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後日談
琢磨と雪
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❋本編完結後に、“置き場”に投稿したお話です。こちらに移動しました❋
*琢磨視点*
「…美幸?」
今、俺の目の前に…美幸が居る。あの時─俺が最後に見た時と同じ、高校の制服を着た美幸だ。
あの頃のままの美幸が、俺の事を真っ直ぐに見つめている。
「私はあの日、あっちの世界では死んでしまったけど、気が付いたら、この世界に生まれ変わっていたの。前世の事なんて、全く覚えていなかったのに…。それなのに、あなた達2人が召喚されて…再会した事によって、前世を思い出した。」
俺はヒュッと息を呑んだ。
「私は…2人がした事を許す事は…できないと思う。」
ーそりゃ…そう…だよなー
グッと手を握りしめる。
「琢磨が私の為に変わろうとした事は、嬉しいとは思うけど…私は…どの私でも…琢磨の気持ちには、もう何も応える事は…できない。」
美幸がそう言い切った時、俺と雪の足元でゆっくり展開されていた魔法陣が完成し、そこから金色の光がフワリフワリと舞い上がり始めた。
転移が始まったのだ。
「美幸!ごめん!本当にごめん!許してもらおうなんて…思ってない!でも…信じてもらえないかもしれないけど、俺…本当に美幸の事が大切で…好きだったんだ!本当に好きだったんだ!」
泣くつもりなんてなかった。泣く資格なんてないのに、知らず知らずのうちに…涙が出ていた。そんな俺を、美幸は困ったような顔をして見ていた。そのうち、フワリフワリと舞う金色の光で、美幸の姿が見えにくくなって来る。声も段々遠くなっていく。
これで…最後なんだ…これで、もう二度と俺達の人生が交わる事は…ないんだ。
「琢磨!私も…琢磨の事…本当に好きだったよ!さようなら!」
金色の光の向こうに居る美幸と目が合った。その顔は…俺が大好きだった美幸の笑顔だった。
俺の記憶にあった美幸は、俺に裏切られて…辛そうな顔をした美幸だった。でも、今の美幸は…笑っている。
「───美幸!ごめん!ありがとう!」
金色の光が一気に上空へ舞い上がり、それと同時に浮遊感が体を襲い─その光が収まると共に一気に体が重くなり─気が付けば──美幸のお墓の前に立っていた。
そう。向こうの世界に召喚される前に居た場所に戻っていた。
「──な…で…」
俺のすぐ横には、雪が地面に座り込んでいた。
「─雪、だいじょ──」
「何で戻って来れたの?私…別に戻って来たかったわけじゃないのに。何で?それに、何で美幸が…何で死んだ筈の美幸が!あの世界で幸せそうにしてるの!?何で!!」
「お前…何を……美幸─ミューさんが幸せそうにしていて…何か問題があるのか?」
雪にとって、美幸は友達ではなかったのか?いや、友達だったなら…俺とは関係を持っていなかっただろうけど…。
すると、雪はその場に座ったまま俺を見上げて
「問題もなにも──昔からそうだった。私よりも劣っていた美幸が、学校で一番人気の琢磨と付き合いだして…本当にムカついたわ!だから、美幸から琢磨を奪ってやったのよ!最期には…目の前で死んでくれて……これで、やっと琢磨の心も手に入れられるって思ったのに。あの日、琢磨に抱いてもらえた時は…嬉しかった。それでも…心迄はくれなかった。」
雪は、俺を見つめたままで話し続ける。
「それから琢磨とは会えなくなって…なんとかその気持ちを消化できるかも─って思った時に、また琢磨とここで再会して……向こうの世界に一緒に召喚されて、一緒に過ごすうちに…やっぱり琢磨が欲しいと思うようになった。でも、やっぱり琢磨は…私を見てくれなくて…。そうしてるうちに…私は聖女だしハッキリ言って美人だし…見目の良い男の人に声を掛けると…相手をしてくれたのよ。勿論、お茶をして話をするだけよ?体の関係があったのは…今だって…琢磨だけだから…。」
“琢磨だけ”と言うのには…正直…驚いた。
「日本に還れないなら、新しい恋をして前に進もうと思ったのに。それで、ハルシオン様が好きになって…結婚したいって…聖女は相手を選べるって…なのに……それをまた、美幸に邪魔された!」
「また?邪魔?」
ー雪は何を言っているんだ?ー
「そうよ!何の取り柄も無い、可愛くもない美幸のくせに、私から琢磨もハルシオン様も奪っていったのよ!死んだ後も…転生?して異世界でも私の邪魔をしたのよ!」
