68 / 105
第二章
琢磨のお願い
しおりを挟む
キリアンの森に行ってから二週間。そして…浄化巡礼の旅の出立まで後10日。
私は一人、第二王子と魔導師長から許可を得て、召還の間へとやって来た。
乳白色の石畳の上を歩き、琢磨と雪が召還された時に魔法陣が顕れた場所に立つ。召還の間付近に誰も居ない事を確かめ、自身に掛けていた魔力の色の変化の魔法を解き、本来の色を解放させた。髪は銀色のままだが、瞳と魔力の色が淡いラベンダー色になる。魔力の色を変えていると、どうしても魔力の力も量も少なく、小さくなってしまうのだ。今から使う魔法を確実に使いこなす為に、本来の色に戻ったのだ。
2人が召還された時に展開された魔法陣を、ここに再現させる魔法だ。実際に魔法陣を展開させる訳ではない。ここで使われた魔法の痕跡を辿り、それらを集めて繋げて行くのだ。召還の時にチラリと見ただけだったが、かなり複雑な紋様だった。再現するのにも一苦労するだろう。それでも、最後に…あの時覚えた"引っ掛かり"が必要なピースなのだ。どれだけ時間が掛かっても、再現させなければいけないのだ。
目を閉じ深呼吸を繰り返すー
少しずつ自分の魔力を練り、魔法陣の痕跡を辿って行くー
痕跡さえも…綺麗だった。金色の輝きを失っていなかった。まるで、私が来る事を待っていたかの様に残っていたー
「やっぱり…」
どれ位時間が経ったか分からないが、魔法陣の再現ができ、"引っ掛かり"の箇所を目と指で追う。最後に必要だったピースだ。あの時には分からなかったが、今なら分かる紋様…。この紋様を魔法陣に組み込めば…
私は急ぎ、再現したその魔法陣を記録石に刻み込み、瞳と魔力の色を青色に変えてから召還の間を後にした。
「ミューさん!」
出立まで後5日と言う日。巡礼の旅についての最終確認をする為に、瑠璃宮殿から第二王子の執務室がある王宮へ向かう途中、王宮へ足を踏み入れた時、私が向かおうとした廊下とは反対側から私の名前を呼ぶ声がした。振り返らずとも、誰の声なのか分かる。無視をすることもできないので、体ごと振り返り軽く礼をとる。
「タクマ様、お久し振りです。」
「はい!本当にお久し振りです。えっと…今から何処に?」
「私は、今から第二王子の執務室に行くところです。タクマ様は…訓練からのお帰りですか?」
「今日の訓練は休みなんです。今朝、雪と皇太子妃殿下からお茶に誘われて…今から朱殷宮殿に帰ろうと思ったら、ミューさんを見掛けて、つい声を掛けてしまいました。すみません。」
最初は笑顔だった琢磨だが、王宮内で大きな声で私を呼び止めてしまった事に気付き、申し訳無さそうな顔をして謝って来た。
ー本当に、25歳とは思えない…可愛さだよね?ショボンとした犬の耳みたいなのが見えるわー
「ふふっ…。謝る必要なんてないですよ?声を掛けて頂き、ありがとうございます。それに…私の方こそ、謝らなければなりません。出立間際にこちらの都合で、タクマ様の魔法の指導ができなくなり、その上、相談もなく指導者を代えてしまって、申し訳ありませんでした。」
魔導師長は私の願い通り、すぐに琢磨の指導者を私からティアナに変更してくれたのだ。その際、魔導師長が琢磨に説明し、謝ってくれてはいたのだが、私からも直接謝らなければと思っていたので、声を掛けられて丁度良かったのかもしれない。
「あ、いえ。それこそ気にしないで下さい。ミューさんが忙しいって事は知ってましたから。逆に、忙しい中、指導してくれて申し訳無かったなと…。そのー、後5日で出立ですね。巡礼の旅の時は、また宜しくお願いします。」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」
お互い軽く頭を下げる。
「それでは、これで失礼しまー」
「あの、ミューさん!」
別れの挨拶をしようとしたところ、もう一度琢磨に呼び止められた。
「あの…巡礼の旅が終わって…またアルム王国に帰って来たら…俺に時間をくれませんか?」
「え?」
「俺、ミューさんに…聞いて欲しい事があるんです。だから、俺に少しでも良いので、時間を作ってくれませんか?お願いします。」
『ここに帰って来たら』
「…駄目…ですか?」
少し震えるような声で問われ、ハッとする。
「あ、すみません。その、ちょっとビックリしただけで…。えっと…前にも言ってましたね?その時に王都の町に行くのも…いいかもしれませんね?」
思ってもいないクセに、口から言葉がするすると出て来る。
「あ、ありがとうございます!」
途端、琢磨が嬉しそうな顔をしながらお礼を口にする。
「俺のお願い、忘れないで下さいね。それじゃあ、これで失礼します。」
そう言って私に軽く一礼し、琢磨は朱殷宮殿の方に走って行った。
ー俺のお願い忘れないで下さいねー
きっと、何があっても忘れる事はないだろう。軽く目を閉じて、ゆっくり息を吐き心を落ち着かせる。スッと気持ちを切り替えて、私も第二王子の執務室へと歩みを進めた。
*この話で第二章終わりです。明日から閑話を一話挟んで第三章に入ります。引き続き、宜しくお願いします*
