57 / 105
第二章
ミューの立ち位置
しおりを挟む
「えっと…もしですが、ユキ様が第二騎士団長様と結婚したいと言ったら、どうするんですか?」
「ん?そう言われたら断る理由は無いからね。先ずは婚約して、それから結婚すると思うよ?でも、ユキ様が私を選ぶ事はないと思うよ?」
第二騎士団長は、何て事無いように答える。この世界の貴族の結婚と言うのはこう言う事が当たり前なんだろう。私にはやっぱりちょっと無理だ。
「どうして、選ばれないと?」
私は遠慮するが、第二騎士団長はイケメンだ。しかも、ご令嬢方の人気を集める近衛騎士団のトップであり、伯爵家の嫡男でもある。にも関わらず、婚約者もまだ居ないらしい。そんな理由で、魔導師長と同じく、第二騎士団長も人気があるらしい。
「ユキ様は…異世界から来たらしいが、この世界のご令嬢と感覚は似ていると思う。何と言うか…より良い相手を選んでると言うか…。悪い意味ではなく、上昇志向は強いかと。貴族らしい女性だと思う。伯爵家の嫡男から見ると、伯爵夫人として問題無く迎え入れられるだろうと思う。逆に、ユキ様からしたら、私は伯爵止まりだからね。ユキ様の側には、第二王子と王弟が居るから…。」
と、第二騎士団長は、視線だけ魔導師長に向けながら言う。
「第二騎士団長様からは…ユキ様がその様に見えるのですね…。」
私には分からない。分からないが、そう言われて納得する自分も居る。それが本当なら、雪と琢磨が噂になった事も理解できる。雪は学年で一番可愛い、琢磨は学年で一番カッコいいと言われていた。そんな琢磨が選んだのが私だ。何の取り柄も無い私。雪からしたら…プライドが許さなかったのかもしれない。琢磨も…雪から気持ちを向けられて…嫌ではなかったのかもしれない…
ーあぁ…成る程ねー
自分勝手な思考かもしれないが、その思考をストンと受け入れる自分が居る。自然と手に力が入る。
「ミュー嬢は、他人事の様に言うけど…自分の立ち位置を理解しているのか?」
「私の…立ち位置?」
第二騎士団長が、徐に私に話をふる。
「タクマ殿ですよ。彼は聖女ではないが、リーデンブルク女神の加護を持った者。彼がもし、ミュー嬢を望んだら?」
ー琢磨がミューを選ぶ?ー
「タクマ殿は、騎士として生きていく事を選択した。貴族ではない。平民であるミュー嬢とだって結婚できる。例えば…ミュー嬢が嫌だと言っても、王命が下れば…断れない。私から見たら、ミュー嬢は今、タクマ殿に一番近い処に居ると思う。」
ヒュッと息を飲む。有り得ない…と思う。思うけど…あの時の震えていた手を。その後に見た琢磨の顔を思い出すと否定もできない自分が居る。
琢磨と?無理だ。無理に決まってる。もう、あんな思いはたくさんだ。きっと、どんなに頑張っても、もう琢磨を信頼する事はできないだろう。いつだって、雪の存在に怯えてしまうだろう。今のままの距離感で…十分だ。
「私は…もう恋なんて懲り懲りです…王命なんて出たら、上級位魔導師として暴れまくって、国外にでも逃げます。まぁ、タクマ様が私を望む事は…無いでしょうけどね。」
と、少しおどけた様に返答する。
「懲り懲り?ミュー嬢は…そんなに辛い恋をした事があるの?」
ーしまった!!ー
油断した。第二騎士団長に痛いところをつかれた。今の私は18歳。10歳の頃に魔導師見習いになった。勿論、そんな年齢で恋愛なんてしていないし、魔導師になってからも、そんな話は一切無い。前世でしてました!何て事は絶対言えない。
「さぁ?どうでしょうね?」
ーこれ以上、突っ込むな!ー
と言う気持ちを込めて誤魔化すが…油断していたところで、第二騎士団長が私に手を伸ばし、フードを目繰り上げた。
「なっ!?」
慌ててフードを被ろうとした手を捕まれる。
「そんな辛そうな顔して…。一体どんな恋をしたの?」
「……」
『辛そうな顔して』と言う第二騎士団長の方が辛そうな顔をしている。茶化してる訳でも揶揄っている訳でもない。その視線から逃れられないかのように私の体が固まる。
バチンッ
「「痛っー!?」」
第二騎士団長に捕まれていた所に、音を立てて衝撃が走り、手が離れて行った。
チラリとギリューを見ると、ギリューは少し目を見開き魔導師長を見ているようで、そのまま私も魔導師長に視線を向ける。
うん。特に魔導師長は、表情も態度も何も変わっていないー様に見える。ちょっと…空気が冷たい気がするが…気のせいだろう。
「え?マジで?」
と、第二騎士団長は、自分の手と魔導師長を交互に見ながら呟く。心なしか、顔色が悪くなったような気もする。
「…恋人でも婚約者でも無い女性に、やたら無闇に手を出すな。」
いつもより少し低い声で、魔導師長が第二騎士団長を窘める。
第二騎士団長は、驚いたように魔導師長を見詰めた後、困った様に少し笑った。
「そうか…良かったな…」
第二騎士団長が何か囁いたが、あまりにも小さくて聞こえなかった。
「?」
何だろう?と思ってるのは…どうやら私だけのようで…
「マジか…えー!?いつから!?」
と、横に居るギリューも、何か1人でぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
私は、フードを被り直すのも忘れて独り、困惑していた。
「ん?そう言われたら断る理由は無いからね。先ずは婚約して、それから結婚すると思うよ?でも、ユキ様が私を選ぶ事はないと思うよ?」
第二騎士団長は、何て事無いように答える。この世界の貴族の結婚と言うのはこう言う事が当たり前なんだろう。私にはやっぱりちょっと無理だ。
「どうして、選ばれないと?」
私は遠慮するが、第二騎士団長はイケメンだ。しかも、ご令嬢方の人気を集める近衛騎士団のトップであり、伯爵家の嫡男でもある。にも関わらず、婚約者もまだ居ないらしい。そんな理由で、魔導師長と同じく、第二騎士団長も人気があるらしい。