「何を…言ってるんだ?お前…他人の命を…どう思ってるんだ?お前には…罪悪感は…無かったのか?何も反省していないのか?」
「罪悪感?反省?何に対して?」
雪は、本当に何も分かっていないかのように、キョトンとした顔で俺を見上げている。
ーあぁ、雪は…美幸の死に対して…何も思っていなかったのかー
“邪魔者がいなくなった”ぐらいにしか…思っていなかったんだ。
「雪。例え、向こうの世界に残れていたとしても、ハルシオン様がお前を選ぶ事は無かったよ。お前が聖女だったとしても。それに、これからも俺が…雪を選ぶ事は無い。あの日、お前を…抱いてしまった事さえ後悔している。もう…二度とお前とは関わりたくない。お前を見る事さえも…嫌なんだ。」
「───たくま?」
それだけ言って、俺は雪をそのままにして足早にその場を去って行った。後ろから、雪が何かを叫んでいたけど、それを耳に入れるのも、振り返る事もなく俺は前に進んだ。
あれから─日本に還って来てから1年が過ぎた。
あれから、雪がどうしたか、どうなったかは知らないし知りたくもない。
俺の心の中には相変わらず美幸が居る。でも、その美幸は辛そうな顔ではなく、笑っている顔だ。
その美幸が、ミューさんの顔と重なって──
ハルシオン様と2人で笑っている
何て言う想像までしてしまっている。そんな勝手な想像をしておいて、胸がキュッと痛くなったりもしているのが…何とも笑えるところだ。
でも──
少し…スッキリもしている。少しずつではあるが、前に進めている気もしている。美幸─ミューさんには、ハルシオン様と幸せになって欲しい。いや。あのハルシオン様なら、きっとミューさんを幸せにしてくれるだろう。本当は、俺の手で幸せにしたかったけど…。
美幸。美幸は嫌だったかもしれないけど、また美幸に会えて良かった。生きていく世界は、もう二度と交わる事はないと思うけど、俺はこの世界から美幸の幸せを…祈ってる。
最後に笑顔をくれて…ありがとう。
❋美幸の母と父の話を短編で投稿しました。その短編と、この“琢磨と雪”の話で、【初恋】に関しては書き切ったかな─と言う感じです。最後迄、ありがとうございました❋
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
と言いつつ、こちらに移動したついでに、新作を1話投稿します。
(*ノ>ᴗ<)テヘッ
*琢磨視点*
「…美幸?」
今、俺の目の前に…美幸が居る。あの時─俺が最後に見た時と同じ、高校の制服を着た美幸だ。
あの頃のままの美幸が、俺の事を真っ直ぐに見つめている。
「私はあの日、あっちの世界では死んでしまったけど、気が付いたら、この世界に生まれ変わっていたの。前世の事なんて、全く覚えていなかったのに…。それなのに、あなた達2人が召喚されて…再会した事によって、前世を思い出した。」
俺はヒュッと息を呑んだ。
「私は…2人がした事を許す事は…できないと思う。」
ーそりゃ…そう…だよなー
グッと手を握りしめる。
「琢磨が私の為に変わろうとした事は、嬉しいとは思うけど…私は…どの私でも…琢磨の気持ちには、もう何も応える事は…できない。」
美幸がそう言い切った時、俺と雪の足元でゆっくり展開されていた魔法陣が完成し、そこから金色の光がフワリフワリと舞い上がり始めた。
転移が始まったのだ。
「美幸!ごめん!本当にごめん!許してもらおうなんて…思ってない!でも…信じてもらえないかもしれないけど、俺…本当に美幸の事が大切で…好きだったんだ!本当に好きだったんだ!」
泣くつもりなんてなかった。泣く資格なんてないのに、知らず知らずのうちに…涙が出ていた。そんな俺を、美幸は困ったような顔をして見ていた。そのうち、フワリフワリと舞う金色の光で、美幸の姿が見えにくくなって来る。声も段々遠くなっていく。
これで…最後なんだ…これで、もう二度と俺達の人生が交わる事は…ないんだ。
「琢磨!私も…琢磨の事…本当に好きだったよ!さようなら!」
金色の光の向こうに居る美幸と目が合った。その顔は…俺が大好きだった美幸の笑顔だった。
俺の記憶にあった美幸は、俺に裏切られて…辛そうな顔をした美幸だった。でも、今の美幸は…笑っている。
「───美幸!ごめん!ありがとう!」
金色の光が一気に上空へ舞い上がり、それと同時に浮遊感が体を襲い─その光が収まると共に一気に体が重くなり─気が付けば──美幸のお墓の前に立っていた。
そう。向こうの世界に召喚される前に居た場所に戻っていた。
「──な…で…」
