初恋の還る路

みん

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第二章

閑話ーハルシオン視点③ー

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*本日、3本目の投稿です*











それからも、"違和感"の正体が分からないまま日が過ぎて行った。

相変わらず、夜はあまり眠れなかった。眠れてもを見て、起きた時は更に体が疲れていた。

そんなある日、タクマ殿が攻撃魔法を覚えたいと願い出て来た。攻撃魔法となると危険もある上に、聖女様には必要のない訓練だ。ならば…と、攻撃魔法が苦手なティアナではなく、ミューにギリューの補助に付いてもらわなければならないなと思い、息抜きも兼ねて、私自らミューが居るであろう地下室に足を向けた。


補助を頼むと、ミューは承諾した。そして、そのまま私の存在をまるっと無視して何やら考え込みだした。

ー前にもこんな事があったなぁー

そう思っていると、ふいに机の上に置かれた紙に描かれた魔法陣が目に入った。

「ミューの魔法陣は、いつも綺麗だな。」

そう言うと、ミューは私の存在を思い出したかの様に私を振り返った。

『何故、まだここに居るんですか?』

みたいな雰囲気を隠しもせず…いや、隠しているつもりか?平民故の気安さなのか、ミュー自身の性格なのか、王弟である私にも態度を変えない。それが、嫌ではなく心地好いとも思える。その心地好さからか、気が付くとそこで寝てしまっていた。


またこの夢かー
ひたすら暗闇の中を歩くー
もう疲れたー
いっそのこと、もうこの闇に囚われてしまおうかー

そう思った時、目の前に光が顕れた

淡い淡いー今にでも消えそうなー淡いラベンダー色の光ー

最初は蝋燭の灯り程の大きさだったが、ふわふわと大きく広がっていき、私の体全体を覆いだした。

優しい魔力だった。私の疲れた体を癒してくれるような光。かの令嬢の瞳と同じ色の光。

あぁ…今すぐ起きなければ…目を開けなければ…この闇から出なければ…


ふと意識が浮上するー






「あ、起きましたか?」

「…ん…」

目を開けると、そこには…ミューが居た。

「……」

「気が付いたら、魔導師長が寝てしまってて…お疲れのようだったので、起こそうかどうしようか迷ってたんですけど…。私、お腹が空いてしまって…そろそろお昼にしませんか?」

小首を傾げながら少し恥ずかしそうに言って来るミューを見つめる。ミューが纏うのは瞳と同じ青色の魔力。先ほど感じたのは淡いラベンダー色の魔力。

ーもし、魔力の色を変える事ができたら?ー

頭にふと浮かんだ仮定。

ここには限られた者しか入れない。だから、私達2人以外がここに来て魔力を使ったと言う事は考えられない。ならばー

「魔導師長?どうかしましたか?」

「あー…何でもない。気を遣わせてすまなかったな。お昼を食べに行こうか。」

「はいっ!」

嬉しそうに返事をするミューをただ見詰めていた。









『それでは、ミュー殿。タクマ殿の指導の件、宜しく頼みますね。王弟殿下、私はこれで失礼します。』

タクマ殿の魔法指導を、これからはミューがすると決まり、それを伝えに来たのだが…そこにはレイナイト侯爵が居た。
私が入室した瞬間、ミューがフードを被り直したのが目に入った。

最近、やたらとレイナイト侯爵がミューの近くに居るなと思っていた。国王陛下に(タクマ殿繋がりで)頼まれているのだろうと思っていたが…。

二人きりで、その上ミューがフードを外していた。私と居る時には…被っているのに…


『あのー…何か、私に用事でもありましたか?』

ミューからの問い掛けにハッとして、今の思考に蓋をして、ミューとの心地好いやり取りを交わし、私は久し振りに笑う事ができた。








『いえ…。心配して下さって…嬉しいですよ?』


モーリアとアレクシスを拘束した後、タクマ殿がミューに駆け寄り手を取り無事を確認した。そして、ミューが、タクマ殿の手をそっと握りながら微笑んでいる。

ーザワリー

『…で?いつまで手を握り合ってるつもりだ?』

アルバニア団長の突っ込みに、2人揃って慌てて手を離した。

『いえ!お気になさらず!』

フードを被っているのに、ミューの顔が赤くなっているだろう事が分かる。

ーザワリー

それからタクマ殿は、アルバニア団長の指示で私達に挨拶をしてから訓練場を後にする。その時チラリとミューを見ると、先程タクマ殿に握られた手に視線を落とし…それから、顔を上げタクマ殿の方を見ているようだった。

フワリと風が吹き、ミューのフードが風を受け、一瞬、ミューの目が見えた。

その目を見た事があった。がタクマ殿に向けていた目だ。切なそうな…歪んでいるような目だ。

ーカチリー

あるピースが填まったような感覚。

黒い感情が溢れ出す前に、また違う感情が顔を出す。

相変わらず、レイナイト侯爵からは"違和感"を感じる。ミューからもだ。ニヤケそうになる口に、グッと力を入れて堪える。

何故なった?何て疑問と答えは後からで良い。また、の手からすり抜けられたら、それこそたまらない。もう、次なんて作らせない。



ー絶対に逃がさないー






*これで、ハルシオン視点は終わりです。明日からは、また本編に戻ります*
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