初恋の還る路

みん

文字の大きさ
上 下
77 / 105
第三章ー浄化巡礼の旅ー

魔導師、魔法使い集う

しおりを挟む
「魔導師長様、ありがとうございます。」

雪は、誰もが見惚れてしまう様な笑顔で魔導師長に礼を言う。やっぱり、可愛いものは可愛い…ではなくて…これ、多分魔導師長の思う壺に…嵌まったよね…。

「ルドヴィル様、私…我が儘になると思って言えなかったのですが…魔導師長様の言うように、"歪み"を修正する時に側に…私の近くに一緒に召還されて来た琢磨が居てくれると、安心できると思うんです。」

両手を胸の前で組み、第二王子に懇願するように語る雪。
聖女様が願っているのだ…第二王子も無下にはできないだろう。

第二王子は、暫く逡巡した後躊躇いがちに口を開いた。

「ユキ様がそう願うなら…結界の中に入るのは許可しますが、ユキ様の視界に入らない場所で待機してもらいます。それでも良いですか?」

「はい!ルドヴィル様、ありがとうございます!」

花が綻ぶように笑う雪。第二王子は困ったなぁ…みたいに、でも、キラキラ笑顔を忘れない。魔導師長は…黒く微笑んでおります。思惑通りに事が進んだんだろう。

ーありがとうございますー

心の中でお礼をしておく。

「それで、結界を張るのは、10の国から各一名ずつとなっているが…アルムからはどちらが?」

「私が出る。結界に関しては私の方が得意としているからな。」

「では、叔父上、申し訳ありませんが、タクマ殿の事も気に留めて頂けますか?」

「あぁ、それは承知の上だ。もともと、私が言い出した事だからな。」

第二王子と魔導師長の会話はスムーズに進む。その横で雪はホッとしたように2人の話を聞いている。そして…チラリと琢磨を覗き見る。

何とも言えない顔…してるなぁ…。聖女様に懇願され、第二王子が許可したなら、リーデンブルク女神の加護を持っていると言っても、琢磨は騎士見習いでしかない。嫌だとは言えないよね。琢磨には悪いけど…こればっかりは我慢してもらうしかない。



「予定では、一ヶ月後の満月の日に"歪みの地"に向かいます。最後迄気を抜かずに頑張りましょう。」

最後に第二王子がそう締め括り、各々が宛がわれた部屋に下がって行き、応接室には魔導師長と私だけになった。



「魔導師長…思惑通りに事が進みましたね?」

「あぁ…。本当に、予想通りの反応をしてくれて良かったよ。」

雪があんな可愛い笑顔を魔導師長に向けたのに、魔導師長は何も思わないのだろうか?まぁ…魔導師長と第二騎士団長とギリューに至っては…なんだろうけど。

「とにかく、このまま何事もなく、巡礼の旅が終わると良いですね。」

「そうだな…。それで、無事終わってアルムに帰ったら…のお願い事をしっかり全うしてもらうからな。」

ーくぅっー

ここで"俺"を出すの、卑怯じゃないですか!?どうしても意識してしまう。魔導師長ではなく、ハルシオン様個人から言われていると…。意識し過ぎて…恥ずかしくなって、どう対応して良いか分からなくなる。

「わ…分かってますよ!!」

そっぽを向いて返事をする。すると、私の後ろに居る魔導師長が笑った気配がした。









最後の国である10ヶ国目も、特に問題なく浄化は進んだ。ウォルテライト女神様が懸念していた事ー魔物がに入り込んだかもしれないーと言う事は、無かったかもしれないと思う程順調だった。


そして、明日は満月の日。いよいよ"歪みの地"に足を踏み入れる日がやって来た。

"歪みの地" は、この大陸の中心にある。大きな大きな、それこそ、これは海ですか?と聞きたくなる程の大きな湖の中心部に小さな島があり、そこに"歪み"がある。普段であれば、"歪み"そこに行こうとしても行けないと言う不思議な場所。"歪み"そこに辿り着けるのは、リーデンブルク女神様の神託がおり、聖女が召還され大陸の穢れを浄化した後の満月の日だけである。その地に行く前日、10ヶ国の魔導師や魔法使いが一堂に会した。

私は、無詠唱でそっと自身の目に掛けた魔法を解除し、魔導師達を見渡した。
流石はその国を代表して来る者達。魔力の力は大きい。色んな色をしている。その中でも、我がアルム王国の魔導師長は一番魔力が大きいだろう。
その結界を張るべく集まった10人は、これまでの巡礼の旅で、その国で共に巡礼に回った魔導師達、魔法使い達の1人であった。

ーあれ?ー

ある1人の魔導師に目が留まる。

ーあんな魔導師?魔法使い?巡礼の時に居ただろうか?ー

容姿は簡単に言うと地球で言うアジア系。色黒な肌に、肩までの黒い髪。赤い瞳なので魔力の色も赤。魔導師長と同じ位…30歳位だろうか?その魔導師長と何やら話していて…どうやら彼は魔導師長に必死に謝っているようだ。何をしたのやら…。とにかく、魔導師長の知り合いなのだろう。

「ミューさん」

「タクマ様、何ですか?」

横に琢磨が居た事を忘れていた。

「いよいよ、明日…なんですね。」

「そうですね…」

本当に、いよいよだ…。明日で…もう…。

「アルムに帰ったら、一緒に王都の街に行って下さいね。」

そう言いながら、琢磨が私に笑いかける。

「…はい…帰ったら…。」

上手く笑えている自信がない。フードを被っていて良かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー

夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。 成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。 そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。 虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。 ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。 大人描写のある回には★をつけます。

魔法使いの恋

みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。 そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。 ❋モブシリーズの子供世代の話になります❋ ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...