俺のすぐ横には、雪が地面に座り込んでいた。
「─雪、だいじょ──」
「何で戻って来れたの?私…別に戻って来たかったわけじゃないのに。何で?それに、何で美幸が…何で死んだ筈の美幸が!あの世界で幸せそうにしてるの!?何で!!」
「お前…何を……美幸─ミューさんが幸せそうにしていて…何か問題があるのか?」
雪にとって、美幸は友達ではなかったのか?いや、友達だったなら…俺とは関係を持っていなかっただろうけど…。
すると、雪はその場に座ったまま俺を見上げて
「問題もなにも──昔からそうだった。私よりも劣っていた美幸が、学校で一番人気の琢磨と付き合いだして…本当にムカついたわ!だから、美幸から琢磨を奪ってやったのよ!最期には…目の前で死んでくれて……これで、やっと琢磨の心も手に入れられるって思ったのに。あの日、琢磨に抱いてもらえた時は…嬉しかった。それでも…心迄はくれなかった。」
雪は、俺を見つめたままで話し続ける。
「それから琢磨とは会えなくなって…なんとかその気持ちを消化できるかも─って思った時に、また琢磨とここで再会して……向こうの世界に一緒に召喚されて、一緒に過ごすうちに…やっぱり琢磨が欲しいと思うようになった。でも、やっぱり琢磨は…私を見てくれなくて…。そうしてるうちに…私は聖女だしハッキリ言って美人だし…見目の良い男の人に声を掛けると…相手をしてくれたのよ。勿論、お茶をして話をするだけよ?体の関係があったのは…今だって…琢磨だけだから…。」
“琢磨だけ”と言うのには…正直…驚いた。
「日本に還れないなら、新しい恋をして前に進もうと思ったのに。それで、ハルシオン様が好きになって…結婚したいって…聖女は相手を選べるって…なのに……それをまた、美幸に邪魔された!」
「また?邪魔?」
ー雪は何を言っているんだ?ー
「そうよ!何の取り柄も無い、可愛くもない美幸のくせに、私から琢磨もハルシオン様も奪っていったのよ!死んだ後も…転生?して異世界でも私の邪魔をしたのよ!」
「何を…言ってるんだ?お前…他人の命を…どう思ってるんだ?お前には…罪悪感は…無かったのか?何も反省していないのか?」
「罪悪感?反省?何に対して?」
雪は、本当に何も分かっていないかのように、キョトンとした顔で俺を見上げている。
ーあぁ、雪は…美幸の死に対して…何も思っていなかったのかー
“邪魔者がいなくなった”ぐらいにしか…思っていなかったんだ。
「雪。例え、向こうの世界に残れていたとしても、ハルシオン様がお前を選ぶ事は無かったよ。お前が聖女だったとしても。それに、これからも俺が…雪を選ぶ事は無い。あの日、お前を…抱いてしまった事さえ後悔している。もう…二度とお前とは関わりたくない。お前を見る事さえも…嫌なんだ。」
「───たくま?」
それだけ言って、俺は雪をそのままにして足早にその場を去って行った。後ろから、雪が何かを叫んでいたけど、それを耳に入れるのも、振り返る事もなく俺は前に進んだ。
あれから─日本に還って来てから1年が過ぎた。
あれから、雪がどうしたか、どうなったかは知らないし知りたくもない。
俺の心の中には相変わらず美幸が居る。でも、その美幸は辛そうな顔ではなく、笑っている顔だ。
その美幸が、ミューさんの顔と重なって──
ハルシオン様と2人で笑っている
何て言う想像までしてしまっている。そんな勝手な想像をしておいて、胸がキュッと痛くなったりもしているのが…何とも笑えるところだ。
でも──
少し…スッキリもしている。少しずつではあるが、前に進めている気もしている。美幸─ミューさんには、ハルシオン様と幸せになって欲しい。いや。あのハルシオン様なら、きっとミューさんを幸せにしてくれるだろう。本当は、俺の手で幸せにしたかったけど…。
美幸。美幸は嫌だったかもしれないけど、また美幸に会えて良かった。生きていく世界は、もう二度と交わる事はないと思うけど、俺はこの世界から美幸の幸せを…祈ってる。
最後に笑顔をくれて…ありがとう。
❋美幸の母と父の話を短編で投稿しました。その短編と、この“琢磨と雪”の話で、【初恋】に関しては書き切ったかな─と言う感じです。最後迄、ありがとうございました❋
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
と言いつつ、こちらに移動したついでに、新作を1話投稿します。
(*ノ>ᴗ<)テヘッ
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