初恋の還る路

みん

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第二章

無自覚なミュー

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えっと…魔導師長は、何か私に用があって図書室の地下室ここに来たのではないのだろうか?
レイナイト侯爵が出て行ったのだが、魔導師長が話し出す様子がなく…

「あのー…何か、私に用事でもありましたか?」

そこで、ようやく魔導師長が意識を取り戻したように動き出した。

「あぁ、すまない。まぁ、言いたい事は…レイナイト侯爵から聞いたみたいだな。タクマ殿の指導の事、宜しく頼む。」

「はい、分かりました…。」

「…嫌そうだな?」

「…滅相もございません…」

「「……」」

「…くくっ…」

ー嗤われたー

「何故そんなに嫌なのか分からないが…上の決定事項だからな。ま、頑張ってくれ。」

全く隠せていないが、笑いを堪えながら言ってくる。

「…笑っているの、全く隠せてませんからね?」

思わず口から零れた。

ー思わず口に出しちゃったよ…聞こえてないと良いなぁ…聞こえてるよね…ー

また何か言われるかと思ったが、魔導師長は何も言って来なかった。また、少し沈黙が続き…

「そろそろギリューも帰って来るだろうから、ミューも帰って来てくれるか?指導に関しての打ち合わせをしたい。」

「分かりました。では、ここを片付けてから上がりますので、魔導師長は先にー」

「いや、待ってるよ。」

ー何で!?しかも食い気味だしー

突っ込みたいのをグッと我慢する。何だろう…ちょっと遊ばれてるような雰囲気がする?フードを被ってるせいで、魔導師長の顔を見れないからよく分からないけど。でも…前よりも少しは元気になったのかな?

「ほら、手が止まってるぞ。」

「!すぐ片付けます!!」

慌てて片付け出した私を、また魔導師長は軽く笑った。









「本当に、貴族世界って面倒くさいのね。」

ティアナが呆れたように言う。

琢磨の指導に女である私が騎士団の訓練場に行く事と、伯爵家令息であるギリューが雪に付くと言う、王命に近い指示を聞いての反応だった。

「仕方無いんじゃない?爵位持ちの令息で上級位魔導師なんて、聖女付きになるには完璧だもの。文句も言われないだろうし。」

プライドだけが高くて傲慢な貴族も、この世の中には居る。そんな貴族は、聖女様付きの魔導師が平民となれば何かと文句を言って来るのだ。その点、ギリューは変わり者でも伯爵家の令息。表立って文句を言われる事はない。きっと、それがギリューが問題無く聖女様付きの魔導師になれた理由だろう。勿論、魔導師としての能力にも問題は無い。

「でも、問題はミューの方よね?何で騎士団の訓練場なの?何で男ばっかりの所に行かせるの?瑠璃宮殿うちの訓練場では駄目なの?」

ティアナは、どうやら私の心配をしてくれているらしい。可愛い上に優しい。

「タクマ殿に足を運んでもらうのが申し訳ないーと言うのは建前で、おそらく…タクマ殿以外にも魔力持ちの騎士が居るから、いっその事、そいつらもみてもらおう…みたいなところだろ?」

魔導師長が肩をすくめながら言う。

なるほど…と思う。思うが…

「平民の私でも大丈夫ですかね?まぁ、騎士は基本実力主義だろうけど…その前に、私みたいな不気味な魔導師でも大丈夫かな?ティアナみたいに可愛かったら少しは歓迎されかもしれないけど…」

「…何言ってるの?ミュー…」

呆れたような声でティアナが言う。

「確かに…平民だから馬鹿にしてくる奴も居るかもしれないが、ミューの実力を知れば文句を言って来る奴はすぐ居なくなるだろう。それに…不気味とか見目で何か言われたなら、フードを外せば良いんじゃないのか?多分…それで解決できると思うぞ?」

と、ギリューがフォローして来る。

「え?何でフードを外せば解決するの?」

フードを外すだけで解決するって…意味が解らない。

「「………」」

「え?何?何で無言?」

「なぁ…ティアナ…ミューは本気で言ってるのか?」

「多分本気ね。この子、自覚は全く無いから。」

「マジか…」

ティアナとギリューが、私の質問を完璧にスルーして2人でこそこそ話し出した。

え?酷くない?何でスルー?私の事心配してくれてなかった?
こそこそ話をする2人を、1人焦って見つめる私。

「まぁ…とにかく、ミューの実力は誰にも文句を言われる事はないから大丈夫だろう。何かあれば騎士団長か私に言ってくれ。すぐに対処しよう。
それで、早速なんだが…明日の昼から行ってくれるか?」

「本当早速なんですね…」

こそこそ話中のギリューとティアナを余所に、魔導師長が私に追い討ちを掛ける。

ー心の準備もへったくれも無いなー

「明日かぁ…私が付いて行ければ良かったんだけど…明日は王妃様の護衛があるのよね…」 

いつの間にか、私の近くに来ていたティアナが困った様な顔をしながら考え込む。

「ティアナ、心配してくれるのはありがたいけど、私は大丈夫よ?実力で黙らせて来るから。」

フードで見えないだろうが、淑女然りな顔で微笑む。

「ふふっ…。そうね、ミューならきっと大丈夫ね。何かされたりしたら、私にも言うのよ?」

と、黒い笑顔をするティアナだった。
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