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第二章
ミューのお願い
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『"田中雪"と、"棚橋美幸"って、名前が似てるよね?』
ーあぁ…そうだったー
そう言いながら、私に声を掛けて来たのは…私の前の席に座って居た雪の方だった。同じクラスで出席番号が前後だった為、机の並びも前後だったのだ。それからよく雪と話す事が増え、一緒に行動するようになり、気が付いたらそこに琢磨が加わっていた。
美男次女に挟まれた平凡な私。嫌ではなかったが…ちょっと居たたまれない感じはあった。
それでも、琢磨が選んだのは私だった…。嬉しかった。本当はもっと甘えたかった。でも、それをしなかったのは…私の意思だ。琢磨はもっと頼って?と直接的ではないが態度で示してくれていたのに。そこで琢磨に頼っていれば…何か変わっていたんだろうか?
違う。今更タラレバの事を考えたところで、過去も未来も何も変わらないのだ。ならば…これからの事だけを考えて…前に進みたい。進んで行こう。もう、これ以上…琢磨と雪に…縛られないように…。
『みゆき…ミューなら、できるわ』
私に微笑みながら、佇んでいる母が居た。
フッと意識が浮上し、目を開ける。
見慣れた天井の様で…少し色合いが違うような天井が目に入る。
「ー?」
起き上がろうとして、左手に違和感があり、そちらに視線を向けた。
「ーっ!?」
魔導師長が私の左手を両手で包み込む様にして持ち上げ、その手を祈りを捧げているように自身の額にくっつけて目を閉じていた。
「ーなっ!?」
思わず声を出した瞬間、魔導師長の肩がビクリッと震え顔を上げ目を見開いた。
「…ミュー?」
「はいっ!」
名前を呼ばれ、ビックリして上ずったような声で返事をした。
ー恥ずかしい!上ずったよ!ー
「良かった…」
「ふえっ!?」
変な声が出た事は許して欲しい!だって…だって…!!恥ずかしがっている私を無視?して、魔導師長に…グイッと引っ張り上げられて…抱き締められたのだ。
ーななななな何で!?ー
何がどうなって、こうなったの?
魔導師長の腕から逃れようと、自分の手を魔導師長の胸にあてグッと力を入れて押すと、更に魔導師長が力を入れて私を抱き締めて来た。
ーなな何で??逆効果!??え??ー
どうしよう!?魔導師長は黙ったまま何も言わないし…私の心臓は恐ろしい位に脈打っていて痛い。何より…恥ずかしい!!前世含め、異性に抱き締められるなんて…初めてなのだ。
「あーあのっ…魔導師長?」
もう一度、手で魔導師長の胸を押しながら、魔導師長に呼び掛ける。
すると、魔導師長がノロノロと顔を上げた。
私の左肩に埋めていた顔を上げ私の方を見るから、鼻がぶつかりそうな位の距離で目が合った。
「ーーーっ!?」
驚き過ぎるやら恥ずかしいやらで、今、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。何か言いたいのに声が出せなくて、口をパクパクさせてしまった。
「…ふっ…」
「いま、嗤いましたよね!?何ですか?か…揶揄いました?」
心臓が痛すぎて泣けて来る。
「…いや…別に揶揄った訳じゃないが…ミューの反応がな…ふっ…」
「…遠慮せず思い切り嗤ってくれた方がマシですよ!?」
「ははっ…。そう怒るな。」
そう言いながら、魔導師長はようやく私から離れて行った。
離れてくれてホッとした自分と、無くなった温もりを寂しいなと思う自分がいる事に少し戸惑い、その気持ちを振り払うように、魔導師長に話し掛けた。
「あの…私が湖に落ちてから、どの位の時間が経っているんですか?」
ここはおそらく、瑠璃宮殿にある魔導師長の自室だろう。窓の外をみると夕方だろうと分かる。それほど時間は経っていないかもしれない。
「…ミューが湖に落ちた後、私も気を失っていたみたいでね。次に目が覚めた時…ウォルテライト女神様がミューを連れて顕れた。ウォルテライト女神様はミューを頼むと言ってすぐに姿を消された。とにかく、ミューが意識を失ったままだったから、急いで私の部屋まで転移魔法で戻って来たんだ。今は夕方だ。3時間程しか経っていない。」
「この事は…他に…誰かに報告されましたか?」
「いやー。まだ報告はしていない。ミューが意識を戻して、確認してからと思っていたからね。」
ーなら、良かったー
私は目を瞑り、浅く息を吐き、目をしっかり開けて魔導師長の目を見上げる。
「魔導師長、お願いがあります。」
「お願い?」
魔導師長が、軽く目を見開き私を見据える。
「ウォルテライト女神様の事と、私が湖に落ちた事は、今回の浄化巡礼の旅が終わる迄…秘密にして頂けませんか?」
魔導師長は、黙って私を見据えたままだ。
「それと…出立する日迄、予定していたタクマ様の訓練の指導について…私を外して下さい。」
「指導を外す?」
「はい。帰還の魔法陣の作成の…仕上げをしたいのです。」
そう告げると、魔導師長は息をのみ目を見張った。
「勿論…この事も…秘密でお願いしす。」
魔導師長は私を見据えたまま。私も、その魔導師長から目を反らす事なく見つめ返す。
暫くの間、見つめ合ったまま沈黙が続き、先に目を反らしたのは魔導師長だった。
ーあぁ…そうだったー
そう言いながら、私に声を掛けて来たのは…私の前の席に座って居た雪の方だった。同じクラスで出席番号が前後だった為、机の並びも前後だったのだ。それからよく雪と話す事が増え、一緒に行動するようになり、気が付いたらそこに琢磨が加わっていた。
美男次女に挟まれた平凡な私。嫌ではなかったが…ちょっと居たたまれない感じはあった。
それでも、琢磨が選んだのは私だった…。嬉しかった。本当はもっと甘えたかった。でも、それをしなかったのは…私の意思だ。琢磨はもっと頼って?と直接的ではないが態度で示してくれていたのに。そこで琢磨に頼っていれば…何か変わっていたんだろうか?
違う。今更タラレバの事を考えたところで、過去も未来も何も変わらないのだ。ならば…これからの事だけを考えて…前に進みたい。進んで行こう。もう、これ以上…琢磨と雪に…縛られないように…。
『みゆき…ミューなら、できるわ』
私に微笑みながら、佇んでいる母が居た。
フッと意識が浮上し、目を開ける。
見慣れた天井の様で…少し色合いが違うような天井が目に入る。
「ー?」
起き上がろうとして、左手に違和感があり、そちらに視線を向けた。
「ーっ!?」
魔導師長が私の左手を両手で包み込む様にして持ち上げ、その手を祈りを捧げているように自身の額にくっつけて目を閉じていた。
「ーなっ!?」
思わず声を出した瞬間、魔導師長の肩がビクリッと震え顔を上げ目を見開いた。
「…ミュー?」
「はいっ!」
名前を呼ばれ、ビックリして上ずったような声で返事をした。
ー恥ずかしい!上ずったよ!ー
「良かった…」
「ふえっ!?」
変な声が出た事は許して欲しい!だって…だって…!!恥ずかしがっている私を無視?して、魔導師長に…グイッと引っ張り上げられて…抱き締められたのだ。
ーななななな何で!?ー
何がどうなって、こうなったの?
魔導師長の腕から逃れようと、自分の手を魔導師長の胸にあてグッと力を入れて押すと、更に魔導師長が力を入れて私を抱き締めて来た。
ーなな何で??逆効果!??え??ー
どうしよう!?魔導師長は黙ったまま何も言わないし…私の心臓は恐ろしい位に脈打っていて痛い。何より…恥ずかしい!!前世含め、異性に抱き締められるなんて…初めてなのだ。
「あーあのっ…魔導師長?」
もう一度、手で魔導師長の胸を押しながら、魔導師長に呼び掛ける。
すると、魔導師長がノロノロと顔を上げた。
私の左肩に埋めていた顔を上げ私の方を見るから、鼻がぶつかりそうな位の距離で目が合った。
「ーーーっ!?」
驚き過ぎるやら恥ずかしいやらで、今、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。何か言いたいのに声が出せなくて、口をパクパクさせてしまった。
「…ふっ…」
「いま、嗤いましたよね!?何ですか?か…揶揄いました?」
心臓が痛すぎて泣けて来る。
「…いや…別に揶揄った訳じゃないが…ミューの反応がな…ふっ…」
「…遠慮せず思い切り嗤ってくれた方がマシですよ!?」
「ははっ…。そう怒るな。」
そう言いながら、魔導師長はようやく私から離れて行った。
離れてくれてホッとした自分と、無くなった温もりを寂しいなと思う自分がいる事に少し戸惑い、その気持ちを振り払うように、魔導師長に話し掛けた。
「あの…私が湖に落ちてから、どの位の時間が経っているんですか?」
ここはおそらく、瑠璃宮殿にある魔導師長の自室だろう。窓の外をみると夕方だろうと分かる。それほど時間は経っていないかもしれない。
「…ミューが湖に落ちた後、私も気を失っていたみたいでね。次に目が覚めた時…ウォルテライト女神様がミューを連れて顕れた。ウォルテライト女神様はミューを頼むと言ってすぐに姿を消された。とにかく、ミューが意識を失ったままだったから、急いで私の部屋まで転移魔法で戻って来たんだ。今は夕方だ。3時間程しか経っていない。」
「この事は…他に…誰かに報告されましたか?」
「いやー。まだ報告はしていない。ミューが意識を戻して、確認してからと思っていたからね。」
ーなら、良かったー
私は目を瞑り、浅く息を吐き、目をしっかり開けて魔導師長の目を見上げる。
「魔導師長、お願いがあります。」
「お願い?」
魔導師長が、軽く目を見開き私を見据える。
「ウォルテライト女神様の事と、私が湖に落ちた事は、今回の浄化巡礼の旅が終わる迄…秘密にして頂けませんか?」
魔導師長は、黙って私を見据えたままだ。
「それと…出立する日迄、予定していたタクマ様の訓練の指導について…私を外して下さい。」
「指導を外す?」
「はい。帰還の魔法陣の作成の…仕上げをしたいのです。」
そう告げると、魔導師長は息をのみ目を見張った。
「勿論…この事も…秘密でお願いしす。」
魔導師長は私を見据えたまま。私も、その魔導師長から目を反らす事なく見つめ返す。
暫くの間、見つめ合ったまま沈黙が続き、先に目を反らしたのは魔導師長だった。
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