初恋の還る路

みん

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第二章

閑話ーハルシオン視点②ー

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*本日、2本目の投稿です*









もう一度、かの令嬢の瞳に映りたくて強引に攻めた自覚はあった。
"ひきこもりの令嬢"、"侯爵に冷遇されている令嬢" と、よくない噂もあるが…あの容姿だ。今日、かの令嬢を見て婚約を申し出る家は少なくないだろうと推測される。ならば、使える物は全て使おうと、王弟の紋章の透かしが入った便箋でお茶の誘いの手紙を書き、王弟の紋章の蝋印で封をする。

ー明日の朝一にでも、使いを送ろうー

封をした手紙を机の引き出しに入れ、逸る気持ちを抑えつつ、もともと夜会に戻る気もなかった為、寝る準備を始めた。



寝るにはまだ少し早いと言う時間に、瑠璃宮殿の私の部屋の扉をノックする音がした。

「誰だ?」

「ハルシオン殿下、夜分に申し訳ございません。ロバルトでございます。陛下より緊急のお知らせを言付かって参りました。」

ロバルトは兄である国王陛下の侍従である。その侍従が、わざわざ瑠璃宮殿ここまでやって来たと言う事は、兄に何かあったのか?少し胸騒ぎを覚えながら、ロバルトを迎え入れた。







「ー今…何と…?」

「…レイナイト侯爵令嬢ミシュエルリーナ様が、夜会の帰りに何者かに襲撃され馬車ごと崖から転落し、そのまま川に流されてしまったそうです。」

「何て…。襲撃?崖から…転落?」

「その場に居たレイナイト侯爵家の執事が言うには、その川の流れが速い為、すぐに捜索しなければ見失ってしまうと…。その為、レイナイト侯爵様も急ぎ王宮を後にされました。」

「…私も行ってくる。」

驚いたロバルトが、私を止めようと伸ばした手が届く前に、私は魔法陣を展開させ瑠璃宮殿の外に転移した。







かの令嬢に魔力があったなら、その魔力を追って探す事ができたのに。魔力があったなら、あの瞳と同じ淡いラベンダー色だっただろう。

いやー。

ーあの時、一緒に居たいと引き留めていたらー

ーあの時、強引にでも一緒に馬車に乗り込み、侯爵邸迄送り届けていればー

捜索している間、色々な考えが溢れ出す。体は重いのに眠れない。眠れたと思えば、またを見る。もう限界だった。






『遺体の損傷が激しくて…顔は…分からなかったそうだが、髪がピンクブロンドなのと、着ていたドレスで…レイナイト侯爵令嬢だと…判断できたらしい。』

私の執務室にギリューがやって来て、そう告げた。その後、ギリュー達が何を言っているのか…何も耳に入って来なかった。

その3日後、レイナイト侯爵の領地内にある小さな教会で葬儀が執り行われた。私は周りに迷惑を掛けないように、遅い時間に転移魔法を使いこっそりとその教会を訪れた。

祭壇には蓋が閉められた棺が置かれており、その前に並んでいる椅子に、レイナイト侯爵夫妻、エルライン嬢、コーライル殿とその妻、カーンハイル公爵とその嫡男であるルティウス殿が座って居た。

エルライン嬢は、今にでも倒れそうな程顔色が悪かった。
そっと棺に近付く。

ー?ー

そこで、はたと違和感が私を襲う。

ーかの令嬢は…魔力持ちだったか?ー

いや、魔力とは違う…を棺…の中に感じる。この違和感…何処かで…

チラリと後ろに居るレイナイト侯爵を見遣る。

そのレイナイト侯爵は、真っ直ぐに私を見据えていた。いつもは無表情ながら、飄々とした態度で他人に接する侯爵だが、今の侯爵は…。意識をレイナイト侯爵に集中させる。

レイナイト侯爵からも"違和感"を感じた。

ー何だ?どうなっている?ー


ふと、青い瞳が頭の中に顕れた。


ーミュー?ー

初めてミューに会った時に感じた"違和感"。今迄ずっと忘れていた。

もう一度、棺とレイナイト侯爵を意識しながら視る。魔力の色は見えない。視えないのにそこに何かがあるような感覚。それが…"違和感"の正体なのか?分からないー。

今は時間が無い。今日は皆には黙って来たのだ。そろそろ帰らなければと、気持ちを切り替えレイナイト侯爵に帰りの挨拶をする。

魔法陣を展開し転移し始めた時に、もう一度レイナイト侯爵を見ると…

淡い…微かに視えるか視えないか位の青色の魔力を纏い、挑戦するかの様な笑顔で私を見ていた。
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