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第二章
実力
しおりを挟む「…おい…ミュー殿は…魔導師ではなかったか?私の記憶違いか?」
ここは朱殷宮殿にある訓練場を見渡せる一室。
その部屋には、魔導師長と第一騎士団団長とジョシュアと第二王子とレイナイト侯爵が居る。ミュー達の行動は全て見られていた。更に、訓練場には"影"を置いている。その"影"に通信用の魔法石を持たせているので、映像も音声も魔法石を通じて全て記録されているし、この部屋の机の上にある水晶にも映し出されていた。
伯爵家の令息でそこそこの魔力持ち。典型的なプライドだけが高いモーリアとアレクシス。リーデンブルク女神の加護がある為、表立って琢磨を攻撃する事はなかったが、何かにつけ『平民のくせに』や『聖女のおまけのくせに』など悪態をついていた。周りも注意はするものの、伯爵の令息と言う身分と、琢磨自身があまり気にしていない事もあり、2人が改心する様子がなかった。そんな中持ち上がったのが、朱殷宮殿の訓練場での琢磨の魔法指導。その指導者が平民のミューだ。何が起こってもおかしくない状況になるだろうと推測された。ならば…と、プライドだけが高く努力もしない者のプライドをへし折ってやろう!と言う事になった。騎士団の秩序を正す事と、異世界人の琢磨を守る為でもあった。特に、琢磨を巻き込んでしまっている為、この件には騎士団と魔導師団だけではなく、王族も関知していると言う意味で第二王子と国王陛下の側近であるレイナイト侯爵が同席する事になったのだ。
その思惑通り、ミューは騎士団長の意を汲みモーリアとアレクシスを魔法で捩じ伏せた。記録も取り、全員で見聞きしたので、これで2人を処罰できると思ったところで、まさかの木の剣での勝負。
ーミューは何を言っている?ー
と、その場に居た者達は思った…のだが…。
モーリアが次々に攻撃を加えるが、ミューはそれを次々に軽くいなし続ける。その状態が暫く続いたのだが、モーリアの攻撃が緩んだ瞬間、それを見逃さずミューがモーリアの右手を一気に打ち込み、そのままモーリアの手から木の剣が落ち、勝負がついたのである。
それを見た騎士団長が放ったのが、冒頭の言葉だった。
ー身体は覚えてるのねー
前世で警察だった父から、幼い頃から色んな武術を叩き込まれた。剣道に空手に薙刀…柔道だけは拒否したけど…。勿論、今世では一切やってはいない。でも、前世の記憶を思い出した時、武術を嗜んでいた事も思い出していた。鈍っているとは思ったが、この2人の力量なら勝てるのでは?と思ったけど…まさか、ここまで駄目駄目だったとは…。
「…何で…」
モーリアは片膝をつき、ミューに叩き込まれた右手首をおさえ、呆然とした顔をしながらミューを見上げ声を上げた。
「魔導師だから剣は扱えないと思いましたか?相手の力量も測れず、分からないのに無謀にも掛かって来たんですね?それって…騎士としては…失格では?更に、先程も言いましたが、私は上級位魔導師です。あなたは、目上の私に攻撃を仕掛けたんですよ?その意味、理解していますか?」
そこで、ようやく意味を理解したのか、モーリアの顔色が一気に青くなった。アレクシスに至っては真っ白になっている。
騎士としてのプライド位は残そうかと思っていたが、努力もせず傲慢な態度のモーリアに、魔力だけのくせにと言われて…そのプライドもバキバキに折ってやろうと思ってしまったのだ。
ーまぁ…多分、見ている人達は、これで満足してくれるだろうけどー
チラリと、監視をされてるだろう気配のある方向を見る。
「これで良いですか?」
と、少し大きめの声を出し問い掛ける。
「何が?」
と、モーリアが問い掛け、アレクシスは私が見ている方向を見遣る。
すると、ミューから少し離れた位置に魔法陣が展開され、そこから第一騎士団長と魔導師長が現れた。
「「団長!?」」
モーリアとアレクシスは、第一騎士団長の姿を確認すると、更に顔色を悪くした。
その第一騎士団長は、視線だけで人を殺せるような目で2人を見つめながら
「お前達の行動は全て見ていたし、記録もされている。言い逃れはできない。言い訳もさせない。お前達の処遇については、どんなものでも受け入れさせると…お前達の親から許可が降りている。」
成る程。この2人は残念子息だが、親はまともなようだ。改心?させる為にこの場を設けたのだろう。プライドをバキバキに折ってみたけど…大丈夫だったんだろうか?自業自得だけど。
「「……」」
親にも頼れないと分かり、2人は項垂れる。
「ところで…ミュー殿は剣術の心得があったのか?」
先程とは違い、優しそうな目をして第一騎士団長がミューを見ながら問い掛ける。
「…幼い頃にですが…父から教わりました。平民故に、危険な事もあるから自分の身は自分で守らなければならないと…。まぁ、その父も亡くなり、もう何年も剣すら握っていなかったのですが…。身体は覚えているものなんですね。」
嘘とホントを混ぜながら言う。
「成る程…。ミュー殿の父君は、良い腕前だったんだろうな。亡くなっていなければ、手合わせでもしてみたかった。」
と、第一騎士団長はニカッと豪快に笑った。
ーごめんなさい。その人、死んだのは死んだけど、この世界…この王宮内に居ますー
と心の中で謝って居ると、朱殷宮殿の方からその本人が第二王子とやって来るのが見えた。
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