。だって、この子は───』











*パーティーホール*


「ガレオンは上手くやっているでしょうか?」
「大丈夫でしょう。あの小娘は人間でガレオンは狼族で力は敵わないし、人間には少しキツイ媚薬も渡しておいたから、2人で楽しんでいるわ」

少し心配そうにしているのは第一側妃スフィル。媚薬も用意してあると聞いてホッとした。王妃からの指示で、事が上手く行くように後宮の護衛と待機の女官の数を減らしてはいたが、ガレオンが失敗したり助けが入ってしまうと、自分の身がどうなるのか分からなかったからだ。表立って動いたのは第一側妃スフィルで、王妃にとっては何かあれば切り捨てられる可能性もある。それ故に、どうしてもガレオンと既成事実を作ってもらわなければならない。それさえできれば、後はガレオンが「第十側妃様から誘われた」と言えば、誰もがそれを信じ、人間の側妃は罰せられるだろうから。

「これで、ようやく目障りな10番目を追い出せますね」

ーあんな無能で貧弱な側妃は要らない。雄々しいヘイスティングス様には似合わないー

スフィルは、そこでようやく笑みを浮かべた。





*王妃ヴァレンティナ視点*

『マルソー、明日の夜、10番目に“”と伝えろ』

私は、ヘイスティングス様のあの言葉に驚いた。

“無能だ”“見窄らしい”“人質でしかない”

と言って、3年も放置していた小娘の元へと渡ると言う。それは、アレが無能な人質であったとしても、“アレ自身に興味が湧いた”と言う事だ。
義務とは言え、9番目の兎と初夜を迎えた事ですら腹立たしかったのに、さらに貧弱な人間の小娘と交わるなど──許せる筈も無い。ならば、あの小娘を傷者にすれば良い。ヘイスティングス様は、自分のモノを汚される事を嫌っている。あの兎でさえ、渡りのないまま離縁もせずに“人質だから”と後宮に留めているのだ。
ガレオンなら上手くやれるだろう。「側妃様に媚薬を飲まされて」と言えば……それでもヘイスティングス様が疑うような事があれば……その時はガレオンも小娘と一緒に切り捨てれば良いだけの事だ。表立って動いたのはスフィルだから、スフィルも纏めて切り捨てれば良い。スフィルの父親の公爵も目障りだから丁度良い。
兎に角、今回の事が上手くいっても失敗しても得るものはある。

「早く良い報せを聞きたいわ」






*国王ヘイスティングス視点*


ドンッ───────

「きゃあーっ」
「何だ!?」
「何の音だ!?」

まだまだ賑やかに続いていた夜会の最中、ドンッと言う音が轟き渡った。

「何があった!?衛兵、今すぐに音のした所を確認して来い!」
「承知しました!」

国王の指示のもと、ホールに居た数人の衛兵が走って音のしたであろう方へと走って行った。

「皆さん落ち着いて下さい!このホールは純度の高い魔石で結界を張っているから安心です」

他国の王族や貴族が集まるのだから、安全第一に調えてある。勿論、純度の高い魔石はグレスタン公国から輸入している物だ。流石は純度が高いだけあって、以前使っていたテイルザール自国の魔石で張っていた結界よりも遥かにレベルの高い結界が張れているから、多少の攻撃でも問題無い。
しかし、一体何が起こったのか。警備を強化している建国記念の日に起こったもの。失態を晒す訳にはいかない。

「音の原因を確認させています。今は兎に角落ち着いて、ドリンクを飲みながらでもお待ち下さい」

ホール全体を見渡すと、戸惑いの表情を浮かべてはいるが落ち着いている。

「10番目は何処だ?」

ホールには王妃のヴァレンティナと1番目から…9番目の姿はあるのに10番目だけが見当たらない。ドレスの色からしてすぐに目に付く筈なのに。王妃の側近であるガレオンも居なくなっている。

ー王妃が何かしたのか?ー

私は、私のモノを汚されるのが大嫌いだ。私のモノに手を出した者はそれ以上に怒りを覚える。
ましてや、10番目は綺麗なままだった筈だ。

「マルソー、今すぐ後宮に──」
「陛下!先程の音の出どころが確認できたのですが…」

マルソーに、10番目が後宮に帰ったのかどうか確認させようとした時、慌てた様子の衛兵が会場へと戻って来た。

「早かったな、それで、どこだったのだ?」
「こっ…後宮です!後宮に張られていた結界諸共……破壊されていました!」
「結界諸共!?」

後宮にも、このホールと同じ結界を張っていた。いや、後宮には王妃や側妃、殆ど女しか居ない為によりレベルの高い結界を張っていたのに、その結界諸共後宮が破壊されたとは……。

「一体どう言う事だ!?今すぐ私も後宮に─」
「そんなに急いで……どこに行くのかな?」

報告だけでは判断できないと思い、私も後宮へと向かおうと立ち上がった時、開かれたホールの扉の向こうから静かな声が響いた。




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