「ユキ様は…異世界から来たらしいが、この世界のご令嬢と感覚は似ていると思う。何と言うか…より良い相手を選んでると言うか…。悪い意味ではなく、上昇志向は強いかと。貴族らしい女性だと思う。伯爵家の嫡男から見ると、伯爵夫人として問題無く迎え入れられるだろうと思う。逆に、ユキ様からしたら、私は伯爵止まりだからね。ユキ様の側には、第二王子と王弟が居るから…。」
と、第二騎士団長は、視線だけ魔導師長に向けながら言う。
「第二騎士団長様からは…ユキ様がその様に見えるのですね…。」
私には分からない。分からないが、そう言われて納得する自分も居る。それが本当なら、雪と琢磨が噂になった事も理解できる。雪は学年で一番可愛い、琢磨は学年で一番カッコいいと言われていた。そんな琢磨が選んだのが私だ。何の取り柄も無い私。雪からしたら…プライドが許さなかったのかもしれない。琢磨も…雪から気持ちを向けられて…嫌ではなかったのかもしれない…
ーあぁ…成る程ねー
自分勝手な思考かもしれないが、その思考をストンと受け入れる自分が居る。自然と手に力が入る。
「ミュー嬢は、他人事の様に言うけど…自分の立ち位置を理解しているのか?」
「私の…立ち位置?」
第二騎士団長が、徐に私に話をふる。
「タクマ殿ですよ。彼は聖女ではないが、リーデンブルク女神の加護を持った者。彼がもし、ミュー嬢を望んだら?」
ー琢磨がミューを選ぶ?ー
「タクマ殿は、騎士として生きていく事を選択した。貴族ではない。平民であるミュー嬢とだって結婚できる。例えば…ミュー嬢が嫌だと言っても、王命が下れば…断れない。私から見たら、ミュー嬢は今、タクマ殿に一番近い処に居ると思う。」
ヒュッと息を飲む。有り得ない…と思う。思うけど…あの時の震えていた手を。その後に見た琢磨の顔を思い出すと否定もできない自分が居る。
琢磨と?無理だ。無理に決まってる。もう、あんな思いはたくさんだ。きっと、どんなに頑張っても、もう琢磨を信頼する事はできないだろう。いつだって、雪の存在に怯えてしまうだろう。今のままの距離感で…十分だ。
「私は…もう恋なんて懲り懲りです…王命なんて出たら、上級位魔導師として暴れまくって、国外にでも逃げます。まぁ、タクマ様が私を望む事は…無いでしょうけどね。」
と、少しおどけた様に返答する。
「懲り懲り?ミュー嬢は…そんなに辛い恋をした事があるの?」
ーしまった!!ー
油断した。第二騎士団長に痛いところをつかれた。今の私は18歳。10歳の頃に魔導師見習いになった。勿論、そんな年齢で恋愛なんてしていないし、魔導師になってからも、そんな話は一切無い。前世でしてました!何て事は絶対言えない。
「さぁ?どうでしょうね?」
ーこれ以上、突っ込むな!ー
と言う気持ちを込めて誤魔化すが…油断していたところで、第二騎士団長が私に手を伸ばし、フードを目繰り上げた。
「なっ!?」
慌ててフードを被ろうとした手を捕まれる。
「そんな辛そうな顔して…。一体どんな恋をしたの?」
「……」
『辛そうな顔して』と言う第二騎士団長の方が辛そうな顔をしている。茶化してる訳でも揶揄っている訳でもない。その視線から逃れられないかのように私の体が固まる。
バチンッ
「「痛っー!?」」
第二騎士団長に捕まれていた所に、音を立てて衝撃が走り、手が離れて行った。
チラリとギリューを見ると、ギリューは少し目を見開き魔導師長を見ているようで、そのまま私も魔導師長に視線を向ける。
うん。特に魔導師長は、表情も態度も何も変わっていないー様に見える。ちょっと…空気が冷たい気がするが…気のせいだろう。
「え?マジで?」
と、第二騎士団長は、自分の手と魔導師長を交互に見ながら呟く。心なしか、顔色が悪くなったような気もする。
「…恋人でも婚約者でも無い女性に、やたら無闇に手を出すな。」
いつもより少し低い声で、魔導師長が第二騎士団長を窘める。
第二騎士団長は、驚いたように魔導師長を見詰めた後、困った様に少し笑った。
「そうか…良かったな…」
第二騎士団長が何か囁いたが、あまりにも小さくて聞こえなかった。
「?」
何だろう?と思ってるのは…どうやら私だけのようで…
「マジか…えー!?いつから!?」
と、横に居るギリューも、何か1人でぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
私は、フードを被り直すのも忘れて独り、困惑していた。
32
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー
夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。
成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。
そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。
虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。
ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。
大人描写のある回には★をつけます。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
魔法使いの恋
みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。
そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。
❋モブシリーズの子供世代の話になります❋
❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる