初恋の還る路

みん

文字の大きさ
上 下
91 / 105
第四章ー私の還る場所ー

ハルシオンのお願いans③

しおりを挟む
「ミューと初めて会った時、その目が印象的だった。勿論、10歳の子供だったから、恋愛的な意味は全く無かったけどね。」

くっつけていた額を離し、流れる涙をそっと払う。

「ミューは気付いてなかったと思うけど、俺、王都の街中でミシュエルリーナ嬢を見掛けた事があるんだ。その時に、その目がまた印象的に映ってね。それからずっと気になっていた。だから、の時にミシュエルリーナ嬢に近付いたんだ。」

ミューは、その事に驚いたのか、パチパチと目を瞬かせた。その度に流れる涙は…やっぱり綺麗だなと思う。

「でも…それは…ミシュエルリーナ嬢の瞳に惹かれたのか…ミューの瞳に似ていたからなのか…今となっては、正直分からない。分からないけど…お前がどんな容姿をしていようと、俺はお前を見付けてまた好きになると思う。いや…好きになる自信がある。」

「魔導…しちょ…」

俺を呼び掛けて、少し俯きまた更に泣き出す。

「俺の名前…忘れたか?」

ミューの顎に手をあて、俯いた顔をクイッと持ち上げる。

顔を赤くして、泣いている。笑って欲しいのに…泣いているミューも、愛おしいと思う。

「ハ…ハルシオン…様です!!」

「…正解だ…」

そう言って、ミューの頬にキスを落とす。
勿論、ミューはまた固まった。

本当に可愛い。どうしたら良い?これは、もう俺の処に落ちたと思って良いのだろうか?嫌われては無いと思うが…。そう思いながら、もう一度ミューの頬にキスをすると、涙がピタリと止まった。

「なっ…なっ…で…2回もっ」

ミューが、キスをした頬に手をあて、真っ赤になって慌てだした。

「ん?何でと言われても…本当は…」

自分の頬に手を当てているミューの手の上に、俺の手を重ね、親指でそっとミュー唇をなぞる。

「本当は、にしたいんだけどね」

と、耳元で囁く。ミューが、俺のこの声に弱いのを知っている。どんな反応をするのかも知っている。俺しか知らないミュー。そう思うと、自然と笑みがこぼれる。

「俺に…落ちて来い。」

ミューが、ヒュッと息を飲んだ。それでも、お互い視線を反らさず合わせたまま。

「…もう…とっくの前に…落ちてますよ…」

「…え?」

今度は俺が驚く番だった。

「多分…私もの時には…捕らわれ掛けていたんだと…思います。でも、魔導師長が好意を寄せているのは"ミシュエルリーナ"だと思っていたので…だから……っ!?」

気付いたら、ミューの唇にキスをしていた。触れるだけの…ほんの一瞬だけのキス。ぶつかった拍子にしちゃった!よりも一瞬の。それでも、ミューには大事だったようだ。

「なっ…なっ…!?」

口に手をあてながら焦りまくっている。

本当にどうしようか…今のミューの言葉で、最後の箍が外れてしまった気がする。あんなキスじゃ全然足りない。
焦ってるミューを無視して、「もう一度…」と言って、ミューの手を掴み口元から外し、軽いキスを繰り返す。

掴んでいるミューの手は、最初は強ばったように力んでいたが、フッと力が抜けた様に重みを増した。

「?」

不思議に思い、キスを止めてミューを見やると、顔を真っ赤にしてハフハフと息をしていた。
「もー…無理っ…無理で…す。許して下さい…死にます!」

ーだから、それ、逆効果だからなー

軽いキスだけで息ができないとか…死ぬとか…本当に可愛いしかないな。本当に、俺もヤバいな…。

掴んでいた手を離し、手を離されてホッとしたようなミューを、今度はギュッと抱き締めた。

「ふぇっ!?」

いつもの変な声を出す。それすらも愛おしいとか…これは、本当に俺なのか?と思ってしまう。

「俺の名前…間違える度にキスをしようか?」

「ーっ!?無理です!死にますからね!?」

必死の形相で叫んでから、その顔を隠すように俺の胸に自分の顔をギュッと押し付けて来た。

ーだから!それ!!ー

本当に、無自覚だからたちが悪い。

俺の胸に埋めているミューの頭の上に俺の頬を乗せ、長い溜め息を吐く。

「本当に、俺の忍耐力を誉めて欲しい…お前…覚悟しておけよ?」

「何の覚悟ですか!?そもそも、忍耐力って何っ!?」

顔を隠したままもがいている。

「とにかく、ミューは恋愛結婚がしたいんだろう?ならば、俺と恋愛すれば良い。もう、俺に落ちてるんだろう?それに…もノリノリだしな。」

「兄…上…?」

ミューが、ピクリと肩を震わせて反応する。

「ミューがウォルテライト女神様の元に居た一週間、来なくていいと言われたにも関わらず、俺が毎日そこに足を向けていた事を知っている。兄上は…喜んでいる。意味、解る?」

ミューが、バッと顔を上げて俺を見上げる。

「なっ…ちょっ…えー!?」

そんな慌てるミューを見て、ついつい意地悪にニヤケそうになる。いや、実際ニヤケているんだろう。

「おそらく、ギリューもティアナもジルベルトも気付いてる。あぁ、ジルベルトに至っては、多分一族総出で動いているだろうな。」

ーあの一族は、"娘"と"妹"を得る為に必死だろうー

「外堀は埋まってる。逃げられないし、逃がさないからな。」

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

異世界からしか開きません

さよ
恋愛
実家に帰省した加七子は家ごと変な空間へ飛ばされた。 開かなかった玄関から現れたボロボロの男の子を助けようとするが、いつの間にか姿が消えている。 こちらからは開けられないのに、なぜか異世界からは開く玄関のドア。そんな家で加七子はひとり暮らしていたのだが……。 異世界に行ったら成長した男の子と再開した。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

処理中です...