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第四章ー私の還る場所ー
ミューのお願いans①
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ー私のお腹に腕が巻き付いている…だと!?ー
ちょっと…軽くパニクっている。
その腕から逃れようと身動ぎすると、更にその腕に力が入りギュッと抱き込まれた。
その腕の主は何も言わない。声を出さなくても誰だか判る。
心臓が煩い位にドキドキしているのに、ここに居て安心している自分も居る。ふと、お腹に回されたその腕を見ると、微かに震えているのが分かった。
この腕の中から逃れるのを諦めて、その震えている腕にそっと私の手を添えて、トントントンと優しく叩いた。
ー大丈夫。私はここに居ますー
そんな意味を込めて。
すると、彼はピクリと反応した後、深く息を吐きながら自身の額を私の右肩に乗せて…
「ミュー…お帰り…」
「っ!?」
ーくぅっっ…耳元でその声は止めてくださいぃぃっっ!!足がまたプルプルになるからね!?本当に止めて頂きたい!!ー
顔が赤くなるのは止められない。震えそうになる足には、グッと力を入れて耐える。
「…ふっ…」
「ーっ!!嗤ってます!?ひょっとして、態とですかっ!?」
思わず彼の方へと顔を向けてしまった。
そう…今の彼の顔は、私の右肩にあるんです。そう…近いんです!
黒曜石の様に綺麗な瞳が間近にあった。
その瞳を見る度に、吸い込まれそうになる。
ーこの瞳も…好きだなぁ…ー
そんな事をぼんやりした気持ちで思っていると、今度は魔導師長が固まった。
それからゆっくりと私を抱き込んでいた右手を離し、そのまま私の左頬に手を添えて
「ミューの瞳が…」
あ、そうだった。忘れてた。
私はそっと魔導師長から後ろに下がり、魔導師長と少し距離をとった。
「魔導師長、色々とご迷惑をお掛けしてすみませんでした。この瞳の事も含めて…約束通り、お話させて頂きますので、お時間いただけますか?」
敢えて魔導師長の顔を見ずに、頭を下げたままで。
「勿論。ミューも元気そうだし、今日はまだ時間が早い。今すぐに帰って話を聞かせてもらうし、俺のお願いも聞いてもらう。」
「えっ!?今日?と言うか今からっ!?」
それ、すぐ過ぎない?と、ビックリして顔を上げると、距離を縮めていた魔導師長に腰に手を回され、サクッと魔法陣を展開させてキリアンの森を後にした。
はい、転移の魔法陣を展開させ、やって来たのは…魔導師長の自室でした。
ー何故だ!?ー
誰の目に触れる事無く魔導師長の自室に転移して来たので、私が瑠璃宮殿に帰って来たと言う事を知っているのは魔導師長だけと言う事だ。
しかも…防音の魔法が掛けられている。
色んな意味で心臓が大変な事になっているが、確かに、誰かに聞かれたらヤバいのはヤバい。防音の魔法はそのままで良いだろうーと、自分に言い聞かせた。
魔導師長は、居室の2人用の椅子に私を座らせると、私と自分用の紅茶を用意し、躊躇う事なく私の横に腰を下ろした。
『えっ!?何で隣!?』
の意を込めて魔導師長を見上げると
「ん?」
と、首を傾げながら私を見てくる。
ーくっそぅっ…私がその顔に弱いの…絶対分かってるよね!?ー
心の中で地団駄を踏む。
それでもと思い、せめてもの抵抗として、魔導師長とは逆の方に少し体を移動させた私を、呆れるわけではなく、優しく目で見つめていた。
「えっと…先ずは…どこから話しましょうか?」
巡礼中も、色々考えた。どこから話せば分かりやすいか?やっぱり、私の前世から話した方が良いよね…。と、口元に手をあて、俯き加減で少し思案していると
「…ミューは…タクマ殿の事が…好き…だったのか?」
「え?」
パッと顔を上げて魔導師長を見やる。
茶化す訳でも怒っている訳でも無く、ただ感情を圧し殺すような瞳を私に向けていた。
私は、その瞳から視線を反らせ、自分の太ももの上に置いてある両手を見つめた。
魔導師長には…多分、あの時の会話を聞かれている筈だ。
「"好きだったのか?"と訊かれれば…答は…"はい"なんでしょうね…」
と言うと、魔導師長がヒュッと息を飲んだのが分かった。私は、自分の両手に向けていた視線を魔導師長に向け、その目をしっかりと見据えて言った。
「私…前世の記憶があるんです。」
「は?前…世?」
ーあぁ…このキョトン顔も好き…じゃなくてー
「何と言うか…前世の記憶を思い出したのも、今回の召還であの2人に会ってからなんですけどね。」
私はまた自分の両手に視線を落とし、前世ー棚橋美幸ーだった時の話をした。
母の記憶はなく、父に育てられ、父を亡くしてからは祖父母に育てられた事。高校に入り雪と琢磨に出会い仲良くなり、琢磨に告白されて付き合う事になったけど、琢磨は美幸ではなく、雪と付き合っていると言う噂があった事。
そしてー
「私も…琢磨の事を信じていたなら、きちんと話をすれば良かったんです。でも、私は…逃げた…んでしょうね。2人を…試してしまったんです。2人きりになったら…どうするんだろうって…」
ギュッと両手を握る
「私が最期に目にしたのは…雪と琢磨が…キスをしている…ところでした。」
ちょっと…軽くパニクっている。
その腕から逃れようと身動ぎすると、更にその腕に力が入りギュッと抱き込まれた。
その腕の主は何も言わない。声を出さなくても誰だか判る。
心臓が煩い位にドキドキしているのに、ここに居て安心している自分も居る。ふと、お腹に回されたその腕を見ると、微かに震えているのが分かった。
この腕の中から逃れるのを諦めて、その震えている腕にそっと私の手を添えて、トントントンと優しく叩いた。
ー大丈夫。私はここに居ますー
そんな意味を込めて。
すると、彼はピクリと反応した後、深く息を吐きながら自身の額を私の右肩に乗せて…
「ミュー…お帰り…」
「っ!?」
ーくぅっっ…耳元でその声は止めてくださいぃぃっっ!!足がまたプルプルになるからね!?本当に止めて頂きたい!!ー
顔が赤くなるのは止められない。震えそうになる足には、グッと力を入れて耐える。
「…ふっ…」
「ーっ!!嗤ってます!?ひょっとして、態とですかっ!?」
思わず彼の方へと顔を向けてしまった。
そう…今の彼の顔は、私の右肩にあるんです。そう…近いんです!
黒曜石の様に綺麗な瞳が間近にあった。
その瞳を見る度に、吸い込まれそうになる。
ーこの瞳も…好きだなぁ…ー
そんな事をぼんやりした気持ちで思っていると、今度は魔導師長が固まった。
それからゆっくりと私を抱き込んでいた右手を離し、そのまま私の左頬に手を添えて
「ミューの瞳が…」
あ、そうだった。忘れてた。
私はそっと魔導師長から後ろに下がり、魔導師長と少し距離をとった。
「魔導師長、色々とご迷惑をお掛けしてすみませんでした。この瞳の事も含めて…約束通り、お話させて頂きますので、お時間いただけますか?」
敢えて魔導師長の顔を見ずに、頭を下げたままで。
「勿論。ミューも元気そうだし、今日はまだ時間が早い。今すぐに帰って話を聞かせてもらうし、俺のお願いも聞いてもらう。」
「えっ!?今日?と言うか今からっ!?」
それ、すぐ過ぎない?と、ビックリして顔を上げると、距離を縮めていた魔導師長に腰に手を回され、サクッと魔法陣を展開させてキリアンの森を後にした。
はい、転移の魔法陣を展開させ、やって来たのは…魔導師長の自室でした。
ー何故だ!?ー
誰の目に触れる事無く魔導師長の自室に転移して来たので、私が瑠璃宮殿に帰って来たと言う事を知っているのは魔導師長だけと言う事だ。
しかも…防音の魔法が掛けられている。
色んな意味で心臓が大変な事になっているが、確かに、誰かに聞かれたらヤバいのはヤバい。防音の魔法はそのままで良いだろうーと、自分に言い聞かせた。
魔導師長は、居室の2人用の椅子に私を座らせると、私と自分用の紅茶を用意し、躊躇う事なく私の横に腰を下ろした。
『えっ!?何で隣!?』
の意を込めて魔導師長を見上げると
「ん?」
と、首を傾げながら私を見てくる。
ーくっそぅっ…私がその顔に弱いの…絶対分かってるよね!?ー
心の中で地団駄を踏む。
それでもと思い、せめてもの抵抗として、魔導師長とは逆の方に少し体を移動させた私を、呆れるわけではなく、優しく目で見つめていた。
「えっと…先ずは…どこから話しましょうか?」
巡礼中も、色々考えた。どこから話せば分かりやすいか?やっぱり、私の前世から話した方が良いよね…。と、口元に手をあて、俯き加減で少し思案していると
「…ミューは…タクマ殿の事が…好き…だったのか?」
「え?」
パッと顔を上げて魔導師長を見やる。
茶化す訳でも怒っている訳でも無く、ただ感情を圧し殺すような瞳を私に向けていた。
私は、その瞳から視線を反らせ、自分の太ももの上に置いてある両手を見つめた。
魔導師長には…多分、あの時の会話を聞かれている筈だ。
「"好きだったのか?"と訊かれれば…答は…"はい"なんでしょうね…」
と言うと、魔導師長がヒュッと息を飲んだのが分かった。私は、自分の両手に向けていた視線を魔導師長に向け、その目をしっかりと見据えて言った。
「私…前世の記憶があるんです。」
「は?前…世?」
ーあぁ…このキョトン顔も好き…じゃなくてー
「何と言うか…前世の記憶を思い出したのも、今回の召還であの2人に会ってからなんですけどね。」
私はまた自分の両手に視線を落とし、前世ー棚橋美幸ーだった時の話をした。
母の記憶はなく、父に育てられ、父を亡くしてからは祖父母に育てられた事。高校に入り雪と琢磨に出会い仲良くなり、琢磨に告白されて付き合う事になったけど、琢磨は美幸ではなく、雪と付き合っていると言う噂があった事。
そしてー
「私も…琢磨の事を信じていたなら、きちんと話をすれば良かったんです。でも、私は…逃げた…んでしょうね。2人を…試してしまったんです。2人きりになったら…どうするんだろうって…」
ギュッと両手を握る
「私が最期に目にしたのは…雪と琢磨が…キスをしている…ところでした。」
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