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第四章ー私の還る場所ー
私の還る場所
しおりを挟む『外堀は埋まってる。逃げられないし、逃がさないからな。』
魔導師長ーもといーハルシオン様は、私を抱き締めながらそう言った。
もう、さっきからどうしたら良いのか分からない。魔どーハルシオン様が、私の事を本気で殺しに掛かって来ているのだけは判る。座っていて良かった…。
と言うか…兄上って…確か…国王陛下だったよね?"ノリノリ"って何?第二騎士団長の一族が総出でって何?
「魔ど…ハルシオン様、できれば…ちょっと離れて…「離さないよ?このままでも話はできるからね」…ですね…。」
ー否定するのが早くないですか?本当に、そのうち死んじゃうよ?ー
でも、ドキドキするけど…この腕の中って、安心するんだよね…。と、無意識にハルシオン様の胸に自分の頬を擦り寄せる。
「はぁぁぁー」
ハルシオン様が、私の頭上で盛大に溜め息を吐く。
「?」
どうした?と思いもう一度上を向けば…
噛み付くようなキスをされたー。
ーもう駄目だ…死ねるっー
唇を離された時には…グッタリでした。
これ、本当にあの魔導師長なの!?自分に言い寄る令嬢達を"コバエ"呼ばわりしてませんでしたか?今も、グッタリした私を嬉そうな顔をして抱き締めている。
ー糖分…多過ぎじゃないですか?もう、お腹いっぱいですー
抵抗する気力も体力も無いから、そのままハルシオン様に身を任せる。
ー本当に色々あったなぁ…ー
アルム王国を出立する前は、琢磨や雪が居た。心が落ち着かなくて…これからずっとこんな生活が続くのか…と思っていた。まぁ、前世の記憶が戻ったお陰で、ミューとして生きていけるようにはなったんだろうけど。
そっと目を閉じる。
魔物と対峙した時、もう駄目だと思った。あの時に私を支えてくれたハルシオン様。それと同じ温もりがここにある。私のすぐ側にある。
ー何て幸せな事なんだろうー
「ふふっ…」
「ミュー?」
無意識に、口から笑い声が出た。そんな私を不思議そうにハルシオン様が声を掛けてくるが、何だか…目蓋が重たくなってきて開けられない。
「…寝てしまった?」
ー起きて…ます…と言いたいけど…このままここで寝てしまいたいなぁー
「はぁ…これは、喜ぶべきか?」
ハルシオン様が何やら呟いているけど…よく分からない。
「…ミュー…お帰り。今は、ゆっくり休め。」
私の頭にそっとキスを落とす。
その感覚を最後に、私の意識が途切れた。
「…んー…」
フッと意識が浮上する。
「ん?」
ボーッとする頭で考える。
ーここは何処だっけ?ー
あれ?魔導師長と話してなかったっけ?あれ?ひょっとして、あのまま寝ちゃった??いつの間にベッドに…
「ーっ!??」
ハッとして、一気に覚醒する。
「おはよう」
目の前に…魔導師長が居ます。
「へっ?何で…魔導師長が??」
「俺の部屋のベッドだからだろうな」
「お…俺…の?」
ーひぃぃっっー
どうやら、私は魔導師長のベッドで寝ていたらしい。しかも…朝までグッスリと…。
色々ヤバくない??いや、大丈夫なのかな?私が帰って来てる事は誰も知らない筈…だよね?
「お腹は空いてないか?取り敢えず、さっきティアナに2人分の朝食を持って来るように頼んだ。」
ー詰んだー
魔導師長は、それはそれは黒く輝く笑顔で言いました。それ、態とだよね?本当に、外堀埋まってるよね?逃げられないよね?
ー逃げないけどー
「それと…」
と、魔導師長が私の後頭部に手を回し…またキスをされた。
「なっ…何で!?あ…朝だし!」
本当に朝から止めて欲しい。
「名前を間違えたらすると言った筈だけど?それに、朝じゃなかったら良いのか?」
「屁理屈!!それと、名前の事、有効なんですか!?本当に勘弁して下さい!」
「間違えなかったら良いだけだろう?」
と、首を傾げて満面の笑顔で言って来る。
「名前を忘れてる訳じゃないですからね?恥ずかしいだけですからね?分かりますか?」
駄目だー。今日もハルシオン様が私を殺しに掛かっている。
「あのですね?私、本当にこう言う事に慣れてないんです!少し…手加減して頂けると嬉しいです!」
「手加減してるけど?」
「はいー!?」
こっちはビックリなのに、ハルシオン様はキョトンとしている。その顔は可愛いけど、これで手加減してる…だと!?朝から本当に心臓に悪い。
そっと、ハルシオン様の手を握る。
「あの…逃げるつもりなんて無いので…もっと手加減して下さい…お願いします。」
「……くっ…」
ハルシオン様は、私が掴んでいない方の手で自身の口元を抑えながら呻いた。
「?」
何を呻いているか分からないけど、とにかく、私が言いたい事はハッキリ伝えよう。
「ハルシオン様。私はあなたから逃げる事はしません。逆にですが…また私に何かあったとしても、私は必ずあなたの元に還って来たいと思っています。」
しっかりとハルシオン様の目を見据える。
「そう思ってる位に、私は…ハルシオン様の事が好きです。」
ハルシオン様は、目を大きく見開いた後フワリと笑って、触れるだけの優しいキスを私に落とした。
これから先も、私の還って来る場所はずっとハルシオン様でありたいと願った。
それから、朝食を持って来たティアナに生暖かい視線を送られたとか、第二騎士団長様一族の団結が凄まじかったとか、ノリノリの国王陛下が無敵だったのは、また別のお話。
*これにて本編は完結です。2ヶ月と少しですが、読んで下さった方、ありがとうございました。番外編を1話書きました。読んでもらえたら嬉しいです。*
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