私は一人、第二王子と魔導師長から許可を得て、召還の間へとやって来た。
乳白色の石畳の上を歩き、琢磨と雪が召還された時に魔法陣が顕れた場所に立つ。召還の間付近に誰も居ない事を確かめ、自身に掛けていた魔力の色の変化の魔法を解き、本来の色を解放させた。髪は銀色のままだが、瞳と魔力の色が淡いラベンダー色になる。魔力の色を変えていると、どうしても魔力の力も量も少なく、小さくなってしまうのだ。今から使う魔法を確実に使いこなす為に、本来の色に戻ったのだ。
2人が召還された時に展開された魔法陣を、ここに再現させる魔法だ。実際に魔法陣を展開させる訳ではない。ここで使われた魔法の痕跡を辿り、それらを集めて繋げて行くのだ。召還の時にチラリと見ただけだったが、かなり複雑な紋様だった。再現するのにも一苦労するだろう。それでも、最後に…あの時覚えた"引っ掛かり"が必要なピースなのだ。どれだけ時間が掛かっても、再現させなければいけないのだ。
目を閉じ深呼吸を繰り返すー
少しずつ自分の魔力を練り、魔法陣の痕跡を辿って行くー
痕跡さえも…綺麗だった。金色の輝きを失っていなかった。まるで、私が来る事を待っていたかの様に残っていたー
「やっぱり…」
どれ位時間が経ったか分からないが、魔法陣の再現ができ、"引っ掛かり"の箇所を目と指で追う。最後に必要だったピースだ。あの時には分からなかったが、今なら分かる紋様…。この紋様を魔法陣に組み込めば…
私は急ぎ、再現したその魔法陣を記録石に刻み込み、瞳と魔力の色を青色に変えてから召還の間を後にした。
「ミューさん!」
出立まで後5日と言う日。巡礼の旅についての最終確認をする為に、瑠璃宮殿から第二王子の執務室がある王宮へ向かう途中、王宮へ足を踏み入れた時、私が向かおうとした廊下とは反対側から私の名前を呼ぶ声がした。振り返らずとも、誰の声なのか分かる。無視をすることもできないので、体ごと振り返り軽く礼をとる。
「タクマ様、お久し振りです。」
「はい!本当にお久し振りです。えっと…今から何処に?」
「私は、今から第二王子の執務室に行くところです。タクマ様は…訓練からのお帰りですか?」
「今日の訓練は休みなんです。今朝、雪と皇太子妃殿下からお茶に誘われて…今から朱殷宮殿に帰ろうと思ったら、ミューさんを見掛けて、つい声を掛けてしまいました。すみません。」
最初は笑顔だった琢磨だが、王宮内で大きな声で私を呼び止めてしまった事に気付き、申し訳無さそうな顔をして謝って来た。
ー本当に、25歳とは思えない…可愛さだよね?ショボンとした犬の耳みたいなのが見えるわー
「ふふっ…。謝る必要なんてないですよ?声を掛けて頂き、ありがとうございます。それに…私の方こそ、謝らなければなりません。出立間際にこちらの都合で、タクマ様の魔法の指導ができなくなり、その上、相談もなく指導者を代えてしまって、申し訳ありませんでした。」
魔導師長は私の願い通り、すぐに琢磨の指導者を私からティアナに変更してくれたのだ。その際、魔導師長が琢磨に説明し、謝ってくれてはいたのだが、私からも直接謝らなければと思っていたので、声を掛けられて丁度良かったのかもしれない。
「あ、いえ。それこそ気にしないで下さい。ミューさんが忙しいって事は知ってましたから。逆に、忙しい中、指導してくれて申し訳無かったなと…。そのー、後5日で出立ですね。巡礼の旅の時は、また宜しくお願いします。」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」
お互い軽く頭を下げる。
「それでは、これで失礼しまー」
「あの、ミューさん!」
別れの挨拶をしようとしたところ、もう一度琢磨に呼び止められた。
「あの…巡礼の旅が終わって…またアルム王国に帰って来たら…俺に時間をくれませんか?」
「え?」
「俺、ミューさんに…聞いて欲しい事があるんです。だから、俺に少しでも良いので、時間を作ってくれませんか?お願いします。」
『ここに帰って来たら』
「…駄目…ですか?」
少し震えるような声で問われ、ハッとする。
「あ、すみません。その、ちょっとビックリしただけで…。えっと…前にも言ってましたね?その時に王都の町に行くのも…いいかもしれませんね?」
思ってもいないクセに、口から言葉がするすると出て来る。
「あ、ありがとうございます!」
途端、琢磨が嬉しそうな顔をしながらお礼を口にする。
「俺のお願い、忘れないで下さいね。それじゃあ、これで失礼します。」
そう言って私に軽く一礼し、琢磨は朱殷宮殿の方に走って行った。
ー俺のお願い忘れないで下さいねー
きっと、何があっても忘れる事はないだろう。軽く目を閉じて、ゆっくり息を吐き心を落ち着かせる。スッと気持ちを切り替えて、私も第二王子の執務室へと歩みを進めた。
*この話で第二章終わりです。明日から閑話を一話挟んで第三章に入ります。引き続き、宜しくお願いします*
29
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる