初恋の還る路

みん

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第二章

琢磨のお願い

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キリアンの森に行ってから二週間。そして…浄化巡礼の旅の出立まで後10日。
私は一人、第二王子と魔導師長から許可を得て、召還の間へとやって来た。

乳白色の石畳の上を歩き、琢磨と雪が召還された時に魔法陣が顕れた場所に立つ。召還の間付近に誰も居ない事を確かめ、自身に掛けていた魔力の色の変化の魔法を解き、を解放させた。髪は銀色のままだが、瞳と魔力の色が淡いラベンダー色になる。魔力の色を変えていると、どうしても魔力の力も量も少なく、小さくなってしまうのだ。今から使う魔法を確実に使いこなす為に、本来の色に戻ったのだ。

2人が召還された時に展開された魔法陣を、ここに再現させる魔法だ。実際に魔法陣を展開させる訳ではない。ここで使われた魔法の痕跡を辿り、それらを集めて繋げて行くのだ。召還の時にチラリと見ただけだったが、かなり複雑な紋様だった。再現するのにも一苦労するだろう。それでも、最後に…覚えた"引っ掛かり"が必要なピースなのだ。どれだけ時間が掛かっても、再現させなければいけないのだ。

目を閉じ深呼吸を繰り返すー

少しずつ自分の魔力を練り、魔法陣の痕跡を辿って行くー

痕跡さえも…綺麗だった。金色の輝きを失っていなかった。まるで、私が来る事を待っていたかの様に残っていたー









「やっぱり…」

どれ位時間が経ったか分からないが、魔法陣の再現ができ、"引っ掛かり"の箇所を目と指で追う。最後に必要だったピースだ。あの時には分からなかったが、今なら分かる紋様…。この紋様を魔法陣に組み込めば…

私は急ぎ、再現したその魔法陣を記録石に刻み込み、瞳と魔力の色を青色に変えてから召還の間を後にした。






「ミューさん!」

出立まで後5日と言う日。巡礼の旅についての最終確認をする為に、瑠璃宮殿から第二王子の執務室がある王宮へ向かう途中、王宮へ足を踏み入れた時、私が向かおうとした廊下とは反対側から私の名前を呼ぶ声がした。振り返らずとも、誰の声なのか分かる。無視をすることもできないので、体ごと振り返り軽く礼をとる。

「タクマ様、お久し振りです。」

「はい!本当にお久し振りです。えっと…今から何処に?」

「私は、今から第二王子の執務室に行くところです。タクマ様は…訓練からのお帰りですか?」

「今日の訓練は休みなんです。今朝、雪と皇太子妃殿下からお茶に誘われて…今から朱殷宮殿に帰ろうと思ったら、ミューさんを見掛けて、つい声を掛けてしまいました。すみません。」

最初は笑顔だった琢磨だが、王宮内で大きな声で私を呼び止めてしまった事に気付き、申し訳無さそうな顔をして謝って来た。

ー本当に、25歳とは思えない…可愛さだよね?ショボンとした犬の耳みたいなのが見えるわー

「ふふっ…。謝る必要なんてないですよ?声を掛けて頂き、ありがとうございます。それに…私の方こそ、謝らなければなりません。出立間際にこちらの都合で、タクマ様の魔法の指導ができなくなり、その上、相談もなく指導者を代えてしまって、申し訳ありませんでした。」

魔導師長は私の願い通り、すぐに琢磨の指導者を私からティアナに変更してくれたのだ。その際、魔導師長が琢磨に説明し、謝ってくれてはいたのだが、私からも直接謝らなければと思っていたので、声を掛けられて丁度良かったのかもしれない。

「あ、いえ。それこそ気にしないで下さい。ミューさんが忙しいって事は知ってましたから。逆に、忙しい中、指導してくれて申し訳無かったなと…。そのー、後5日で出立ですね。巡礼の旅の時は、また宜しくお願いします。」

「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」

お互い軽く頭を下げる。

「それでは、これで失礼しまー」

「あの、ミューさん!」

別れの挨拶をしようとしたところ、もう一度琢磨に呼び止められた。

「あの…巡礼の旅が終わって…またアルム王国ここに帰って来たら…俺に時間をくれませんか?」

「え?」

「俺、ミューさんに…聞いて欲しい事があるんです。だから、俺に少しでも良いので、時間を作ってくれませんか?お願いします。」



「…駄目…ですか?」

少し震えるような声で問われ、ハッとする。

「あ、すみません。その、ちょっとビックリしただけで…。えっと…前にも言ってましたね?その時に王都の町に行くのも…いいかもしれませんね?」

思ってもいないクセに、口から言葉がするすると出て来る。

「あ、ありがとうございます!」

途端、琢磨が嬉しそうな顔をしながらお礼を口にする。

、忘れないで下さいね。それじゃあ、これで失礼します。」

そう言って私に軽く一礼し、琢磨は朱殷宮殿の方に走って行った。

忘れないで下さいねー

きっと、何があっても忘れる事はないだろう。軽く目を閉じて、ゆっくり息を吐き心を落ち着かせる。スッと気持ちを切り替えて、私も第二王子の執務室へと歩みを進めた。






*この話で第二章終わりです。明日から閑話を一話挟んで第三章に入ります。引き続き、宜しくお願いします*
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