103 / 105
後日談
リクエスト話
しおりを挟む飯田と休みが重なって八重子は久しぶりに喫茶店に入った。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
29
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪女は愛より老後を望む
きゃる
恋愛
――悪女の夢は、縁側でひなたぼっこをしながらお茶をすすること!
もう何度目だろう? いろんな国や時代に転生を繰り返す私は、今は伯爵令嬢のミレディアとして生きている。でも、どの世界にいてもいつも若いうちに亡くなってしまって、老後がおくれない。その理由は、一番初めの人生のせいだ。貧乏だった私は、言葉巧みに何人もの男性を騙していた。たぶんその中の一人……もしくは全員の恨みを買ったため、転生を続けているんだと思う。生まれ変わっても心からの愛を告げられると、その夜に心臓が止まってしまうのがお約束。
だから私は今度こそ、恋愛とは縁のない生活をしようと心に決めていた。行き遅れまであと一年! 領地の片隅で、隠居生活をするのもいいわね?
そう考えて屋敷に引きこもっていたのに、ある日双子の王子の誕生を祝う舞踏会の招待状が届く。参加が義務付けられているけれど、地味な姿で壁に貼り付いているから……大丈夫よね?
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい
楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」
こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。
由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。
そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。
◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました
◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる