初恋の還る路

みん

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第三章ー浄化巡礼の旅ー

捕らわれる

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『もう、部屋に戻るのか?』


私の耳元で、色気を含んだ声でそう問われた。しかも、壁ドン状態のままである。

「……」

心臓が壊れる!と思う位にドキドキと煩くて痛い位だ。立っているのがやっとの状態である。

「は…い。も戻りま…す。」

やっとの思いで返事をする。

ーダ…ダメだ…足が震えて来た!!が…頑張れ私!!ー

「それは…残念だ…。」

私の右側の耳に、魔導師長の唇が軽く触れる位の距離でそう囁き、扉と私の右手から手を離し、魔導師長が私から離れて行く。

ーこれ…ダメなやつ!!ー

魔導師長が離れた事にホッとしたせいか、先程の囁きの威力のせいか、足が立つ事を放棄したかの様に、私はその場で膝から崩れ落ちた。

「えっ!?ミュー!?」

私から離れていた魔導師長だが、私がへたりこんだのを見ると、慌ててまた私の所へ戻ってきた。

「どうした?大丈夫か?」

ーどうした?じゃない!あなたのせいで、こうなったんです!!ー

とは素直に口には出せないので、抗議の意を込めて魔導師長を睨み付ける。

すると、魔導師長はまた以前の様に少し固まった後、左手で顔を覆い

「はぁ……くっそ…これ…無自覚なんだよなぁ…」

と、よく聞こえなかったが呻いていた。暫くブツブツ呻いた後、気を取り戻したのか、また私の方へと視線を向ける。

「急にへたりこむからビックリするだろう?大丈夫か?」

ーだっ誰のせいだと!!ー

とは言えないけど…

「腰が…腰が抜けて…立てないんです!!」

そう言った後に気付く…恥ずかしくて死ねるかもしれない。顔が真っ赤になってる自覚はあるし、半泣きになってるから酷い顔になっている自信もある。あるのに…

魔導師長はキョトンとした後、私を見たまま目を細めて嬉しそうに微笑んだ。

ーあ、この笑顔…好きだなー

自然とそう思った。

私は、魔導師長…ハルシオン様が好きだ。気付かなかったけど、の時にはもう…捕らわれ掛けていたんだろう。ミューわたしではなく、ミシュエルリーナに微笑む事に嫉妬して胸が痛かったんだ。今、その笑顔が目の前にある。それがとても嬉しい。嬉しいけど…

きっと、魔導師長はミシュエルリーナの死を乗り越えて前に進んでいる。次は誰にその笑顔を向けるのだろうか?そう思うと、また胸がキュッとなる。が来たら、魔導師長の幸せを喜べるような自分になれるだろうか?違う。そうなれる自分になろう。とにかく、今は…一緒に居られる間だけでも魔導師長との時間とこの気持ちを大切していこう。

「暴れるなよ」

「暴れる?何を…ひゃぁっ!?」

壁ドンの次はお姫様抱っこでした。王道過ぎやしませんか!?コレ、何かのフラグですか?私、やっぱり今世も18歳で死ぬかもしれません!!

「ははっ…やっぱりミューはミューだな。"ひゃぁっ"て…はははっ…」

「失礼な!!じゃなくて、魔導師長、おろして下さい!たっ多分、私もう立てて歩けると思います!!」

「はいはい、多分まだ立てないし歩けもしないと思うから、素直に抱っこされてなさい。」

「……」

あまりにも嬉しそうに笑うから、それ以上は何も言えなくて、そのままおとなしく私に宛がわれた客室まで運んでもらった。











遂に、大陸最後の10ヶ国目に入った。あれ以来、ウォルテライト女神様からのコンタクトもなく、魔物の影も目にする事はなかった。ただただひたすらに、雪による浄化と乙女ゲームヨロシクな毎日だった。

「叔父上、ミュー、"歪みの地"での事で話がしたいのだが、今から時間はあるだろうか?」

その日の巡礼が終わり、その日の宿泊場の邸に入り、各々宛がわれた部屋に下がろうとした時に、第二王子に声を掛けられた。勿論、魔導師長も私も是と答え、部屋を空けてもらったと言い、その邸の応接室に入って行った。
そこには、琢磨と雪も居た。




「"歪みの地"での事ですが、前例の通り、10大陸の結界を張れる魔導師や魔法使い10人で"歪み"を囲み、聖女であるユキ様に"歪み"を修正して頂く。それで、叔父上の提案されたタクマ殿の事ですが…。確かに、タクマ殿はリーデンブルク女神様の加護を持っています。ですが、タクマ殿は身体能力の特化は認めますが、浄化の能力はありません。なので、ユキ様が修正をされている間、近くにタクマ様をと言う提案は…必要ないように思えます。」

第二王子の言う事は正しい。"歪み"の修正が最優先であるならば、いくらリーデンブルク女神の加護を持った琢磨であっても、琢磨はには必要の無い人間なのだ。に必要の無い者を置いた時のデメリットが大きい。ならば、不安要素は取り除くべきなのだ。しかしー

「確かに、ルドヴィル王子の言う通りだな。ただ私は、今までの聖女様の様子から、側に同郷であり同じリーデンブルク女神様の加護を持つタクマ殿が、聖女様の側に居れば、聖女様も心強いかと思ってね。今回、異例尽くしではあるが、聖女様と共に召還されたタクマ殿だ。その意味が、2人一緒だと更に良い方へと向かうと言う事なのか…と、思ってしまったんだ。」

ーあ、これ…こんな言い方したらー

「魔導師長様、ありがとうございます。」

ーあぁ…やっぱりー


魔導師長の言葉に声を上げたのは…雪だった。
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