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第二章
嫌悪感
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「琢磨!久し振りね!」
雪が寂しいと落ち込んだ日から一週間後。朱殷宮殿の訓練場での訓練が終わった後、私は琢磨を連れて天青離宮の雪の部屋までやって来た。
琢磨が部屋に入り、雪が琢磨を目にした瞬間、花が綻ぶような笑顔で琢磨を迎え入れた。
私は琢磨の後ろに居る為、琢磨の顔は見えないが、端から見れば恋人同士の再会シーンのようだ。
ーチクリー
少し…ほんの少しだけ、胸が痛んだ。
「それでは、私とミューは隣の部屋で控えていますね。」
「え?ここで一緒に話しませんか?」
雪と琢磨がテーブルに着いた時、一緒に居たギリューがそう2人に告げると、琢磨が慌てて私達を引き留める。
「あぁ、タクマ殿大丈夫ですよ。ここに居る者達は彼方がた2人の世界の事を知ってますから。異性で2人きりでお茶などしても、こちらの世界のように醜聞にならないんですよね?天青離宮ででは、無理にこちらの価値観に合わせなくても大丈夫です。それに、一応侍女もひかえてますし、隣の部屋に私とミューも居ますからね。今日は、こちらの事は気にせずゆっくり…2人でお話でもして下さい。」
「…でも…」
ギリューのフォローにも、少し納得がいかないような顔で琢磨は口を開きかけ口ごもる。
「本当に、気にしなくて大丈夫ですよ?それに、私とギリュー様も今後の予定についての相談もありましたから。時間がもてて丁度良かったと言う感じなので…こちらの事は気にせずゆっくりして下さい。何かあれば呼んで下さい。」
私もギリュー様のフォローをする。
「分かりました…。気を遣ってもらって…ありがとうございます。」
琢磨はぎこちなく笑いながら礼を言う。雪は、その様子をにこにこ微笑みながら見ていた。
「浄化巡礼の出立が、予定より早まるようだ。」
ギリューと隣の部屋に移り、雪の侍女が紅茶とお菓子を用意してくれた後、2人で椅子に座ると、今後の予定の話をし始めた。
「やっぱり…。王都で魔獣が出たと聞いたので、ひょっとしたらと思ってたんですよ。」
「ユキ様は浄化の力を、もう何も問題なく使いこなせてるから、いつでも大丈夫って感じだからな。タクマ殿の方はどうだ?」
「タクマ様も問題ありませんよ。身体能力も獣人並みにあって、魔力も多いですが、コントロールもほぼ完璧にできてます。」
所謂"チート"かもしれないが、琢磨自身の努力もあるだろう。攻撃魔法の習得も早かった。 この様子だと、将来団長クラス迄登り詰めるかもしれないなと思う。
「まだ確定ではないが、今回の旅には私とミューが同行する事になると思う。それと、本当かどうか分からないが、第二騎士団長が今回の旅に同行したいと希望しているらしい。」
「はい?第二騎士団長?」
何であの第二騎士団長が同行するの!?
「私もよく分からないんだが…第二王子の護衛と言う事らしいが…ミュー、お前に借りがあるからとも言っていたぞ?」
ー借り逃げしてくれても良いのに。"貸し"にしたつもりもないけどー
「ま、とにかく、近いうちに指示が出ると思うから、準備だけはしておいてくれ。」
「分かりました。」
結局は、上で決定されない限りこれ以上の話もできなきので話は早々に終わってしまった。
気になるのはやっぱり…
「魔導師長やギリュー様が言ってた通り…タクマ様はユキ様に一線引いてる感じですね。」
2人でゆっくり話して欲しいと言った時、本当に琢磨は焦っていた。焦ると言うか…そう、嫌悪感だ。それなのに、雪の態度はその真逆。本当に嬉しそうな顔をしていたのだ。恐ろしいくらいに。私が知っている2人は…仲は良かったと思う。でなければ、付き合ってるなんて噂にならなかっただろう。私が死んでから、何かあった?
それでも、一緒に旅に出るからには、仲良くしてくれた方が良い。誤解や擦れ違いが起こっているのなら、今のうちに誤解などを解いておいて欲しいと思う。
「失礼致します。ギリュー様、ミュー様、魔導師長様がお2人をお呼びでございますが、どうされますか?」
天青離宮に来てから一時間程してから、雪付きの侍女が知らせに来た。
今日この時間、天青離宮で雪と琢磨とゆっくりさせると言う事を知っている筈なのに、魔導師長がわざわざ呼んでいると言う事は、緊急の何かがあったのかもしれないと、ギリュー様と顔を見合わせる。
「すまないが、ユキ様とタクマ殿に、緊急の要件ができたから、先に戻ると伝えてもらえるか?」
と、ギリューが侍女に伝えると、隣の部屋に居た筈の琢磨がこちらにやって来て
「俺も一緒に戻ります。」
「いや、ゆっくりしてもらっても…」
一緒に戻ると言う琢磨に、ギリューはゆっくりしてくれと言い掛けたが…琢磨の顔を見て口を閉じた。何と言うか…『疲労困憊です!』みたいな顔をしていたのだ。
ーえ?何があったの?ー
「「「……」」」
私もギリューも琢磨も、それ以上は何も言えなくて、3人揃って天青離宮を後にした。
そのまま琢磨は朱殷宮殿へ、ギリューと私は瑠璃宮殿へと戻った。
そして、今、ギリューと私は魔導師長の執務室に居る。
そして、何故か、私の目の前に第二騎士団長が居る。
ー何故だ!?ー
雪が寂しいと落ち込んだ日から一週間後。朱殷宮殿の訓練場での訓練が終わった後、私は琢磨を連れて天青離宮の雪の部屋までやって来た。
琢磨が部屋に入り、雪が琢磨を目にした瞬間、花が綻ぶような笑顔で琢磨を迎え入れた。
私は琢磨の後ろに居る為、琢磨の顔は見えないが、端から見れば恋人同士の再会シーンのようだ。
ーチクリー
少し…ほんの少しだけ、胸が痛んだ。
「それでは、私とミューは隣の部屋で控えていますね。」
「え?ここで一緒に話しませんか?」
雪と琢磨がテーブルに着いた時、一緒に居たギリューがそう2人に告げると、琢磨が慌てて私達を引き留める。
「あぁ、タクマ殿大丈夫ですよ。ここに居る者達は彼方がた2人の世界の事を知ってますから。異性で2人きりでお茶などしても、こちらの世界のように醜聞にならないんですよね?天青離宮ででは、無理にこちらの価値観に合わせなくても大丈夫です。それに、一応侍女もひかえてますし、隣の部屋に私とミューも居ますからね。今日は、こちらの事は気にせずゆっくり…2人でお話でもして下さい。」
「…でも…」
ギリューのフォローにも、少し納得がいかないような顔で琢磨は口を開きかけ口ごもる。
「本当に、気にしなくて大丈夫ですよ?それに、私とギリュー様も今後の予定についての相談もありましたから。時間がもてて丁度良かったと言う感じなので…こちらの事は気にせずゆっくりして下さい。何かあれば呼んで下さい。」
私もギリュー様のフォローをする。
「分かりました…。気を遣ってもらって…ありがとうございます。」
琢磨はぎこちなく笑いながら礼を言う。雪は、その様子をにこにこ微笑みながら見ていた。
「浄化巡礼の出立が、予定より早まるようだ。」
ギリューと隣の部屋に移り、雪の侍女が紅茶とお菓子を用意してくれた後、2人で椅子に座ると、今後の予定の話をし始めた。
「やっぱり…。王都で魔獣が出たと聞いたので、ひょっとしたらと思ってたんですよ。」
「ユキ様は浄化の力を、もう何も問題なく使いこなせてるから、いつでも大丈夫って感じだからな。タクマ殿の方はどうだ?」
「タクマ様も問題ありませんよ。身体能力も獣人並みにあって、魔力も多いですが、コントロールもほぼ完璧にできてます。」
所謂"チート"かもしれないが、琢磨自身の努力もあるだろう。攻撃魔法の習得も早かった。 この様子だと、将来団長クラス迄登り詰めるかもしれないなと思う。
「まだ確定ではないが、今回の旅には私とミューが同行する事になると思う。それと、本当かどうか分からないが、第二騎士団長が今回の旅に同行したいと希望しているらしい。」
「はい?第二騎士団長?」
何であの第二騎士団長が同行するの!?
「私もよく分からないんだが…第二王子の護衛と言う事らしいが…ミュー、お前に借りがあるからとも言っていたぞ?」
ー借り逃げしてくれても良いのに。"貸し"にしたつもりもないけどー
「ま、とにかく、近いうちに指示が出ると思うから、準備だけはしておいてくれ。」
「分かりました。」
結局は、上で決定されない限りこれ以上の話もできなきので話は早々に終わってしまった。
気になるのはやっぱり…
「魔導師長やギリュー様が言ってた通り…タクマ様はユキ様に一線引いてる感じですね。」
2人でゆっくり話して欲しいと言った時、本当に琢磨は焦っていた。焦ると言うか…そう、嫌悪感だ。それなのに、雪の態度はその真逆。本当に嬉しそうな顔をしていたのだ。恐ろしいくらいに。私が知っている2人は…仲は良かったと思う。でなければ、付き合ってるなんて噂にならなかっただろう。私が死んでから、何かあった?
それでも、一緒に旅に出るからには、仲良くしてくれた方が良い。誤解や擦れ違いが起こっているのなら、今のうちに誤解などを解いておいて欲しいと思う。
「失礼致します。ギリュー様、ミュー様、魔導師長様がお2人をお呼びでございますが、どうされますか?」
天青離宮に来てから一時間程してから、雪付きの侍女が知らせに来た。
今日この時間、天青離宮で雪と琢磨とゆっくりさせると言う事を知っている筈なのに、魔導師長がわざわざ呼んでいると言う事は、緊急の何かがあったのかもしれないと、ギリュー様と顔を見合わせる。
「すまないが、ユキ様とタクマ殿に、緊急の要件ができたから、先に戻ると伝えてもらえるか?」
と、ギリューが侍女に伝えると、隣の部屋に居た筈の琢磨がこちらにやって来て
「俺も一緒に戻ります。」
「いや、ゆっくりしてもらっても…」
一緒に戻ると言う琢磨に、ギリューはゆっくりしてくれと言い掛けたが…琢磨の顔を見て口を閉じた。何と言うか…『疲労困憊です!』みたいな顔をしていたのだ。
ーえ?何があったの?ー
「「「……」」」
私もギリューも琢磨も、それ以上は何も言えなくて、3人揃って天青離宮を後にした。
そのまま琢磨は朱殷宮殿へ、ギリューと私は瑠璃宮殿へと戻った。
そして、今、ギリューと私は魔導師長の執務室に居る。
そして、何故か、私の目の前に第二騎士団長が居る。
ー何故だ!?ー
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