初恋の還る路

みん

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後日談

結婚

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❋“置き場”から移動してきた話になります❋













晴れ渡る青空。

雲一つ無い青空なのに、“狐の嫁入り”の様に、ポツポツと心地良い雨が降っている。そのせいか、うっすらと虹が出ていて、幻想的な景色が広がっている。

「まるで、ウォルテライト女神様が、祝福してくれているようだな。」

ハルシオン様が空を見上げながら微笑んでいる。そして、そのままその視線を私に戻して

「ミュー、愛している。これからの人生は、この命が尽きるまで、ミューと共に歩んで行く。私の心は、未来永劫ミューだけのモノだ。」

「はい。私もこれからは、ハルシオン様と共にありたいと思っています。私の心は未来永劫、ハルシオン様のモノです。」

お互い向かい合って微笑んだ後、ハルシオン様の顔が私に近付き、私はソッと目を閉じてキスを受け入れた。



そう─

今日は、ハルシオン様と私の──結婚式なのだ。













「うぅっ…結婚式迄が短かった!!でも…妹が綺麗で可愛いーっ!うぅっ」

「ランお兄様、ありがとう…ございます。」

「ミューちゃん、いつでもアシュトレアうちに帰って来ても良いからね?」

「お義母様…それは…ちょっと縁起が悪い…かな?」

「ミュー、いつでもルミナの書いた魔導書を読みに来ても良いからな?」

「はい!お祖父様、ありがとうございます!」



と、こんな感じで、ハルシオン様と私の結婚を喜んでの涙─ではなく、結婚が早過ぎる!と非難?めいた涙で見送られた。それでも、血は繋がってはいないが、私はアシュトレア家の皆から本当に愛されていた─と実感する事ができ、心がほんのりと温かくなった。

そんな私の横に居るハルシオン様は──

勝ち誇った様な、満面の笑みを浮かべて立っている。

「くそうっ。ハルシオン、勝ち誇ったような笑顔だなぁ!」

「あぁ、ジルベルト。ではなく、勝ち誇った顔だから、安心してくれ。」

「くぅ──っ!」

「ジル…お兄様…あの……また、アシュトレア邸にも顔を出しますし、何より…お互い城勤めですから。今生の別れではありませんから…。」

だから、そんな大の大人が、本気で泣くのは止めて頂きたい!

「うぅ─ミューが俺に優しい…うぅっ」

ーえ─それでまた泣いちゃうの?ー

まぁ、確かに、今の今までジルお兄様には冷たく当たってたからなぁ…。ちょっとだけ、反省。 

「ジルベルト、それは自業自得だろう。」

と、ハルシオン様は、バッサリと切り捨てた。













ハルシオン様は、王位継承権を放棄しているとは言え、王弟である事には変わらない上、兄である国王が、弟であるハルシオン様を可愛がっている為、私達の結婚式を盛大に!と、やる気満々だったが

「派手な結婚式は要りません。綺麗に着飾ったミューを数多の男に見せる趣味は無いし見せたいとも思わない。」

とハルシオン様がそう言うと

「そうか!分かった!」

と、国王も頷き、身内と主だった貴族と魔導師達だけの、王族の結婚式としては、こじんまり?アットホーム?的な結婚式となった。

勿論、そこにはミシュエルリーナわたしの父であるレイナイト侯爵も含まれている。

再婚して妻─お義母様も居る筈なんだけど…父一人だけの参列である。

ー未だに“アレ”呼ばわりだもんねー

遠目だけど、そんな父をみていると目が合って、フッと目を細めて、口元が

「おめでとう」

と動いたのが分かった。

後で、少しだけでも良いから話ができたらな─と思いながら、ハルシオン様と一緒に参列してくれた人達に挨拶をして回った。












式が終わった後、王城に戻って宴会が行われた。この後、ハルシオン様と私も王城の王族の離宮に泊まる予定なので、あまり時間は気にせずに宴会を楽しんだ。





「ミュー様、そろそろお部屋へ下がりましょう。」

と、王城付きの女官に促されて、ハルシオン様より一足先に離宮へと向かった。





「それでは、レイナイト侯爵様、ミュー様の案内、宜しくお願い致します。」

「え?」

宴会の広間を出て少し廊下を進むと、そこにはレイナイト侯爵お父さんが立っていた。

「ハルシオン様から、離宮までの案内を、レイナイト侯爵様に頼んでいる─と、言付かっております。」

チラリとお父さんを見ると、軽く頭を下げた後

「ミュー嬢、離宮迄の間、宜しくお願いしますね?」

と、レイナイト侯爵らしく微笑んだ。










離宮へと続く廊下を、コツコツと靴音だけを響かせて歩いて行く。


「昨日の夜に…を読んだよ。」

「……」

「母さんは…ずっと…俺と美幸を…想っていてくれたんだな───。」

2人の歩みが止まる。

「なのに、俺は…前世では早いうちに死んで…今世では愛人なんて作って…俺は、何をしていたんだろうな。」

「…お父さん…」

「─美幸、俺は、母さんの分まで─なんて、お前を娘として抱き締めたりする事はできないけど…これからの美幸の幸せを…祈っているし…見守らせて欲しい。」

「お父さん…前にも言ったけど…私がミシュエルリーナでも、ミューでも…美幸でも、お父さんはずっと私のお父さんだからね?お母さんの事は…お父さんは何も悪くないからね?私は…お父さんの事、今でもこれからも大好きだからね?」

お父さんの両手を握って、私の気持ちを素直に伝える。

「美幸、ありが…とう。あぁ、言うのが遅くなったが…今日のお前は…本当に綺麗だ。きっと、母さんが見たら、泣いて喜んだだろう。」

と、お父さんは少し涙を流して、優しく微笑んだ。
















「ああああ───有り得ない!!!」


今日泊まる予定の部屋迄来ると、レイナイト侯爵は

「変な噂をたてられては困る」

と言い、直ぐに来た道を帰って行った。
そして、部屋に入ると、ズラリと城付きの女官が手をワキワキしながら待ち構えて居た。

そこからは…凄まじい勢いと熱意でもって……これからの準備に取り掛かられた。これでもか!と言う程お風呂では身体を磨き上げられ、お風呂から出ると香油を塗られ────仕上げにナイトドレスを着せられ、さっき通された部屋とは違う部屋に…放り込まれた。

その部屋には…大人4人が、ゆっくりと寝れる位の大きなベッドが鎮座していて、そのベッドには、薔薇の花びらが散りばめられている。

そのベッドのサイドテーブルには、ワイン?が入っていると思われるワイングラスが2つと、水が入った水差しと空のグラスが2つと……そこに不釣り合いな色をした液体が入っている…香水瓶が置かれてある。

ーうん。香水瓶アレは見なかった事にしようー

いやいやいやいや!!!それより!!!そんな事より!!え?何!?このナイトドレスは!!

長袖だけど透け透け。
ワンピースタイプだけど膝上20cm位の丈しかない透け透け。
肩紐をほどくと一気に脱げちゃう透け透け。

「ああああ───有り得ない!!!」

「ぷっ────」

「えっ!?」

私が2度目に叫んだ後、私の背後で笑う声がして振り返ると

「─っ!ハルシオン様!?」

「くくっ。何が“有り得ない”?」

「なっ─わ…分かってますよね!?」

何となく胸元とお腹を、自分の腕で隠しながらハルシオン様の方─ではなく、後ろへと下がる。

「何が?」

と、“分からない”とでも言いたげに首を傾げながら、でも、目は笑っていて、その長い足で一気に私の目の前まで詰め寄って来た。

そのままギュッと抱き締められて

「ようやく…捕まえた。」

耳元で囁かれ、背中がゾクリッと震える。

そのまま耳にキスをされた。

「今まで散々、無自覚に煽って来たんだ…覚悟は…できてるよな?」

「──え゛っ!?」

ー煽った事なんて、一度もありませんけど!?ー

とは言えなかった。ハルシオン様の目が…恐ろしい程に本気だった。“蛇に睨まれた蛙”って、こんな気持ちなのか?──と─。


そこからは、少し切羽詰まった様な表情をしたハルシオン様に、

「透け透けの服なんて、なんともなかったよね!」

と思える位に、色々と追い立てられ、揺さぶられて、乱された。逃げようとすると捕らえられて、吐息を漏らすと、それすら逃がさないと言う様に呑み込まれた。

「もうダメ!」

「もう無理!」

と泣きながら訴えても、逆に嬉しそうに微笑むだけで──

薄暗かった部屋が、窓のカーテンの隙間から光が入り込み、少し明るくなりだしたのを最後に、私の意識が途切れた。














フワフワした気持ちだけど、体が重くて動けない。

「───うん??」

目を開けると、目の前に何かがあり、が私の体に巻き付いていた。

「目が覚めたか?」

頭上から声がして、見上げると

「ハルシオンっ様!?」

と、ビックリして距離を取ろうとしたけど、ハルシオン様にガッシリと抱き締められていて、1ミリも動く事ができなかった。

それに、体中が怠くて…ヘロヘロになっている。

「大丈夫──じゃない…よな?」

「なっ!?」

「初めてなのに、無理をさせて…悪かったな」

と言いながら、優しいキスを落とす─けど

「それ、本当に悪かったって、思ってませんよね!?」

「思ってるよ。ただ、ようやくミューを本当の意味で俺のモノにできて、喜んでいるだけだが…な。」

と、本当に嬉しそうに微笑んで、また私にキスをする。

「───んんっ!?」

そのキスがまた深くなって来て

「ちょっ!落ち着いて下さい!私、無理です!死にます!」

「大丈夫。俺に任せろ。」



ー何を任せろと!?ー





勿論、蛙が蛇に敵う筈はなく─











次に、ミューが離宮から姿を表したのは、その翌日のお昼だった。


















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